第三十九話 双子として、相棒として

「こ、こんにちは」


「どうも」


 クロスは、あっけにとられているようで、おどおどとしながら、頭を下げる。

 珍しくだ。 

 だが、クロウは、いつも通り冷静に頭を下げた。


「こいつらが、双子の騎士だな?よく似てるじゃねぇか!!」


「ええ、ついに来ましたね」


 赤い髪の青年が、二人の元へと歩み寄り、まじまじと見る。

 双子の騎士は、珍しいのだ。

 しかも、光と闇、対になる属性の双子は。

 確かに、クロスとクロウは、よく似ている。

 性格は、正反対だが。

 青い髪の青年は、穏やかな表情で、丁寧な言葉を使って話す。

 それでも、待ちわびていたようだ。

 クロスとクロウが、ここに来る事を。


「へぇ、この子達が、まだ、子供じゃんっ!!」


「君もだよ、ね?ね?」


 緑の髪の少年が、腕を組みながら、呟く。

 クロスとクロウの事を子供だと言うが、緑の髪の少年の方が幼く見える。

 自分達よりも、年下のように思えるのだが。

 黄色の髪の青年が、緑の髪の少年の頭をポンポンと触れて、問いかける。

 マイペースな性格のようだ。


「えっと……」


 クロスは、戸惑ってしまった。

 自己紹介をしなければならないのだが、うまく、言葉が出ない。

 だが、それは、クロウも同じのようだ。

 クロウも、珍しく、緊張し始めていた。


「おいおい、最初に、紹介しろ」


「そうだったな」


 フランクは、赤い髪の青年達に、自己紹介するよう促す。

 クロスとクロウの反応を目にして、察したのだろう。

 二人が、緊張していると。

 ヴィクトルは、うなずき、笑みを浮かべていた。


「初めましてだ。俺様は、火の騎士・ヴィクトルだ。よろしく」


 赤い髪の青年が、自己紹介をし始める。

 彼の名は、ヴィクトルと言うらしい。 

 しかも、火の騎士のようだ。

 ヴィクトルは、ぐっと、親指を立てる。

 豪快な性格かと思いきや、気さくなようだ。

 そう思うと、クロスとクロウは、安堵していた。

 兄のように思えたのだろう。


「私が、水の騎士のフォルスです。以後、お見知りおきを」


 青い髪の青年が、頭を下げて、挨拶を交わす。

 しかも、ご丁寧に。

 彼の名は、フォルスと言うようだ。

 水の騎士らしい。


「オレは、風の騎士のルゥだっ。よろしくなっ!」


 緑の髪の少年は、笑みを浮かべて、自己紹介をする。

 しかも、元気よく。

 そう言うところは、少年らしい。

 彼は、ルゥと言う名で、風の騎士のようだ。


「僕は、地の騎士・ジェイクだよ。よろしく、よろしく」


 黄色の髪の青年が、手を振りながら、自己紹介をする。

 本当に、マイペースのようだ。

 同じ言葉を二回繰り返すが、癖なのだろうか。

 彼は、ジェイクと言う名であり、地の騎士であった。


「光の騎士のクロスです」


「闇の騎士のクロウだ。よろしく」


 クロスとクロウは、自己紹介をした。

 しかも、笑みを浮かべて。

 どうやら、緊張も解けたようだ。

 彼らが、気さくに自己紹介してくれたからであろう。

 クロスとクロウの様子を見たヴィクトル達は、穏やかな表情を浮かべた。

 彼らを迎えてくれるかのように。


「俺様達は、海賊と連携を組んで、島を守ってる。最強のタッグってわけだ」


「あんた達は、海賊じゃないのか?」


「そうだ」


 ヴィクトルは、クロウとクロウに説明する。

 彼らは、騎士なのだが、海賊ではないらしい。

 海賊とタッグを組んでいる騎士のようだ。

 クロウは、海賊だと思っていたようで、問いかける。

 なぜなら、彼らは、フランクと同じ、白い海賊のコートを羽織っていたからだ。

 ゆえに、海賊なのだと、思い込んでいた。


「海賊のコートを着てるのに?」


「これは、借りてる。フランクさんにな」


 クロスは、違和感を覚えたようだ。

 当然であろう。

 ヴィクトル達は、フランクと同じ、白い海賊のコートを羽織っている。

 違うというのであれば、なぜ、同じコートを羽織っているのだろうか。

 ヴィクトル曰く、フランクに借りているらしい。

 何か、理由があるようだ。


「本当は、海賊になってほしいんだがな。特にこいつには、俺の後を継いでほしいんだ。だから、貸してやってんだ」


「悪いが、俺様は、海賊にならないぜ」


 フランクがその理由を明かす。

 実は、ヴィクトル達には、海賊になってほしいのだ。

 彼は、ヴィクトルに、次の海賊の長になってい欲しいと願っている。

 それほど、彼らは、強いのだろう。

 フランクが、認めるほどに。

 だから、いつでも、海賊として、生きられるように、コートを貸しているのだ。

 もちろん、海賊とタッグを組んでいると証にもなる為。

 ヴィクトルは、継ぐつもりも、海賊になるつもりもないらしいが。


「なんだ?嫌なのか?」


「違うな。あんた以上に強くなれないからさ」


「謙遜しやがって」


 フランクは、残念そうに問いかける。

 それほど、海賊になるのが嫌なのだろうか。 

 海賊と言うと、印象が悪い。

 だからなのだろうか。

 フランクの問いに、ヴィクトルが、首を横に振って、答える。

 単に、フランクよりも、強くなれないと思い込んでいるからだ。

 ゆえに、自分が彼の後を継ぐのは、おこがましいと思っているのだろう。

 フランクは、強く、願っているのだが。


「てなわけだ。このエデニア諸島は、俺様達と海賊が、守ってる」


「もちろん、ヴァルキュリアと協力する事もありますけどね」


「ヴァルキュリア……」


 ヴィクトルは、改めて、説明する。

 と言っても、簡単にだが。

 エデニア諸島は、騎士と海賊が守っているのだと。

 フォルスが、丁寧に、説明を付け加える。

 守っているのは、彼らだけではない。

 帝国に住むヴァルキュリア達も、共に戦ってくれているのだ。

 妖魔を倒す力を持つ少女達が。

 「ヴァルキュリア」と言う言葉を聞いたクロスは、うつむく。

 何かを思い出すかのように。


「ん?どうしたんだよっ」


「なになに?気になる事があるのかな?」


「あ、はい」


 クロスの様子が気になったのか、ルゥが、問いかける。

 ジェイクも、気になったようだ。

 「ヴァルキュリア」の事が気になるのではないかと、推測して。

 問いかけられたクロスは、うなずく。

 ずっと、気になっていた事があるのだ。

 この前、試練を受けていた彼女達は、無事にヴァルキュリアになれたのかと。


「新しいヴァルキュリアが、誕生したとか、聞いてないか?」


「おう、聞いたぜ。華と雷のヴァルキュリアだな」


 クロウは、クロスが、なぜ、気になったのか、察したようで、代わりに問いかける。

 新しいヴァルキュリアの事を。

 ヴィクトル達は知っているようだ。

 華と雷のヴァルキュリアが誕生したらしい。

 彼女達の髪の色は、ピンクと菫色。

 華属性と雷属性の者の髪の色と同じだ。

 と言う事は、彼女達が、ヴァルキュリアになったのだろうか。


「名前は?」


「まだ、聞いてねぇな」


「そうか……」


 クロウは、続けて、問いかける。

 名前を知っているかどうか知りたいのだ。

 だが、ヴィクトル達は、知らないらしい。 

 まだ、と言う事は、今後、知らされるのだろう。

 クロウは、少々、残念がった。

 あとでわかるとは思うが、今、知りたかったからだ。


「そいつらが、気になるのか?」


「はい、そうですね」


 ヴィクトルが、聞き返す。

 彼らの心情を見抜いたようだ。

 クロスは、答える。

 戸惑いながらも。


「そのうち、会えるだろうな。共闘する日が来るだろうし」


「共闘、か……」


 ヴィクトルは、そのうち会えるのではないかと、推測しているらしい。

 何度も、ヴァルキュリア達とは、共闘しているからだ。

 騎士も、ヴァルキュリアの力が、必要だ。 

 もちろん、ヴァルキュリアも、騎士の力が必要である。

 お互い、なくてはならない存在であった。 

 だからこそ、新しいヴァルキュリアと、共闘する日が来ると推測したのだ。

 クロスは、静かに、呟いた。

 その日が来るのを楽しみにして。


「と言うわけだ。よろしく頼むぜ。クロス、クロウ」


「ああ」


「はい」


 ヴィクトル達は、改めて、クロスとクロウを迎えてくれた。

 クロスとクロウは、微笑んでうなずく。

 こうして、ヴィクトル達と共同生活が始まろうとしていた。

 騎士として、島を守るために。

 


 その日の夜。

 クロスとクロウは、同じ部屋にいた。

 騎士は、一人部屋が多いのだが、二人は特別だ。 

 二人は、兄弟であり、双子なのだから。


「とうとう、だな」


「ああ」


 クロスは、改めて、気付かされた。

 とうとう、騎士として、生きてくのだと。

 クロウも、同じことを思っていたようで、うなずいた。


「頑張らないと、な」


「大丈夫だ」


「え?」


 クロスは、気合を入れるかのように、呟く。 

 と言っても、不安のようだ。

 表情が、少々、暗い。

 当然であろう。

 ここからは、命がけの戦いとなるのだから。

 だが、クロウは、大丈夫だと告げる。

 なぜ、そう思えるのだろうか。

 クロスは、驚き、クロウの方へと視線を向けた。


「お前とだったらな」


「そうだよな」


 クロウは、クロスと共に戦う。

 だからこそ、不安に駆られてなどいなかったのだ。

 双子だからこそ、わかるのだろう。

 クロスと一緒なら、怖いものなどないのだと。

 それを聞いたクロスは、穏やかな笑みを浮かべる。

 クロウの言う通りだ。

 クロウと共に戦うのだから、不安に思う事など何一つないのだと。


「頼むぜ、相棒」


「ああ、相棒」


 クロスとクロウは、互いのこぶしを静かにぶつけ合う。

 双子として、相棒として。

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