第三十八話 レージオ島へ

 数日後、フォウが、ルーニ島に戻ってきた。

 フォウ曰く、三日後にクロスとクロウは、レージオ島に行くことになったのだ。

 そこで、他の騎士達と暮らし、レージオ島を中心に、エデニア諸島を守る事になる。

 レージオ島は、他の島と異なり、結界が張られていない。

 ゆえに、最も、危険な島なのだ。

 クロスとクロウは、騎士として、レージオ島に住み、他の島も、守る事となった。

 ついに、旅立ちの日が訪れた。

 クロスとクロウは、レージオ島行の船に乗ろうとしている。

 フォウ、アストラル、ニーチェ、ルーニ島の民が、クロスとクロウを見送りに来た。


「行ってくる」


「うむ。気をつけていくんじゃぞ」


 クロスとクロウが、船に乗り込む。

 クロウが、振り向いて、先に告げると、フォウは、微笑みながら、うなずいた。

 祖父として、シャーマンとして、見送っていたのだ。


「皆に、迷惑かけんようにな」


「うん」


 フォウは、忠告する。

 騎士の皆に、迷惑をかけないようにと。

 もちろん、迷惑をかけるつもりはない。

 クロスは、静かにうなずいた。


「ちゃんと、ご飯を食べるんじゃぞ」


「わかってる」


 フォウは、さらに、ご飯をしっかりと食べるように忠告する。

 普段は、アストラルやニーチェが、ご飯を作ってくれるのだが、次からは、自炊になる可能性もある。

 フォウが、クロスとクロウを育ててきたが、今度は、自立しなければならないのだ。

 クロウも、その事はわかっており、静かにうなずいた。


「あと、それから……」


「フォウ様、そのくらいにしておきましょう」


「そうだ。二人は、大人だ。フォウが、思っている以上にな」


「そ、そうじゃの」


 フォウは、続けて、忠告しようとするが、アストラルとニーチェが止める。

 クロスとクロウは、子供だが、自分達が思っている以上に大人だ。

 だからこそ、言わなくても、わかっていると推測したのだろう。

 フォウは、戸惑いながらも、納得し、うなずいた。


「元気でな」


「ああ」


「また、戻ってくるよ」


「待っておるぞ」


 フォウは、二人を見送る決意を固める。

 祖父として、シャーマンとして。

 クロウは、静かに、うなずき、クロスは、戻ってくることを約束した。

 それを聞いたフォウは、嬉しそうに微笑んでいて。

 孫が、成長して、戻ってくるのを待ちわびているかのように。

 クロスとクロウが、船に乗ると、船は出航した。

 こうして、クロスとクロウは、旅立っていった。

 フォウ達は、いつまでも、彼らを見送っていた。


「行ってしまいましたね」


「寂しくなるのぅ」


 アストラルは、寂しそうに語る。 

 すると、フォウが、涙を流し始めた。

 仕方がないとはいえ、やはり、寂しいのだろう。

 孫が巣立ってしまったのが。


「止めても、良かったんじゃないのか?」


「駄目じゃ。あの子らの為、じゃからのぅ」


 ニーチェは、フォウに問いかける。

 確かに、クロスとクロウが、騎士になると決意したきっかけは、フォウが、カイリに騎士になる方法を聞いたからだ。

 だが、それは、彼ら自身を守るためでもある。

 ゆえに、フォウは、寂しさを押し殺し、涙をぬぐった。


「頑張るんじゃぞ」


 フォウは、静かに、二人にエールを送った。

 二人なら、騎士として、立派にやってくれると信じて。



 一日が経ち、船は、レージオ島にたどり着く。

 クロスとクロウは、船を降り、レージオ島に降り立った。


「ここが、レージオ島だな」


「ああ」


 クロスは、あたりを見回す。

 レージオ島は、他の島とは違う。

 それは、島の中心にドーム型の建物が立っている事だ。

 結界が張られていないため、妖魔の侵入を防ぐために、建てられたものだ。

 クロウも、珍しそうにその建物を見上げていた。


「他の島に行くのは、初めてだな」


「そうだな」


 クロスとクロウは、ルーニ島から、出た事はない。

 ゆえに、他の島に行くのは、今日が初めてなのだ。

 クロスに語りかけられたクロウは、うなずいた。

 全てが、初めてになるのだ。  

 島も、生活も。

 

「緊張してるのか?」


「少し。クロウは?」


「あまり」


 クロウは、クロスに問いかける。

 気付いているようだ。 

 クロスが、緊張気味だという事に。

 見抜かれたクロスは、クロウに問いかける。

 やはり、予想通りと言ったところであろうか。

 クロウは、緊張していないようだ。


「さすがだなぁ。うらやましいよ」


「え?」


「だって、いつも、冷静だから。俺、そう言うの苦手だし」


 クロスは、クロウを羨ましがる。

 なぜなら、クロウは、常に冷静だからだ。

 クロスは、冷静になれない。

 感情を表に出してしまうのだ。

 それゆえに、正確な判断ができない時がある。

 クロウは、それができる為、羨ましかった。


「そうか?」


「うん」


 クロウは、クロスに問う。

 自覚はないようだ。

 羨ましがられるほどではないと思っているのだろう。

 クロウの問いにクロスは、正直にうなずいた。


「行こうか」


「ああ」


 クロスは、歩き始める。

 ドームに入ろうとしているのだ。

 クロウも、続けて、歩き始めた。


――俺は、お前の方がうらやましいと思うぞ。クロウ。


 クロウは、クロスの方がうらやましく感じていたのだ。

 クロスに明かす事はなかったが。

 ずっと、そう思っていた。

 幼い頃から。


――お前は、ちゃんと、感情をうまく出してる。俺は、苦手だから。


 クロウは、感情を表に出せず、不器用だ。

 ゆえに、優しく言う事もできない。

 他人に勘違いされがちだ。

 だが、クロスは、優しい言葉を素直にかけられる。 

 それは、クロウにとって、本当に羨ましい事だった。



 クロスとクロウは、ドーム内に入ると、島の民が、二人を出迎えてくれた。

 二人を案内してくれるようだ。

 クロスとクロウは、島の民の案内で、奥の建物にたどり着いた。

 その建物の中に、レージオ島を統治している者がいるようだ。


「どうぞ、こちらへ」


「失礼します」


 島の民は、クロスとクロウを案内する。

 クロスは、頭を下げ、クロウは、静かに入った。

 すると、彼らを出迎えてくれたのは、白い海賊のローブを羽織っている髭を生やした青年であった。


「おう、来やがったな。若造ども!」


 青年は、威勢の良い声で、クロスとクロウを出迎えてくれる。

 言葉遣いは、雑だが、一応、歓迎してくれているようだ。


「ど、どうも」


「初めまして。俺が、クロウで。こいつが、双子の弟のクロスだ」


「おう、初めましてだ」


 クロスは、少々、緊張しながら、頭を下げる。

 反対に、クロウは、冷静に自己紹介した。

 もちろん、緊張しているクロスの事も紹介して。

 青年は、にっと笑い、クロスとクロウの頭を撫でた。

 カイリとは違って、豪快に。


「俺は、フランクだ。精霊人で、海賊の長をやってる」


「海賊?」


 青年は、自己紹介した。

 なんと、彼は、精霊人であり、海賊の長だというのだ。

 だが、クロスとクロウは、海賊と言う言葉を聞いた事がない。

 御伽噺でしか。

 実在するとは、思わなかったのだろう。

 ゆえに、クロスは、首を傾げた。


「なんだ?フォウは、何も言わなかったのか?」


「あ、ああ」


 二人の反応を目にしたフランクは、がっかりしているようだ。

 フォウから自分達の事を聞いていないのかと。

 クロウは、戸惑いながらもうなずいた。

 フォウは海賊が、実在している事を知っていたのかと、悟って。


「エデニア諸島を守る正義の海賊さ。騎士の奴らと、共闘してるんだぜ?」


「覚えておく」


「おうよ!!」


 フランクは、説明する。

 と言っても、端的だが。

 彼らは、正義の海賊だったのだ。

 クロスとクロウが、知っている海賊とは違う。

 おとぎ話に出てくるような悪ではないらしい。

 それは、本当であった。 

 妖魔と戦う為に結成された組織だったのだ。

 説明されたクロウは、覚えると答えた。

 フランクを見る限り、嘘をついているとは、思えない。

 ゆえに、信じたのだろう。 

 フランクは、にっと、笑い、うなずいた。


「さて、おしゃべりは、ここまでだ。あいつらの事、紹介してやらねぇとな」


 フランクは、自分に関する説明を終えて、他の騎士達の事を、紹介すると告げる。

 いよいよ、ご対面だ。

 彼らは、どんな人達なのだろうか。

 フランクのように、海賊をやっているのだろうか。

 どれほど強いのだろうか。

 クロスとクロウは、緊張しつつも、楽しみにしていた。

 騎士達に会えることを。


「ついてきな」


 フランクは、クロスとクロウを連れて、部屋を出る。

 そして、向かい側の部屋へと入っていった。

 意外と、すぐ近くで、待機していたようだ。


「よう、連れてきたぜ」


「ありがとうございます」


 フランクが、部屋に入る。

 すると、赤い髪の青年、青い髪の青年、緑の髪の少年、黄色の髪の青年が、待っていた。

 しかも、フランクと同じ、白い海賊のコートを身に纏って。

 赤い髪の青年は、フランクに感謝の言葉を述べる。

 丁寧な口調で。

 クロスとクロウも、続けて、部屋に入った。


「ようこそ、光と闇の騎士よ」


 赤い髪の青年が、クロスとクロウを出迎えた。

 彼らこそが、二人と同じ、騎士であった。

 こうして、二人は、騎士と対面を果たしたのであった。

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