第三十七話 騎士として
試練が終わった後、祝賀会が行われた。
どの村でもだ。
それほど、うれしかったのだろう。
二人も、騎士が誕生したのだから。
それも、最年少騎士が。
クロスとクロウも、祝福され、うれしかった。
そして、決意を固めたのだ。
騎士となってお互いを守り、島の民を守ると。
カイリは、二人を見守りつつ、静かに、帝国へ戻っていった。
翌日、クロスとクロウは、目覚め、朝食を食べていた。
アストラル、ニーチェと共に。
「ようやく、スタートラインに立ったってことだな」
「そうだな」
古の剣を目にしたクロスとクロウ。
晴れて、騎士になれたが、まだ、スタートラインに立ったばかりだ。
ここからが、過酷な戦いになるであろう。
クロスとクロウにとって。
クロスのつぶやきに、クロウは、うなずいた。
それも、静かに。
「それで、俺達は、どうすればいいんだ?レージオ島に行くんだよな?」
「そうです。レージオ島にいるフランクさんの指示で、動くことになります」
「今は、フォウが、報告に行っている。だから、騎士として、本格的に、動くことになるのは、数日後だろうな」
クロスは、アストラル達に問いかける。
これから、どうすればいいのか。
もちろん、妖魔や妖獣達と戦うつもりだ。
二人は、そのために、騎士になったのだから。
だが、騎士はレージオ島に行くことになっている事を知っている二人は、いつ、レージオ島に行くのか、気になっているのだろう。
クロスの問いに、アストラルは、静かに、答える。
レージオ島にいるフランクと言う者の下で動くことになるようだ。
ニーチェも、続けて説明する。
フォウが、二人が気にしなった事を報告する為に、レージオ島に向かっているようだ。
だから、フォウは、いなかったのだ。
話を聞いたクロスとクロウは、納得していた。
「それまでは、ここをお願いしますよ」
「わかった」
「ここを絶対に守るよ」
アストラルは、クロスとクロウに託した。
彼らなら、この島を守ってくれると信じて。
フォウが、戻ってくるまで、二人が、レージオ島に行くまでは。
もちろん、そのつもりだ。
クロウとクロスは、うなずいた。
「でも、カイリ、また、戻っちゃったな」
「仕方がないさ。カイリは、忙しいし」
クロスは、寂しがっているようだ。
カイリが、帝国に戻ったから。
だが、仕方がない事であった。
カイリは、皇子だ。
頻繁にここに来れるわけではない。
クロウは、知っている為、クロスを諭した。
「また、会えるよな?」
「ああ、きっとな」
クロスは、クロウに尋ねる。
カイリと会えることを信じているようだ。
もちろん、クロウも、そう思っていた。
だが、この時、まだ、二人は、気付いていなかった。
カイリと再び会う時は、敵同士になっているとは。
数日後、いつも通りに、過ごしている二人。
と言っても、もちろん、巡回をして、島を守っていた。
フォウが、戻ってくるまで。
だが、アストラルとニーチェから、ある事を告げられた。
それは、ヴァルキュリアの試練を受ける為に、二人のヴァルキュリア候補の少女が、この島を訪れるという話であった。
「え?ヴァルキュリアの試練?」
「そうみたいですよ」
クロスは、驚く。
まさか、ヴァルキュリア候補が、ここに来て、試練を受けるとは、思いもよらなかったのだろう。
数日前、自分達も、同じように、試練を受けたばかりだというのに。
クロスの問いに、アストラルは、微笑みながら、うなずいた。
「昨日、妖獣が、出現してな。そいつらを倒させるらしい。そのヴァルキュリア候補に」
「そうか……じゃあ、俺達は、手出ししないほうがいいってことか」
「そうなるな」
ニーチェは、静かに説明した。
妖獣が、再び、出現したらしい。
だが、帝国は、その事を知っているようだ。
調べていたのだろう。
試練にふさわしい場所を。
そのため、あえて、倒させずに、ヴァルキュリア候補に倒させることにしたのだ。
もちろん、危険であるため、帝国兵が、ルーニ島を訪れている。
島の民が、殺されないようにと。
説明を聞いたクロウは、自分達は、何もせず、試練が終わるのを待つしかないと、悟った。
「大丈夫かな……」
「大丈夫だと思いますよ。帝国兵の方も、同行するようですし」
「なら、良いんだけど……」
クロスは、ヴァルキュリア候補の事を心配しているようだ。
妖獣と言えど、強敵もいる。
苦戦する者達もいるのだ。
だが、アストラルは、帝国兵が、同行する為、心配ないだろうと告げる。
それでも、クロスは、心配しているようだ。
クロウは、クロスの心情を察していた。
「気になるのか?」
「あ、うん」
クロウは、クロスに問いかける。
やはり、気になっているようで、クロスは、うなずいた。
「なら、行ってみるか?」
「え?でも……」
クロウは、クロスを誘う。
彼女達の様子を見に行くかと。
だが、クロスは、ためらっているようだ。
心配しているとはいえ、助けたら、試練の邪魔をしてしまうのではないかと、懸念して。
「たとえ、試練であっても、見守り、助けるのが、騎士の役目だと、俺は、思ってる。カイリだったら、そうするだろうしな」
「そうだよな」
クロウは、諭す。
試練であっても、騎士として、見守り、助けるべきだと思っているようだ。
仮に、カイリが同じ立場であったら、同じことをするのではないかと。
クロスは、うなずき、立ち上がる。
ヴァルキュリア候補を見守るために。
外に出て、遺跡付近まで、到達したクロスとクロウ。
アストラル、ニーチェも、同行していた。
だが、その時であった。
「あ、あれは……」
クロスは、驚愕する。
なんと、妖獣達が、ピンクの髪の少女と菫色の髪の少女を取り囲んでいるのだ。
兵士達は血を流して倒れている。
かなり、危険な状態だ。
「まずいな」
「うん」
クロスとクロウは察した。
このままでは、二人の少女は、殺されてしまうだろう。
アストラル、ニーチェも、同じことを思ったようで、クロスとクロウに向けて、視線を送り、うなずく。
クロスとクロウがうなずくと、アストラルとニーチェは、村の方へと戻った。
助けを求めるつもりなのだろう。
怪我を負った帝国兵を助けるために。
「やるぞ、クロウ!!」
「わかった!!」
クロスとクロウは、古の剣を鞘から引き抜き、妖獣達の元へと向かっていった。
二人の少女に襲い掛かる妖獣。
だが、妖獣よりも早く、クロスとクロウが、妖獣を切り裂く。
間一髪であった。
「え?」
「何が、起こって……」
二人の少女は、あっけにとられるようだ。
当然であろう。
試練の最中だというのに、誰かが、妖獣を切り裂いたのだ。
状況が把握できず、困惑している。
二人の前に、クロスとクロウが、立った。
彼女達を守るために。
「大丈夫?」
「あ、はい……」
クロスは、ピンクの髪の少女の方へと振り向き、優しく問いかける。
ピンクの髪の少女は、戸惑っているようだ。
それでも、うなずいた。
おうやら、怪我はないらしい。
ピンクの髪の少女の答えを聞いたクロスは、安堵していた。
無事でよかったと。
「来るぞ。構えろ」
「わかった」
クロウは、冷静な表を向けてしまう。
不器用だったのだ。
クロスとは違って。
だが、紫の髪の少女は、反発することなく、構える。
ピンクの髪の少女も。
どうやら、クロウの優しさに気付いたようだ。
そう思うと、クロスは、安堵していた。
クロウは、よく、勘違いされがちだったから。
クロスとピンクの髪の少女も、構える。
そして、クロス達は、地面を蹴り、妖獣達に向かっていった。
しばらくして、妖獣達は、全滅した。
クロス達は、連携を取り、妖獣達を追い詰めていったのだ。
それにより、誰一人、殺されることなく、無事であった。
「ふぅ、助かった」
「そうだな」
ピンクの髪の少女は、息を吐き、汗をぬぐう。
緊張していたのだろう。
当然だ。
帝国兵が、妖獣に倒されてしまったのだから。
一時は、死を覚悟していたのかもしれない。
紫の髪の少女も、安堵したのか、息を吐き、心を落ち着かせていた。
「二人とも、怪我はない?」
「あ、はい」
「良かった」
クロスが、二人の元へと歩み寄り、問いかける。
心配していたのだ。
そんな彼に対して、ピンクの髪の少女は、強くうなずく。
本当に、怪我はないようだ。
クロスは、安堵したのか、笑みを浮かべた。
「でも……」
確かに怪我はない。
だが、ピンクの髪の少女は、視線を別の方向へと向ける。
血を流している帝国兵を見ているのだ。
死んでいると思っているのだろう。
彼女達は、自分を責めているようだ。
「大丈夫だ。まだ、生きてる」
「え?」
彼女達の心情を察したのか、クロスが、少女達の元へ歩み寄り、教える。
帝国兵は、まだ、生きていると。
話を聞いた少女達は、驚きを隠せない。
証明するかのように、クロスが、何も言わず、指を指す。
少女達は、視線を変えると、なんと、帝国兵達は、立ち上がっていた。
怪我も癒えている状態で。
「本当だ」
「いつの間に……」
ピンクの髪の少女は、あっけにとられているようだ。
帝国兵は、死んだと思い込んでいたのだろう。
だが、菫色の少女も、驚きを隠せないようだ。
いつの間に、傷が癒えていたのか、見当もつかないようであった。
「重傷だったけど、俺達が、戦っている間に、皆が治してくれたんだ」
クロスが、彼女達に説明する。
自分達が、戦っている間に、アストラルとニーチェが、助けを呼び、島の民が、駆け付けてくれたのだ。
そのおかげで、帝国兵の傷は癒え、生き延びることができたのだろう。
「ありがとうございます!!」
「本当に、助かりました」
「いいって」
ピンクの髪の少女は、頭を下げる。
本当に、喜んでいるようだ。
菫色の髪の少女も、静かに微笑んだ。
彼女達の笑みを目にしたクロウは、笑みを浮かべる。
穏やかな表情で。
「気をつけろよ。ここは、危険だ」
「はい」
反対に、クロウは、忠告する。
心配しているのだが、不器用の為、詰めた言い方しかできない。
勘違いされてもしたかがない。
クロウは、そう思っていた。
だが、意外な事に、ピンクの髪の少女は、クロウの優しさに気付いているようで、笑みを浮かべる。
ピンクの髪の少女の笑みを目にしたクロウは、思わず、目を背け、歩き始めた。
照れてしまったのだ
クロスも、少女達に手を振りながら、去っていった。
「無事でよかったな」
「うん」
クロウは、安堵しているようだ。
少女達が無事で。
クロスも、うなずき、微笑んでいた。
「ねぇ、あの子って……」
「似てるな、あいつに」
クロスは、クロウに問いかける。
実は、気になっていたのだ。
ピンクの髪の少女の事が。
幼い頃に一緒に遊んだ少女とよく似ている。
クロウも、同じことを思っていたようで、うなずいた。
だが、この時、まだ、二人は、知らなかった。
また、彼女達と再会を果たすことになろうとは。
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