第三十五話 夢を語る

 翌日から、クロスとクロウの特訓が始まった。

 島の民は、クロスとクロウの為に、訓練相手になってくれたのだ。

 剣の才能があったのか、クロスとクロウは、急成長していた。

 強くなっていったのだ。

 カイリも、時間がある限りは、ルーニ島を訪れ、剣の特訓相手になって、クロスとクロウに協力した。


「えいっ!!」


 クロスが、剣を振り下ろす。

 だが、カイリは、素早く、回避した。

 彼らの為に、全力で特訓に付き合っていたのだ。

 彼らが、成長できるようにと。


「はっ!!」


 クロウが、続けて、突きを放つ。

 だか、カイリは、今度は、剣を前に出して、クロウの剣をはじいた。

 クロウは、よろめきかけるが、歯を食いしばり、耐え抜いた。


「どうした!二人とも!!それで終わりか!」


 カイリが、叫ぶ。

 もちろん、これで終わるはずがない事はわかっている。

 だが、あえて、厳しい言葉を投げかけたのだ。

 二人の為に。


「まだまだ!!」


「やってやる!!」


 カイリの想いに応えるように、クロスとクロウは、剣を握りしめ、構えた。

 全力でカイリに勝つために。

 カイリに向かっていく二人。

 カイリは、二人と向き合い、最後まで、特訓に付き合った。



 結局、二人が、カイリに勝つことはできなかった。

 それほど、カイリが、強いという事であろう。

 さすがは、皇子と言ったところであろうか。


「よし、今日はここまでだ!」


 特訓開始から、一時間が経った。

 カイリは、特訓を終わらせることにした。

 あまり、クロスとクロウに負担をかけたくなかったのだ。

 そろそろ、二人の体力が、切れてしまう事も考えたのだろう。


「もう、ちょっと、やろうよ!」


「俺も、まだ、戦える」


 クロスは、納得していないようだ。

 もう少しだけでいい。

 特訓がしたいと、カイリにせがんだ。

 クロウも、まだ、戦えると思っているようだ。

 静かに、構える。

 強くなるために。


「そうしたいところなんだけど……」


 カイリは、困っていた。

 実は、そろそろ、帝国に戻らなければならないのだ。

 仕事をしなければならないのだ。

 皇子として。

 ギリギリまで、特訓に付き合っていたが、そろそろ、戻らなければ、間に合わない。

 だが、二人の気持ちにも応えてやりたい。

 ゆえに、カイリは、困惑していた。


「二人とも、カイリ皇子を困らせるんじゃないぞ」


「はーい」


「はい」


 フォウは、クロスとクロウを叱る。

 カイリが困っているのを見たからであろう。

 皇子であるカイリは、帝国へ戻らなければならないと、フォウも、わかっているのだ。

 二人の為に、時間を割いてくれた。

 それだけでも、ありがたい事だ。

 クロスは、しぶしぶ、うなずき、クロスは、静かにうなずいた。

 二人は、納得がいってないようだが。


「ごめんな」


 カイリは、二人の頭を優しく撫でた。 

 兄のように。

 クロスとクロウは、にっと、笑みを浮かべた。

 もっと、特訓に付き合ってほしいが、カイリは、忙しい。

 その事を少々、理解しているようだ。


「でも、カイリって強いよな」


「ああ。どうしたら、そんなに強くなれるんだ?」


 クロスとクロウは、カイリと特訓して、カイリの強さを思い知った。

 どうしたら、自分達も、カイリのように、強くなれるのだろうか。

 クロウは、強くなりたいがために、カイリに問いかけた。

 どうしても、知りたくて。


「そ、そうだなぁ」


 カイリは、戸惑い始める。

 一体、どうしたのだろうか。

 何か、おかしな質問をしたのだろうか。

 クロスとクロウは、互いを見やり、首を傾げた。


「私は、そんなに強いほうじゃないぞ」


「そんなことないと思うけど」


「俺も、カイリは強いと思う」


 カイリは、クロウの質問に答える。

 自分は、そんなに強くはないのだと。

 クロスとクロウが思っているよりも。

 だが、クロウは、そうは、思っていない。

 カイリは、強いと思っているのだ。

 もちろん、クロスもだ。


「私は、まだまだだ。二人と同じ年くらいの時は、本当に、弱かったんだぞ」


「そうなのか?」


「ああ。だから、自信、持て」


 カイリは、語る。

 クロスとクロウの年の頃は、まだ、カイリは、弱かったというのだ。

 と言っても、カイリの年齢は140歳だ。

 精霊人であるがゆえに、長寿だ。 

 ゆえに、約130年前の話の事なのだが。

 その事をクロスとクロウは、まだ、知らない。

 そのため、クロウは、カイリに問いかけた。

 疑っているのだろう。

 それでも、カイリは、二人を励ました。

 本当に、二人の強さをカイリは、知っているがゆえに。


「二人は、連携をとれるようになったら、私に勝てるかもしれないぞ」


「連携?」


「そうだ。お互いの事をしっかりとわかった上で戦えば、より、強くなれるはずだ」


 カイリは、クロスとクロウにアドバイスを送る。

 自分に勝つための必勝法を。

 二人は、連携をとれば、自分に勝てると推測しているようだ。

 クロスは、カイリに問いかける。

 連携を取るとは、どういう意味なのだろうかと。

 カイリは、優しく、教えた。

 互いの事を知り、互いの考えていることを読み取ったうえで、戦う事で、強くなれるのだと。


「わかった。やってみる」


「頑張れよ」


 クロウは、決意を固めた。

 クロスと連携を取り、いつか、カイリに勝つと。

 カイリは、その日が来るのを楽しみにしているようだ。

 笑みを浮かべて、二人の頭を撫でて、帝国へと戻っていった。



 一か月後、カイリは、再び、ルーニ島を訪れた。

 すぐさま、クロスとクロウの特訓に付き合ったカイリ。

 すると、二人の戦い方は、変わっていた。

 連携を取るようになったのだ。

 二人の連携にほんろうされるカイリ。

 そして、ついに、カイリは、剣を弾き飛ばされた。

 クロスとクロウは、カイリに勝てたのだ。


「おおっ!!強くなれたじゃないか」


「うん、カイリのおかげでな」


「助かった」


 カイリは、嬉しそうだ。

 いや、うれしいのだろう。

 一か月と言う、短期間の間に、二人は、急成長を遂げたのだ。

 自分を超えたのだ。

 一人で戦っても、おそらく、自分に勝てるようになるだろう。

 カイリは、そう、信じていた。

 カイリに褒められたクロスは、嬉しそうだ。

 クロウも、微笑んで、うなずいた。

 カイリのおかげだと。


「よく頑張ったな。二人とも」


 カイリは、クロスとクロウの頭を撫でた。

 いつものように。

 兄のように。


「いつもありがとう」


「え?」


「カイリのおかげで強くなれた」


「うん。俺も、そう思う」


 クロスは、カイリに感謝の言葉を述べた。

 カイリのおかげで強くなれたと感じているのだ。

 それは、クロウも、同様であった。

 カイリがいてくれたからこそ、助かったし、強くなれたのだ。

 いわば、カイリは、命の恩人であり、師でもあった。

 カイリは、微笑む。

 心の底から嬉しいのだろう。


「なぁ、カイリは、将来、どうするつもりなんだ?」


「え?」


「俺とクロスは、騎士になるってのが夢だけど。カイリは、どうなのかなって。やっぱり、皇帝になるのが夢?」


 突如、クロウは、カイリに問いかけた。

 カイリの事が気になっていたのだ。

 それは、クロスも、同様であった。

 二人は、騎士になるのが夢だ。

 だが、カイリはどうなのだろうか。

 皇子である彼は、やはり、皇帝になる事を目指しているのだろうか。

 クロスが、問いかけると、カイリは、首を横に振った。


「いや、私は、皇帝になるつもりはない」


「そうなのか?」


「ああ」


 意外な言葉だった。

 なんと、カイリは、皇帝になるつもりはないというのだ。

 クロウは、あっけにとられている。

 カイリなら、皇帝になってくれると思っていたから。

 クロウの問いにカイリは、うなずいた。


「そう言えば、話してなかったな」


「何がだ?」


「私には、姉がいるんだ。私よりも、優秀な姉がな」


 カイリは、クロスとクロウにある事を打ち明ける。

 何を話していなかったというのだろうか。

 クロスは、見当もつかないようで、首を傾げた。

 カイリは、自信の家族の事について、打ち明けたのだ。

 姉がいるようだ。

 それも、優秀な姉が。


「姉は、女帝になるはずだ。だから、私は、姉を守ろうかと思ってるんだ。姉を支えられるように」


 カイリは、跡継ぎは自分ではなく、姉が選ばれるのではないかと、思っているようだ。

 カイリ曰く、姉は、自分よりも、優秀だから。

 ゆえに、カイリは、皇帝になるつもりはなかった。

 それどころか、姉の補佐として、帝国兵になるつもりのようだ。


「それに、補佐になれば、妖魔と戦って、帝国を守る事もできる。だから、私は、皇帝にはならない。姉の為に、帝国の兵長になる」


 カイリは、姉を支える立場となれば、動きやすいと考えているようだ。

 妖魔と戦う意思を持っているのだろう。

 帝国兵として、戦うことになれば、姉を、家族を、帝国を守れると思っているようだ。 

 たとえ、立場が違えども。

 だから、カイリは、決意を固めていた。

 姉を守るために、帝国の兵長になる事を。


「じゃあ、約束な」


「え?」


 クロスは、約束を交わそうとする。

 一体、どうしたのだろうか。

 カイリは、あっけにとられていた。


「俺達は、騎士になるから、カイリは帝国の兵長になる」


「そうだな。約束だ」


 クロスとクロウは、約束を交わしたかったのだ。

 自分達は、騎士になる事を。

 だから、カイリも、帝国の兵長になる事を約束してほしいと。

 単に、男と男の約束がしたかっただけなのだが。

 だが、それでも、カイリは、うれしかった。

 だから、二人と約束を交わしたのだ。

 お互いの為に。

 だが、この時、二人は、知らなかった。

 カイリが、皇帝になるつもりはなかった本当の理由を知る由もなかった。

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