第三十四話 騎士を目指して
カイリに助けられたクロスとクロウ。
その日の夜は、フォウの家で体を休ませた。
カイリも、クロスとクロウにとっては、命の恩人だ。
フォウは、快く受け入れ、自分の家でカイリを休ませた。
翌朝、目覚めたクロスとクロウは、フォウの部屋に入ろうとする。
だが、彼らが入る前に、カイリが、フォウと話をしていたのだ。
クロスとクロウは、ドアに近づいたが、会話は何も聞こえなかった。
「……何、話してるんだろう」
「さあな」
会話が聞こえず、どのような話をしていたのか、わからない。
クロスは問いかけるが、クロウは、首を横に振った。
「もう少し、近寄ってみるか?」
「うん」
クロウは、ドアを少しだけ、開けて、聞くことにした。
気付かれてしまうかもしれないが、少しくらいは、大丈夫だと、推測したようだ。
クロスも、うなずき、ゆっくりとドアを開けて、耳を傾ける。
すると、二人の会話が聞こえてきた。
「本当に、助かったぞ」
「いえ、ですが、あの子達の両親を助けられませんでした」
フォウは、カイリに感謝の言葉を伝える。
感謝しているのだ。
カイリのおかげで、クロスとクロウは助かったのだから。
だが、カイリは、自分を責めていた。
もう少し、早く、ついていれば、二人の両親を助けられたのではないかと、悔いているのだ。
「自分を責めるでない。お主が、この島を訪れなかったら、あの子達は、殺されて負ったのじゃからの」
「……」
フォウは、カイリの事を責めていなかった。
なぜなら、本当に、助けられたからだ。
自分達では、助ける事はできなかった。
クロスとクロウの家に妖魔が侵入した事はわかっていたが、どうすることもできなかったのだ。
騎士やヴァルキュリアが来るのを待つしか。
だが、そんな時にカイリが、ここを訪れていたのだ。
事情を察したカイリが、駆け付け、妖魔を倒してくれた。
そのおかげで、クロスとクロウが、助かったのだ。
ゆえに、カイリは、二人にとって命の恩人であり、フォウは、彼を咎める理由は、どこにもなかった。
「しかし、帝国の皇子が、ここを訪れるとは思わんかったぞ」
「遺跡の事が気になりまして、それで」
「そうじゃったか」
フォウは意外だったようだ。
予想もしていなかったのだろう。
まさか、帝国の皇子であるカイリが、この島を訪れるとは。
調査の為であろうか。
カイリは、正直に答えた。
遺跡の事が気になり、ここを訪れたのだ。
「何と言うか、惹かれるって言うんでしょうか。わからないんですけど……。何度も、訪れたくなるんです」
カイリは、正直に語った。
何度も、遺跡を訪れた事がある。
遺跡の事が気になるのだ。
遺跡は、神が遺したものと言われている。
そのため、この島を訪れる者は多い。
カイリも、その一人ではあるが、なぜ、遺跡の事が気になるのかは、不明だ。
何度も、見て、満足しているというのに。
「よくわからない力を持っているからでしょうか?」
「その力は、特別な力じゃ。その力のおかげであの子らは救われたんじゃからのぅ」
「だといいんですが……」
カイリは、推測していた。
自身には、不明な力を宿している。
それも、妖魔を倒すほどの力だ。
妖魔を倒せるのは、ヴァルキュリアだけだ。
騎士でさえも、消滅させるだけの力しか持っていない。
古の剣では、完全に倒すことはできないのだ。
だというのに、カイリは、妖魔を倒す力が、その身に宿っていた。
故に、カイリは、自分が何者なのか、わからず、君が悪かったのだ。
フォウは、カイリの事を気味悪がってなどいなかった。
彼の力のおかげで、クロスとクロウが救われたのだから。
だからこそ、「特別な力」と称したのだろう。
「しかし、あの子らが、狙われたのは、騎士の素質を持っておるからじゃろうか」
「おそらく」
フォウは、推測していた。
クロスとクロウは、妖魔に狙われていたのだ。
その理由は、クロスとクロウが、騎士の素質を持っているからではないかと。
一年前、クロスとクロウは、遺跡に置いてあった古の剣に触れることができた。
誰も、触れることができなかったというのに。
ゆえに、フォウは、クロスとクロウが、騎士の素質を持っていると悟ったのだ。
カイリも、同じことを思っていたらしい。
騎士の素質を持っているがゆえに、彼らは、狙われたのではないかと。
「あの子らには、平穏暮らしてほしかったのじゃが……」
フォウは、うつむいている。
嘆いているようだ。
なぜ、クロスとクロウが、危険な目に合わなければならないのかと思うと。
「カイリ皇子よ。聞きたいことがあるんじゃ」
「何でしょうか?」
フォウは、意を決して、カイリに問いかける。
知りたいことがあるようだ。
カイリも、フォウの意図を読み取り、聞き返した。
フォウの知りたいことを知るために。
「あの子達が、騎士になるためには、どうしたらよいと思う?」
フォウは、問いかけた。
クロスとクロウを騎士にすることを決めたのだ。
フォウは、ずっと、ためらっていた。
二人には、穏やかに暮らしてほしかったから。
だからこそ、騎士の事は、二人には告げなかったのだ。
まだ、幼い彼らに背負わせたくなかったから。
フォウが決意を固めた理由は、彼ら自身を守るためであろう。
「……まずは、鍛えるべきかと。強い想いに、古の剣は、応えますから」
「なるほど」
カイリは、答える。
騎士になるためには、まずは、鍛える事が大事だろう。
そして、強い想いを秘める事だ。
古の剣は、強い想いに応えて、共鳴するとカイリは、知っていたから。
カイリの答えを聞いたフォウは、納得した。
「と言う事じゃ、お主ら、どうする?」
フォウは、扉の元へと歩み寄り、扉を開ける。
クロスとクロウは、突然、バランスを崩し倒れ込んだ。
「知ってたのか」
「わかるわい。お主らのじいちゃんじゃからのぅ」
クロウは、驚きつつも、すぐに立ち上がる。
クロスも、続いて立ち上がった。
気付いていた事に二人は、驚いていたようだ。
フォウは、笑いながら、答えた。
二人の祖父であるがゆえに、わかったのだ。
二人が、こっそり、自分とカイリの会話を聞いていた事を。
「騎士になれば、強くなれる?」
「違うよ。強くなれたら、騎士になれるんだ」
クロスは、カイリに問いかける。
強くなりたいのだ。
騎士になれば、強くなれるのではないかと、推測しているのだろう。
だが、カイリは、首を横に振った。
強くなる事で騎士になれるのだと、教えて。
「もう、怖がることもなくなるよ」
カイリは、クロスとクロウの頭を優しく撫でる。
兄のように。
二人には、穏やかに暮らしてほしい。
それは、カイリも、フォウと同じように願っているのだ。
だが、彼らは狙われている。
二人は、強くなるしかないのだ。
生き延びるためには。
だからこそ、カイリも、決意を固めた。
二人が騎士になれるように、協力すると。
「どうする?クロウ」
クロスは、クロウに問いかけた。
双子だが、クロウは、常に、冷静だ。
自分よりも。
だからこそ、クロスは、クロウの判断にゆだねた。
「……騎士になりたい」
クロウは、静かに、答えた。
強い意思を胸に秘めて。
騎士になりたいと願ったのだ。
「騎士になって、皆を守りたい」
「クロウが、言うなら、俺も……」
クロウは、騎士になって、自分を守るのではなく、皆を守りたいと願ったのだ。
もう、誰かを失うのは嫌なのだろう。
だからこそ、騎士になりたいと願ったのだ。
騎士になれれば、妖魔を消す事はできる。
皆を守れるのではないかと推測して。
クロスも、決意を固めた。
クロウと一緒なら、騎士になれると推測したから。
「「よろしくお願いします」」
二人は、声をそろえて、頭を下げてた。
「わかった。これから、よろしくな。クロス、クロウ」
カイリは、笑みを浮かべて、もう一度、頭を撫でた。
決意を固めたのだ。
騎士になれるように、できる限りの事はすると。
「うん!!よろしく、カイリ」
「頼む。カイリ」
クロスは、元気よく、クロウは、静かに、カイリの名を呼んだ。
初めてだ。
彼らが、カイリの名を呼んだのは。
カイリは、それが、うれしくてたまらなかった。
兄になれたような気がして。
「これ、お前達、カイリ皇子じゃ」
「いいですよ。カイリで」
フォウは、慌てて、二人を叱る。
相手は、皇子だ。
呼び捨てにすることはあってはならないと、思ったのだろう。
だが、カイリは、咎めるつもりはなかった。
心の底から嬉しかったからだ。
「な?」
カイリは、笑みを浮かべた。
兄のように。
「「うん」」
二人は、声をそろえて、うなずいた。
こうして、二人は、騎士としての道を歩み始めたのであった。
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