第三章 双子の騎士編・前編

第三十三話 幼い双子

 ルチアとヴィオレットは、語り終えた。 

 悲しく、残酷な過去を。

 ダリアやアライアの思惑はヴィオレットが、元帝国兵のウォーレットから聞いた話だ。

 彼女達の事も語る事ができたのは、彼のおかげであった。

 彼は、偶然にも、ダリアやアライアの会話を盗み聞きしてしまい、真実を偶然知り、オルゾと共に、脱走したのだ。

 ゆえに、彼女達に伝えることができた。

 ダリア達の野望を。

 そして、それを偶然にも、阻止した事を。

 ルチアを刺してしまった事により。


「そんな事があったなんて……」


 カレンは、愕然とした。

 セレスティーナ達もだ。

 二年前の真実を知り、衝撃を受けているのだろう。

 ヴィオレットが、本気で、ルチアを殺そうとなどしていなかった。

 魔剣の力により、ヴィオレットは、暴走してしまったのだ。

 それは、ヴィオレットにとって、あまりにも残酷であった事を、カレン達は、思い知らされた。


「私が、盲目的に信じていたから。こんなことになっちゃったの。だから、ヴィオレットを責めないであげて……」


 ルチアは、カレン達に懇願する。

 自分のせいだと責任を感じているのだ。

 帝国や神の事を盲目的に信じてしまったがために。

 少しでも、疑っていたら神魂の儀を行う事はなかったかもしれない。

 ヴィオレットを追い詰める事はなかったかもしれない。

 そう思うと、ルチアは、心が痛んだ。

 自分を責めたのだ。


「……事情は、わかったわ。貴方が、本気で、ルチアを殺すつもりはなかったことも」


 カレンは、重い口を開けた。

 その声色は、もう、ヴィオレットを憎んでなどいなかった。

 理解していたのだ。

 ヴィオレットの心情を。

 ゆえに、これ以上、責めるつもりなどなかった。


「……だが、私は、取り返しのつかない事をした。お前達の事も、殺そうとしたのだからな」


「それでよかったと思うわ」


「え?」


 ヴィオレットは、それでも、自分は罪人だと語った。

 魔剣のせいにはできないのだ。

 魔剣の力に負けて、ルチアを刺してしまったのだから。

 そして、カレン達の事も、殺そうとした。

 真実を語ることなく。

 だが、カレンは、意外な言葉を口にした。

 ヴィオレットの行動を否定せず、肯定したのだ。

 これには、さすがのヴィオレットも、あっけにとられていた。


「あの頃の私達は、異常だったもの。目的の為に、あの子を利用してしまった。きっと、事情を知ったところで、何も変わらなかったわ」


「そうだよね、ライムも、そう思うよ」


 カレンは、認めていたのだ。

 以前の自分達は、精神を侵食され、異常だったと。

 そのために、ヴァルキュリア候補達を利用して、殺してしまった。

 もし、ヴィオレットは、真実を話したとしても、ヴィオレットを殺そうとしていただろう。

 ヴィオレットを信じずに。

 ライムも、同じことを思っていたようだ。

 異常だった自分達は、ヴィオレットの話をまともに聞くことはなかっただろうと推測して。

 

「今まで、ごめんなさいね」


「悪かったよ」


「……」


 セレスティーナも、ベアトリスも、謝罪した。

 ヴィオレットに。

 そして、殺してしまったヴァルキュリア候補達に。

 彼女達も、取り返しのつかない事をしたと責めているのだろう。 

 いくら、精神を侵食されていたとは言え。

 ヴィオレットは、体を震わせた。

 感情を抑えきれなくなったのだろう。


「ごめんなさい……」


 ヴィオレットは、涙を流して謝罪する。

 もっと、伝えなければならない言葉があったが、それが、ヴィオレットの精一杯であった。

 ルチア、カレン達は、ヴィオレットの元へと歩み寄る。

 誰も、ヴィオレットの事を責めてなどいなかった。

 こうして、ヴィオレットとカレン達は、和解することができた。

 きっと、ヴィオレットも、カレン達も、罪を償えることができるだろう。

 ルチアは、そう、信じていた。

 ヴィオレットは、心を落ち着かせるために、涙をぬぐい、息を吐いた。

 全て、語り終えたルチアとヴィオレットは、穏やかな表情を浮かべていた。


「でも、気になるわね」


「何が?」


 カレンが、ふと、何かを思い出したかのように呟く。

 何か、気になる事があったようだ。 

 ルチアは、首をかしげて、カレンに問いかけた。


「あなた達は、なぜ、記憶を失ったの?何があったの?」


「……」


 カレンは、クロスとクロウの事が気になったようだ。

 帝国に滞在中に、記憶を失ったのは、確かだ。 

 だが、その時、何があったのだろうか。

 カレン達も、ルチアも、ヴィオレットも、見当がつかないようだ。

 カイリは、何か知っているようで、うつむいた。 

 自分を責めるかのように。


「確かに、知りたい。帝国で、何が起こったの?」


 ルチアは、二人に問いかける。

 二年前、ルチア、クロス、クロウは、記憶を失った。

 だが、何があったのかは、ルチアは、聞かされていない。

 カイリを憎んでいる理由も。

 だからこそ、聞いたのだ。


「そうだな。話さなければならないな」


「うん」


 クロウは、話さなければならないと、判断したのか、呟く。

 クロスも、静かにうなずいた。

 決意を固めたのだろう。

 二年前、何があったのかを語る事を。


「話して、いいな?カイリ」


「ああ。私から、話そうと思っていたからな」


 クロスは、カイリに問いかける。

 どうやら、カイリが、何か関係しているようだ。

 カイリは、うなずいた。

 その事に関して、話すつもりだったようだ。


「先に話をさせてもらう」


「と言っても、俺達が、なんで、カイリの事を知っているか、話した方がいいよな」


「そうだな」


 クロウは、二年前の真実を語ろうとした。

 だが、クロスは、その前に、カイリとの出会いを話すべきだと主張する。

 確かに、ルチア達は、知らない。

 クロスとクロウが、なぜ、カイリを知っているのか。

 クロウは、うなずいた。


「俺達が、カイリと出会ったのは、まだ、俺達が、幼い頃の時なんだ」


 クロスとクロウは、語り始めた。

 自分達が、まだ、幼かった頃の事から。



 ルーニ島で生まれたクロスとクロウは、双子であり、常に共にいた。

 両親に見守られながら、育った二人。

 彼らには、幼い少女と遊んだ事がある。

 その少女こそがルチアだったのだ。

 しかし、二人が、10歳の時、両親は、妖魔に、殺されてしまう。

 二人も、妖魔に殺かけていた。


「あ、ああ……」


「父さん、母さん……」


 クロスは、怯え、体を震わせる。

 クローゼットの中で。

 クロスの前に立っていたクロウは、じっと、クローゼットの隙間から、部屋の様子をうかがっていた。

 部屋では、二人の男女が倒れている。

 それも血を流して

 クロスとクロウの両親だ。

 妖魔に殺されてしまったのだ。

 妖魔は、クロスとクロウの事を探しているようで、あたりを見回していた。

 それでも、息をひそめて、隠れるクロスとクロウ。

 だが、運が悪く、妖魔は、クローゼットの扉を開けてしまい、見つかってしまった。


「ひっ!!」


 クロスは、体をこわばらせ、硬直してしまう。

 怯えているのだろう。

 自分達も殺されてしまうと。

 だが、クロウは、クロスの前に立った。

 兄として、クロスを守るために。


「クロウ!!」


「クロス、逃げろ!!」


「駄目だよ!!クロウ!!」


 クロウは、クロスに逃げるよう促す。

 自分が、妖魔と戦うつもりだったのだ。

 だが、クロスはそれができなかった。

 クロウを一人にして逃げれるはずがなかったのだ。

 容赦なく、二人に襲い掛かる妖魔。

 だが、その時であった。

 突如、妖魔が、目を見開き、仰向けになって倒れたのは。

 何が起こったのか、理解できないクロスとクロウ。

 すると、二人の前に金髪の男性が、現れた。


「大丈夫か!?」


「え?」


「誰?」


 二人に問いかける金髪の男性。

 どうやら、彼が、妖魔を倒してくれたようだ。

 しかも短剣で。

 ヴァルキュリアだけしか倒せないというのに、なぜ、彼は、倒せたのだろうか。

 それは、今でも、わかっていない事だ。

 金髪の男性は、二人に歩み寄る。

 だが、クロウは、あっけにとられているようだ。

 彼は、一体何者なのか、見当もつかないのだろう。

 クロスは、怯えながらも、尋ねた。

 警戒しているようだ。


「帝国の皇子・カイリだ」


「皇子?」


「そうだ」


 金髪の男性は、正直に正体を明かす。 

 彼こそが、カイリだったのだ。

 クロウは、カイリに問いかける。

 カイリは、優しく、うなずいた。


「さあ、もう、妖魔は、倒したぞ。おいで」


「うん」


 カイリは、手を伸ばした。

 クロスは、うなずき、カイリの手をつかむ。

 クロウも、警戒していたが、カイリの手をつかんだ。



 すぐさま、家を出るクロス達。

 すると、フォウが、クロス達の前に現れた。


「クロス!!クロウ!!」


「じいちゃん!!」


 フォウを目にした瞬間、クロスは、フォウの元へと駆け寄る。

 クロウも、続けて、フォウの前に駆け寄った。

 体を震わせ、泣き始めるクロスとクロウ。 

 よほど、怖い思いをしたのだろう。

 両親も、妖魔に殺されてしまったのだ。

 幼い二人にとっては、耐えがたい事だろう。

 そう思うと、カイリは心が痛んだ。


「すみません。この子達の両親は……」


「いや、いいんじゃ。ありがとう」


 カイリは、フォウに謝罪する。

 クロスとクロウを救うため、家に入ったが、両親は、すでに息絶えていた。

 救えなかったことを悔いているのだ。

 だが、フォウは、カイリを咎めるつもりはなかった。

 感謝していたのだ。

 クロスとクロウを救ってくれたのだから。

 こうして、クロスとクロウは、カイリと出会った。

 

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