第三十二話 そして、物語は二つに分かれる
ルチアを思い、ヴィオレットは、聖剣が置かれてある部屋へと向かう。
ルチアを助けたい一心で、ヴィオレットは、ここまで来たのだ。
「ここにあるはずだ。聖剣が……」
ヴィオレットの鼓動が高鳴る。
ルチアを救えるかもしれないと思うと、心臓の音がなり止まないのだ。
まるで、いつもの自分ではないようだ。
ヴィオレットは、心を落ち着かせるように、息を吐く。
そして、ついに、聖剣が、置かれてある部屋へとたどり着いた。
「あれが……聖剣?」
ヴィオレットは、二つの剣を目にした。
一つは聖剣だと一目で見抜いた。
全てが、純白の剣。
輝きは美しく、力を感じる。
ヴァルキュリアに似た力を感じるのだ。
――もう一つの剣は、魔剣か?
ヴィオレットは、もう一つの剣へと視線を向ける。
その剣は、聖剣とは対照的に漆黒の剣であり、まがまがしさを感じ取っていた。
書物に記されていたのだ。
聖剣と対になる剣があると。
魂を消滅させてしまう剣、それが、魔剣だと。
なんて、おぞましい力なのだろうか。
遠くからでも、伝わってくるような気がしてならない。
それでも、ヴィオレットは、聖剣へと歩み寄った。
だが、その時であった。
「っ!!」
ヴィオレットが、突如、目を見開く。
そして、体が震え始めた。
――なんだ?何が起こって……。
ヴィオレットは、状況を把握できなかった。
一体、自分の身に何が起こっているのかと。
体の震えが止まらないヴィオレット。
まるで、自分の意思とは関係なしに、体が動いているようだ。
ヴィオレットは、魔剣へと手を伸ばそうとしていた。
ヴィオレットの意思とは関係なく。
――駄目だ。それは、魔剣だ……。
ヴィオレットは、必死に抵抗した。
だが、ヴィオレットの動きは止まらない。
まるで、魔剣と共鳴したかのようだ。
ヴィオレットは、ついに、魔剣に触れてしまった。
しばらくして、ルチアは、なぜか、地下室に到着していた。
聖剣と魔剣が置かれてある部屋へと向かっていたのだ。
「ここだよね?聖剣がある部屋って」
ルチアは、聖剣が置かれてある部屋へとたどり着いていた。
聖剣を求めているようだ。
実は、手紙の内容は、こう記されていた。
アマリアが、聖剣を必要としている為、取りに行ってほしいと。
――でも、どうして、アマリア様は、カイリ皇子に伝言したんだろう?
ルチアは、思考を巡らせる。
なぜ、アマリアは、自分で手紙を書かずに、カイリ皇子に伝言し、カイリ皇子が、手紙を書いたのだろうか。
何か理由があるのだろうか。
答えは見つからず、ルチアは、聖剣を取りに行った後に、聞けばいいと思い、部屋へと入った。
だが、その時であった。
ルチアは目にした。
誰かがこの部屋に入っていたのを。
「ん?あれって……ヴィオレット?」
ルチアは、後姿を見て、気付いた。
菫色の長い髪は、ヴィオレットだと。
見間違えるはずがない。
だが、なぜ、彼女がここにいるのだろうか。
ルチアは、ヴィオレットへと歩み寄り、問いかけようとした。
しかし、その直後、信じられない事が起こった。
ヴィオレットが、ルチアに斬りかかろうとしたのだ。
「え?」
ルチアは、とっさに回避した。
ギリギリのところで、よけたのだ。
ルチアは、何が起こったのか、信じられず、ヴィオレットの方へと視線を向ける。
この時、ヴィオレットは、すでに、ヴァルキュリアに変身しており、魔剣を手にしていた。
「ヴィオレット!?どうしたの!?」
ルチアが、ヴィオレットに呼びかける。
だが、ヴィオレットは、返事をしない。
うなっているだけだ。
それも、目が、赤色に染まっていた。
血のような色に。
――様子がおかしい。何かに憑りつかれているみたい……。
ルチアは、ヴィオレットの異変に気付いた。
まるで、本人ではないと悟ったのだ。
一体、何が起こったのだろうか。
ルチアは、ヴィオレットが持つ魔剣へと視線を向けた。
――もしかして、あの魔剣に?
ルチアは、察してしまったのだ。
ヴィオレットは、あの魔剣に憑りつかれていると。
ルチアに斬りかかるヴィオレット。
ルチアは、すぐさま、ヴァルキュリアに変身して、ギリギリのところで回避する。
そして、思わず、聖剣を手にした。
「ヴィオレット、正気に戻って!!」
ルチアは、聖剣を構えて、ヴィオレットに問いかける。
ヴィオレットを止める為に、聖剣を手にしたのだ。
だが、ヴィオレットは、容赦なく、ルチアに斬りかかる。
ルチアは、聖剣で、魔剣を受け止めた。
聖剣からあふれる力が、ルチアを蝕もうとしている。
制御できていないのだろう。
暴走しかけているのだ。
それでも、ルチアは、必死に、精神を保ちながら、ヴィオレットの魔剣を受け止めた。
「ヴィオレット!!」
ルチアは、ヴィオレットの名を呼ぶ。
だが、その時であった。
ルチアの聖剣は、魔剣にはじかれてしまう。
そして、ヴィオレットは、ルチアを魔剣で刺してしまった。
「っ!!」
ルチアは、目を見開き、体を硬直させる。
その時だった。
ヴィオレットが、正気を取り戻したのは。
間に合わなかった。
守りたかったルチアをこの手で、刺してしまったのだ。
「あ、ああ……」
ヴィオレットは、体を震わせる。
ルチアは、目を見開いたまま、動かない。
ルチアは、死んだ。
いや、自分が、殺した。
ヴィオレットは、そう、思い込んでしまった。
「ああああああああああっ!!!」
ヴィオレットは、泣き叫ぶ。
一番、守りたかったルチアを殺してしまったからだ。
だが、その時であった。
ルチアが手にしていた聖剣が光り始めたのは。
聖剣が、暴走し始めたのだ。
ルチアは、まだ、死んでいなかった。
だから、聖剣が暴走し始めたのだろう。
「な……に……?」
ヴィオレットは、何が起こったのか、わからなかった。
聖剣の光は、次第に、広がっていく。
そして、その直後、聖剣の光が、ルチアとヴィオレットを包みこんだ。
まるで、光が爆発したかのように。
ヴィオレットは、そこで、意識を手放した。
ヴィオレットが、意識を取り戻したのは、しばらくしてからのことだ。
数人の声が聞こえてきたのだ。
それも、信じられないと言わんばかりに。
帝国兵が、駆け付けに来たのだ。
地下で爆発が起こったと気付いて。
「なんて事だ。こんなことが、起こるなんて……」
帝国兵は、衝撃を受けているようであった。
何が起こったのだろうか。
「ん……」
「おい、目を覚ましたぞ」
ヴィオレットは、目を開ける。
それも、ゆっくりと。
帝国兵達は、ヴィオレットが、目を覚ましたことに気付いて、歩み寄った。
「私は……」
ヴィオレットは、ゆっくりと起き上がる。
まだ、状況を把握できないまま。
だが、その時であった。
帝国兵達が、ヴィオレットに対して、剣を向けたのは。
「え?」
ヴィオレットは、あっけにとられていた。
なぜ、自分は、剣を向けられているのか、理解できなくて。
帝国兵達は、ヴィオレットをにらんでいる。
まるで、自分が、反逆者かのように、扱われていたのだ。
「動くな。お前は、ルチア様を殺した裏切り者だ」
「殺した?裏切り者?」
帝国兵は、ヴィオレットに衝撃的な言葉を突きつける。
だが、ヴィオレットは、まだ、理解していないようだ。
なぜ、自分が、裏切り者なのか。
「とぼけるな!!」
「その魔剣を手にしているのが、証拠だ!」
「魔剣?」
帝国兵が、次々と、口にする。
ヴィオレットは、魔剣へと視線を移した。
魔剣には、血がついていた。
「そうだ……私は……ルチアを……」
ヴィオレットは、思い出したのだ。
ルチアを刺してしまった事を。
殺してしまったのだと、思い込んで。
だが、ルチアの遺体は、どこにもない。
聖剣もだ。
何があったのか、ヴィオレットには、理解できていなかった。
「来い!!」
帝国兵は、ヴィオレットを連行する。
ルチアを殺した裏切り者として。
その後、取り調べが行われた。
なぜ、魔剣で殺したのか。
ルチアの遺体は、どこへ隠したのか。
だが、ヴィオレットは、何も、知らないのだ。
なぜ、ルチアを殺してしまったのか。
ルチアの遺体は、どこに行ってしまったのか。
気付いた時には、取り返しのつかないことになっていた。
ヴィオレットは、そう、説明するが、帝国兵は、信じようとしなかった。
翌日、ヴィオレットの処罰が決定した。
ヴィオレットは、処刑されることになったのだ。
牢獄に閉じ込められたヴィオレット。
だが、抵抗する事もせず、ただ、その時を待った。
――受け入れよう。私は、死ぬべきだ。ごめん……ルチア……。
ヴィオレットは、ショックを受けていた。
ルチアを殺してしまったと思い込んでいるのだ。
当然であろう。
だからこそ、ヴィオレットは、死を受け入れようとしたのだ。
罪を償う為に。
だが、その時であった。
仮面をつけて暗殺者となったカイリが、ヴィオレットの前に現れたのは。
そこで、ヴィオレットは、真実を知った。
帝国が復活させようとしていた神は、魔神であり、世界を掌握しようとしていた事。
自分達は、ヴァルキュリアに覚醒した直後、作られた体に魂を入れられていた事。
全てが、偽りだった。
だからこそ、ヴィオレットは、決意したのだ。
帝国を滅ぼすと。
――あの日、私は、ルチアを殺した。だが、知ってしまったんだ。世界の残酷さを。だから、滅ぼそうとした。帝国を。ヴァルキュリアを殺してでも。
全てを知ったヴィオレットは、カレン達にも語らず、カイリと共に帝国を滅ぼす事を決めたのだ。
ヴァルキュリアであるカレン達を殺して、自分も死ぬと。
その頃、ルチアは、ルーニ島で、記憶を失ったクロスとクロウと共に目を覚ます。
記憶を全て失って。
聖剣の暴走により、ルチアの魂は、元の体に戻ったのだ。
そして、そのまま、聖剣の力で、ルーニ島に転移された。
偶然、島に逃亡したアライアは、ルチア達を見つけ、保護者となるために、アレクシアと名を偽ったのだ。
ルチアを利用する為に。
こうして、二人は、離れ離れになってしまった。
お互い、生きている事を知らずに。
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