第二十一話 約束の花火

「な、なに言って……」


 妖魔の女性は、戸惑っているようだ。

 当然であろう。

 まるで、ルチアとヴィオレットは、自分達を追い詰めたかのように、言っているのだ。

 追い詰められているはずなのに。


「位置は、もう把握できる。私達も影を踏めばな」


「ま、まさか……」


 ヴィオレットは、真実を明かす。

 なぜ、自分達が、魔法や魔技を見抜けたのか。

 実は、ルチアとヴィオレットは、影を踏んでいたのだ。

 そこから、まがまがしい力をたどっていき、見抜いたという。

 妖魔の男性は、戸惑いを隠せない。

 あり得るはずがないと思っているのだろう。


「本当だよ。もう、これで、わかるから」


「ふ、ふざけるなぁあああっ!!」


 ルチアは、真剣な眼差しで語る。

 もう、影を使って、自分達や魔法や魔技を隠す事はできないと言いたいのだろう。

 本当に、追い詰められたのは、ルチア達ではなく、妖魔達の方だったというわけだ。

 そう思うと、妖魔の男性は体を震わせ、魔技・ディザスター・シャドウを発動したのは。

 妖魔の女性も、続けて、魔法・エビル・シャドウを発動する。

 ルチア達を殺そうとしているのだろう。

 だが、その時であった。

 クロウ、クロスが、二人の前に出たのは。


「クロウ!!」


「怪我はないか?ルチア」


「あ、うん」


 クロウは、古の剣をいくつも出現させ、羽根へと変える。

 固有技・ダークネス・ウィングを発動したのだ。

 妖魔の魔技を切り裂くために。

 クロウは、ルチアの身を案じる。

 それも、優しい声で。

 ルチアは、戸惑いながらも、うなずいた。


「クロス、お前……」


「大丈夫、これくらいならな」


 クロスは、古の剣を巨大化させたようだ。

 固有技・レイディアント・ガードを発動した。

 ヴィオレットを守るために。

 だが、怪我を負ってしまったようだ。

 完全には、防ぎきれなかったのだろう。

 ヴィオレットは、クロスの身を案じる。

 だが、クロスは、笑みを浮かべていた。

 ヴィオレットの不安を取り除くかのように。


「頼んだぞ!!」


「わかった」


 クロスは、ヴィオレットに託した。

 妖魔を倒せるのは、ルチアとヴィオレットだけだからだ。

 二人の妖魔は、焦燥に駆られたのか、魔法や魔技を連発する。

 だが、クロスは、古の剣を蛇腹剣に変える。

 固有技・レイディアント・ベローズを発動したのだ。

 魔法を切り裂くために。

 クロウも、古の剣を双剣に変える。

 固有技・ダークネス・ツインを発動して、魔技を切り裂いて。

 これにより、妖魔の魔法や魔技は消滅し、追い詰められる形となった。


「ルチア、ヴィオレット!」


「今だ、やれ!!」


 クロスが、ルチアとヴィオレットの名を呼び、クロウが、合図を送る。

 妖魔を倒すチャンスだと言いたいのだろう。

 ルチアとヴィオレットは、うなずき、そのまま、跳躍した。


「「やあああああっ」」


 ルチアは、固有技・インカローズ・ブルームを、ヴィオレットは、固有技・チャロアイト・ライトニングを発動する。

 ブーツや鎌が、宝石の刃と化し、二人の妖魔を切り裂いた。

 固有技を受けた二人の妖魔は、光の粒となり、消滅した。

 ルチア達は、妖魔を倒したのであった。


「やったな」


「うん」


 妖魔を倒せたため、クロスは、笑みを浮かべる。

 ルチアも、つられて、笑みを浮かべていた。


「皆、ありがとう!!」


「助かった」


 ルチアは、クロスとクロウに感謝の言葉を述べる。

 本当に助かったのだ。

 二人のおかげで。

 ヴィオレットも、感謝の言葉を述べた。

 クロスは、笑みを浮かべるが、クロウは、照れ隠しで、顔を背けた。



 その後、ルチア達は、フォウの家に戻り、妖魔を倒した事を報告した。

 それも、二人もいた事も、伝えて。


「そうか。倒してくれたか。本当に助かった。ありがとう」


 フォウは、笑みを浮かべて、お辞儀する。

 本当に、喜んでいるようだ。

 うれしいのだろう。

 妖魔が、いなくなった事ではなく、ルチア達が、自分達を守ってくれたことに。

 彼女達が、成長したのだと、確信を得たのだろう。

 ルチア達も、つられて、微笑んだ。


「実はな、明日、祭を行うつもりなんじゃ。よかったら、参加してくれんかのぅ」


「なるほどな」


「それで、俺達を呼んだってことか」


「そう言う事じゃ」


 フォウは、ルチア達に語る。

 明日、祭を行う予定だったのだ。

 だが、妖魔が、頻繁に出現していた為、中止を危ぶまれていた。

 ルチア達を呼んだのも、実は、祭に参加してほしかったからなのだ。

 クロウは、静かに、納得していた。

 クロスも、同様に、理解したようだ。

 なぜ、フォウが、自分達を呼んだのか。

 二人の予想通りのようで、フォウは、うなずいた。


「はい!!参加させてください!!ね、いいでしょ?ヴィオレット」


 ルチアは、嬉しそうに懇願する。

 祭に参加したいようだ。

 幼い頃ではあるが、覚えている。

 家族で、祭に参加した事を。

 それを思い出し、参加したいと望んだのだろう。

 ルチアは、ヴィオレットにも、尋ねる。

 ヴィオレットにも、参加してほしいと願って。


「ああ。カレンには、私から、言っておく」


「ありがとう!!」


 ヴィオレットは、笑みを浮かべて、うなずいた。

 討伐が終わったら、帝国に帰る予定ではあったが、明日まで、残る事を決めたのだ。

 カレンに事情を話せば、わかってもらえるだろう。

 もちろん、緊急事態がなければだが。

 それでも、ルチアは、うれしかった。

 ヴィオレットと祭に参加できるのだから。



 その後、ヴィオレットは、一時的に、帝国へ戻り、カレンに事情を話す。

 祭に参加する為、明日も、ルーニ島に残りたいと。

 カレンは、快く承諾してくれた。

 そして、翌日の昼、祭が、開催された。 

 ヴァルキュリア役と騎士役が、大任を果たし、結界が、強化される。 

 島の民は、喜び、ルチア達も、微笑んでいた。

 時間が経ち、夜になると、宴会が行われた。

 屋台が立ち並び、島の民が、踊ったり、歌ったりしている。

 それも、楽しそうに。

 ルチアは、ヴィオレット、クロス、クロウと祭を楽しんでいた。


「うん!美味しい」


「美味しいな」


 ルチアは、美味しそうにホットドッグをほおばる。

 それも、楽しそうに。

 そんなルチアを目にしたヴィオレットも、嬉しそうな笑みを浮かべていた。

 心の底から楽しんでいるのだろう。


「昨日は、ありがとうね、クロウ」


「俺は、別に……」


「私達の事、心配してくれたんでしょ?」


「え?」


 ルチアは、クロウに感謝の言葉を述べる。

 だが、クロウは、何もしていないと答えようとする。

 不器用なのか、冷たい言い方をしてしまった。

 それでも、ルチアは、知っていたのだ。

 自分達を心配してくれていた事を。

 見抜かれていたクロウは、驚き、ルチアの方へと視線を向けた。


「昨日、自分達だけで行くって言った時、私達を行かせようとしなかったのは、私達の事を心配したんだと思ったんだけど」


「……よく、わかったな」


「わかるよ、クロウは、優しいから」


「……」


 ルチアは、悟っていたのだ。

 なぜ、クロウが、自分とクロウだけで行くと言ったのか。

 ヴァルキュリアの力を借りずに、妖魔を倒そうとしたのは、自分達が、強いから、ヴァルキュリアの力を必要としなかったわけではない。

 ルチア達の事を心配していたのだ。

 大事に思っていたのだろう。

 ルチアは、その事を見抜いていたのだ。

 クロウは、あっけにとられている。

 読まれていたとは思いもよらなかったのだろう。

 ルチアは、知っていた。

 クロウが、優しいと。

 ルチアの言葉を聞いたクロウは、目を背けた。

 それも、照れながら。


「ありがとうね、クロウ」


「……ああ」


 ルチアは、微笑んだ。

 クロウは、照れながらも、微笑んでいた。

 心の底から嬉しいのだろう。 

 理解してくれる者が、クロス以外にもいてくれたのだから。


「怪我、大丈夫だった?」


「問題ない。ヴァルキュリアは、再生能力があるから」


「でも、何度も、傷つくのは、辛いと思う」


 クロスは、ヴィオレットに尋ねる。

 心配しているのだろう。

 ヴィオレットは、自分の事よりも、ルチアの事を大事にしていると見抜いているから。

 だが、ヴィオレットは、大丈夫だと告げた。

 再生能力があるから、死なないと言いたいのだろう。

 クロスは、その能力があるからこそ、ヴィオレットが、何度も、傷ついてしまうのではないかと、懸念していたのだ。


「……そうかもしれないな。ルチアが」


「ルチアだけじゃなくて、ヴィオレットも」


「え?」


 ヴィオレットは、まだ、ルチアの事を心配しているようだ。

 だが、クロスが、ルチアだけではく、ヴィオレットのことも、心配しているのだ。

 それを聞いたヴィオレットは、あっけにとられていた。

 予想もしてなかったようだ。

 自分が、心配されていたなどと。


「だから、自分を大事にしてほしい」


「わかった。考えておく」


 クロスは、懇願した。 

 どうか、ヴィオレットが、無茶をしないようにと。

 ヴィオレットは、照れながらも、静かにうなずいた。

 心配してくれる者がいるのだと、わかって、うれしくなって。

 その時であった。

 大きな花火が、空に打ち上がったのは。


「わあっ!!綺麗」


「本当だ。綺麗だな」


 ルチア達は、花火を眺めていた。

 花火は、何発も打ち上がった。

 まるで、ルチア達を祝福しているかのようだ。


「また、皆で、参加したいな」


「うん」


 ルチアは、心の底から願った。

 また、四人で、祭に参加したいと。

 それは、ヴィオレットも、同じだ。

 皆で参加したいと願っていた。


「約束、また、来年、皆で参加しようね!!」


 ルチアは、小指を差し出して、微笑んだ。

 約束を交わすかのように。


「そうだな。な、クロウ」


「……ああ」


 クロスとクロウも、うなずいた。

 また、来年、四人で、祭に参加しようと。

 だが、それは、叶わなくなる。

 ルチア達は、まだ、その事を知らなかった。

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