第二章 ヴァルキュリア編・後編
第二十二話 悲劇の始まり
ルチア達が、ヴァルキュリアになってから、一年の月日が経った。
ルチアは、十三歳、ヴィオレットは、十五歳になった。
二人は、協力し合いながら、妖魔達と戦っていた。
もちろん、窮地に陥る事は、何度もあった。
それでも、お互いの為に、戦い抜いてきたのだ。
互いを守ろうとして。
だが、ある日の事であった。
朝、ルチアは、目覚める。
いつものように。
起き上がり、身支度を済ませていた。
その時であった。
「っ!!」
ルチアが、急にふらつく。
眩暈が起こったようだ。
苦しそうに呼吸している。
どう考えても、眩暈で、ふらついたわけではなさそうであった。
「何だろう。なんで、調子が悪いんだろう……」
最近、ルチアは、具合が悪い。
なぜなのか不明だ。
何があったのか、自分でもわからない。
自然に治るかと思っていたのだが、そうではないらしい。
「大丈夫かなぁ……」
ルチアは、不安に駆られていた。
まだ、この事は、ヴィオレット達にも話していない。
言えなかったのだ。
話すのが怖くて。
ルチアは、ヴィオレット達に何も告げずに、任務に参加した。
もちろん、平然を装って。
ルチアは、妖魔と交戦する。
本調子ではないが、カレンやライムが、共に戦ってくれる。
そのおかげで、ルチアは、危機を逃れ、妖魔を追い詰めることに成功した。
「やあっ!!」
ルチアは、固有技を発動する。
妖魔を切り裂き、妖魔は、光の粒となって、消滅した。
なんとかして、妖魔を倒すことができたようだ。
「今日も、無事に終わったね♪」
「ええ、怪我はなかった?」
「問題ないない!ね?ルチアちゃん」
「……」
ライムは、嬉しそうにはしゃぐ。
任務を無事に達成したから、安堵しているのかもしれない。
カレンは、ルチア達を気遣う。
ライムは、怪我をしていないようだ。
余裕だったのだろう。
ライムは、ルチアに問いかけた。
当然、ルチアも、怪我はないと思っていたから。
だが、ルチアは、返事をしなかった。
また、具合が悪くなってしまったのだ。
ルチアは、こらえるのに、必死であった。
「ルチア、ちゃん?」
「あ、ごめん。大丈夫だよ」
「そう?」
ライムは、ルチアの異変に気付き、心配そうに、声をかける。
ようやく、気付いたルチアは、うなずいた。
大丈夫だと、偽って。
だが、ライムは、心配しているようだ。
もちろん、カレンも。
その時であった。
突然、眩暈が、起こったのは。
「っ!!」
「ルチア!!」
ルチアは、ふらついてしまう。
カレンとライムは、慌てて、ルチアを支えた。
「大丈夫?」
「あ、うん、ごめんね……」
ライムは、ルチアに声をかける。
心配しているだろう。
だが、ルチアは、心配かけまいとして、笑みを浮かべて、こらえていた。
必死に。
ルチアの様子を目にしたカレンは、不安に駆られていた。
何かあったのではないかと、推測して。
「ルチア、あなた、もしかして……」
「え?」
カレンは何かに気付いたようだ。
ルチアの異変の原因を知ったのだろうか。
だが、ルチアは、何もわからず、驚く。
一体、どうしたのだろうかと。
「あ、ううん、何でもないの」
カレンは、慌てて、首を横に振る。
何かに気付いたのは、確かだ。
だが、これ以上は、何も、問いかけなかった。
ルチアは、何も、気付いていないようで、瞬きする。
ライムも、知らないようだ。
そのため、首をかしげていた。
「一度、研究所に行ったほうがいいわ」
「研究所?医務室じゃなくて?」
「ええ」
カレンは、ルチアに、研究所に行くよう促す。
だが、ルチアは、違和感を覚えた。
自分が、具合が悪い事を、カレン達に、知られてしまった。
だとすれば、カレンは、医務室に行くように、促すはずだ。
ゆえに、違和感を覚えたのだろう。
ルチアは、問いかけるが、カレンは、うなずいた。
どうやら、間違いではないらしい。
「魂に異変が起きてるかもしれないもの」
「うん、ライムも、そうした方がいいと思う」
「……わかった」
カレン曰く、魂に異変が起きているから、具合が悪くなったのではないかと悟った。
経験があるのだろうか。
ライムも、カレンの意見を聞くと、うなずく。
何か知っているかのようだ。
ルチアは、カレン達に従い、研究所に行くことを決めた。
カレン達と共に帝国に戻ったルチア。
だが、王宮には戻らず、研究所へ戻った。
今は、眩暈も起こっていない。
大丈夫のようだ。
「……大丈夫かなぁ」
ルチアは、不安に駆られているようだ。
当然であろう。
まさか、医務室ではなく、研究所に行くとは、思っていなかったようだ。
カレンは、念のためと思ったのだろう。
何もなければとは、思っているだろうが。
研究所へと近づいていくルチア。
鼓動が高鳴っていく。
ますます、不安に駆られているのだろう。
その時であった。
「ルチア?」
声をかけられたルチア。
誰が、声をかけたのかは、すぐに、わかった。
ヴィオレットだ。
ヴィオレットの声が来たのだ。
ルチアは、とっさに、振り向いた。
ルチアの読み通り、ルチアの背後には、ヴィオレットが、立っていた。
「ヴィオレット、どうしたの?」
「訓練に行こうかと思って」
「そっか」
ルチアは、ヴィオレットに問いかける。
王宮にいると思っていたからだ。
ヴィオレットは、訓練所に行こうとしていたらしい。
自分の事が、気になって追いかけてきたわけではないようだ。
ルチアは、安堵していた。
「大丈夫か?」
「え?」
「具合悪そうだぞ?」
ルチアに尋ねるヴィオレット。
ルチアは、思わず、驚いてしまった。
ヴィオレットは、気付いていたのだ。
ルチアの具合が悪いと。
「ヴィオレットも、知ってたんだ」
「ああ……今朝から、なんとなくだけど……」
ルチアは、悟った。
ヴィオレットも気付いていたのだと。
今まで、隠していたというのに。
と言っても、ヴィオレットは、今朝、気付いたようだ。
だからこそ、心配したのだろう。
「カレン達も、言われてね。研究所に行くところだったんだ」
「そうか。私も、付き添うぞ」
ルチアは、正直に話す。
カレン達にも、気付かれていたと。
観念したのだろう。
ルチアは、研究所に行くことを話すが、ヴィオレットは、問いかけなかった。
察したのだろう。
魂に異常がないか、見てもらうためだと。
それゆえに、心配して、ついていくと話すが、ルチアは、首を横に振った。
「いいよ。一人で行ける」
「だが……」
ルチアは、ヴィオレットを気遣い、一人で行くと話した。
本当は、怖かったのだ。
もし、悪い結果であったらと思うと。
だが、ヴィオレットは、ルチアを心配していた。
それほど、ルチアが、大事だったのだ。
「すぐに、戻るから、ね」
「……わかった。無理をするなよ」
「うん」
ルチアは、ヴィオレットを説得する。
それも、優しく。
すぐ戻ると、約束して。
ヴィオレットは、しぶしぶ、承諾した。
本当は、ついていきたいが、これ以上、ルチアを困らせたくない。
ゆえに、訓練場で、訓練をしながら、ルチアの帰りを待つことにした。
ルチアは、手を振って、ヴィオレットの元から遠ざかっていく。
ヴィオレットは、一人、取り残された気分になっていた。
「ルチア……」
ヴィオレットは、うつむく。
不安に駆られているのだろう。
本当に、ルチアは、大丈夫なのかと。
研究所に到着したルチアは、研究者に自分の具合を話し、検査を受けた。
検査を終えたルチアは、結果を待っている。
ただ、一人で、静かに。
「……やっぱり、辛いな」
また、眩暈が起こったルチア。
やはり、体調は、良くないようだ。
本当に、魂に異常があるのではないかと、不安に駆られる。
その時であった。
女研究者が、ルチアの元を訪れたのは。
「大丈夫?」
「あ、はい……」
女研究者は、ルチアに声をかける。
ルチアの事を気遣っているようだ。
ルチアは、平然を装って、うなずいた。
具合が悪いのを隠すために。
「私、大丈夫、でしたか?」
「……」
ルチアは、女研究者に尋ねる。
だが、女研究者は、黙ったままだ。
それも、うつむいたまま。
何か、異常があったのだろうか。
ルチアは、不安に駆られ始めた。
「何か、あったんですか?」
「あのね、正直、言いにくいんだけど……」
「はい……」
ルチアは、再度、問いかける。
すると、女研究者が、重たい口を開ける。
言いにくいと言うが、何だろうか。
自分の魂に異常が生じている可能性が高いのだろうか。
ルチアは、息を飲んだ。
真実を受け入れる為に。
「魂が、神の力と、融合しているの。それも、ほとんど」
「え?」
衝撃的、かつ意外だった。
なんと、ルチアの魂は、ほとんど、神の力と融合しているという。
神魂の儀が近い事を意味しているのだろう。
だが、ルチアは、状況を把握できず、あっけにとられていた。
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