第十八話 久しぶりの故郷にて

 ルーニ島では、光と闇のシャーマンであるフォウの家で、会議が行われていた。

 フォウのパートナー精霊であるアストラルとニーチェ、華のシャーマンの女性とパートナー精霊の少女、雷のシャーマンの男性とパートナー精霊の少年も、フォウの家に集まっていた。


「どうやら、ここの所、妖魔が、出現しているようですね……」


「妖魔を見かけた者もいるようだな。どこかに隠れているようだが」


 アストラルは、島の民からの目撃情報を読み上げる。

 どうやら、妖魔は、何度も、発見されているようだ。

 華の村に住む島の民も、雷の村に住む島の民も、目撃しているという。

 と言っても、どこかに隠れているらしい。

 早急に、対処しなければ、島の民も不安がるばかりであろう。


「どうされますか?フォウ様」


「……」


 アストラルは、フォウに問いかける。

 最終的には、フォウが決めるようだ。

 当然であろう。

 フォウは、このルーニ島を統治しているシャーマンなのだから。

 フォウは、少々、黙っていた。

 悩んでいるのだろうか。


「ヴァルキュリアと騎士を呼ぼう」


「ヴァルキュリアと騎士をですか?」


「そうじゃ。あの子達に戻ってきてほしくてな」


「なるほど」


 フォウは、意を決したかのように、提案した。

 ヴァルキュリアだけでなく、騎士も、呼ぼうと。

 アストラルは、驚く。

 ヴァルキュリアと騎士が、共闘することはあまりないのだ。

 ヴァルキュリアか、騎士のどちらかに頼むことはあっても。

 実は、フォウは、特定の子を呼ぼうとしていたらしい。

 誰を呼ぼうとしていたのか、ニーチェは、わかったようで、静かにうなずいた。


「では、こちらで頼んでみましょう」


「騎士の事は、俺が、依頼する」


「頼んだぞ」


 アストラルは、帝国に依頼するようだ。

 ヴァルキュリアを派遣してもらうように。

 騎士の方は、ニーチェが、頼んでくれるらしい。

 さすが、と言ったところであろう。

 フォウは、アストラルとニーチェに託した。



 アストラルの依頼は、受理されたようで、さっそく、ヴァルキュリアが、派遣されることとなった。

 派遣されるのは、ルチアとヴィオレットであった。

 いつものように、待機室に入る二人。

 待機室では、カレンが待っており、今回の依頼について、語った。


「え?ルーニ島に?」


「そうよ」

 

 ルチアは、あっけにとられている。

 まさか、故郷に戻るとは、思ってもみなかったようだ。

 ヴィオレットは、相変わらず、冷静であったが。

 ルチアの問いに、カレンは、静かにうなずいた。


「今回は、貴方たちだけで、行ってもらうわ」


「私と、ルチアだけでか?」


「ええ、ご指名でね」


 なんと、今回は、ルチアとヴィオレットのみだという。

 ヴィオレットは、驚きを隠せない。

 経験を積み重ねてきたとは言え、新人だけで、任務を遂行していいのだろうかと、思っているのだ。

 だが、カレン曰く、指名されたらしい。


「どうして、私達が?」


「あなた達は、ルーニ島の出身なんでしょ?だからじゃない?」


 ルチアは、問いかける。

 なぜ、指名されたのだろうか。

 カレンは、ルチアとヴィオレットがルーニ島の出身だからではないかと、推測していた。

 よくある事だ。

 カレンも、火の島・ファイリ島出身であり、よく、火のシャーマンから、指名を受ける。

 今回も、故郷を離れた彼女達に会いたいと思っているのだろう。


「向こうで、騎士と共闘してほしいって言う依頼だから、頼んだわね」


「あ、ああ」


 今回は、二人で、戦うわけではない。

 エデニア諸島にいる騎士と共闘することになっているようだ。

 もちろん、騎士も、戦闘能力が高く、よく、討伐任務を依頼されるらしいが、ヴァルキュリアとの共闘はあまりない。

 偶然、共闘する事はあっても。

 ヴィオレットは、戸惑いながらも、うなずいた。



 しばらくして、ルチアとヴィオレットは、ルーニ島の遺跡にたどり着いた。


「なんだか、久しぶりに、来るね」


「試練以来だな」


 ルチアとヴィオレットは、遺跡を出る。

 ルーニ島に来るのは、久しぶりだ。

 ヴァルキュリアの試練以来だった。

 それ以降は、任務や訓練でここを訪れた事はなかった。


「妖魔が、隠れてるって言うけど、どこにいるんだろう」


「さあな」


 カレンから、依頼内容を聞かされている。

 妖魔を発見した事は、何度もあるが、捜索しても、遭遇しないというのだ。

 どこかに隠れているのではないかと、推測されているらしい。

 村に潜んでいるわけではないようだ。

 フードをかぶった者は見つかっていないため。


「そう言えば、あの二人に会えるかな?」


「かもしれないな」


 ルチアは、ふと、思い出す。

 以前、試練の時に、助けてくれたあの二人の騎士の事を。

 再び、会えるのではないかと、推測しているようだ。

 ヴィオレットも、同じことを思っていたらしく、微笑みながら、うなずいた。


「あの二人、よく似てたよね?双子かな?」


「だろうな。性格は、正反対だったが」


 ルチアは、二人の事を思い返す。

 二人は、顔がよく似ていたのだ。

 もちろん、雰囲気も。

 それゆえに、二人の騎士は、双子ではないかと、予想するルチア。

 ヴィオレットも、そう、予想していた。

 と言っても、性格は、正反対だと思っているようだが。


「……」


「どうした?」


「あ、うん。色々、思い出してね」


 急に黙ってしまうルチア。

 と言っても、暗い表情ではなく、穏やかな表情であった。

 何やら、懐かしんでいるようだ。

 ルチアに問いかけるヴィオレット。

 ルチアは、思い出していたのだ。

 幼い日々の事を。


「昔、双子の男の子達と、一緒に遊んだ事があるの。シャーマンの孫だったんだよ?かわいかったんだけどね」


「もしかしたら、その子達が……」


「どうだろう。あんなに、かっこよかったかなぁ?」


 フーレ村に住んでいたルチアであったが、ルクメア村を訪れた時、双子の少年達と遊んだ事があるのだ。

 その双子は、よく似ていて、とてもかわいらしかった。

 女の子と間違えてしまうほどに。

 ヴィオレットは、彼らが、試練の時に出会った騎士達ではないかと、予想しているが、ルチアは、そうは、思っていないらしい。

 二人の騎士は、かっこよかった。

 可愛い双子が、あの二人の騎士だとは、想像もつかないほどに。


「まぁ、名前を聞けばわかるかもな」


「かもね」


 ヴィオレットは、名前を聞けば、わかるのではないかと推測する。

 あの騎士が、何者だったのか。

 ルチアも、うなずいていた。

 彼らと会えるのではないかと、期待しながら。



 ルクメア村に着いたルチアとヴィオレット。

 すると、島の民が、二人を出迎え、二人は、光と闇のシャーマンであるフォウの家へと招待された。


「おお、ルチア、ヴィオレット。よく来てくれたのぅ。わしは、光と闇のシャーマンのフォウじゃ。覚えておるかのぅ」


「はい、覚えています」


「お久しぶりです、フォウ様」


 フォウ、アストラル、ニーチェは、ルチアとヴィオレットを出迎えてくれた。

 それも、フォウは、祖父のように。 

 フォウは、二人の事を知っていたのだ。

 もちろん、ルチアとヴィオレットも。

 ヴィオレットも、ルクメア村を訪れた事がある。

 フォウの問いに、ルチアが、答え、ヴィオレットは、微笑みながら、挨拶を交わした。


「うれしぃのぅ。お主らの事は、知っておるぞ。よく頑張っておるようじゃの」


「ありがとうございます」


 フォウは、喜んでいるようだ。

 二人の事を孫のように思っているのだろう。

 ヴァルキュリアになる前から。

 ゆえに、二人が、ヴァルキュリアとして、活躍している事が、うれしかった。

 誇りに思っていたのだ。

 ルチアは、微笑みながら、感謝の言葉を述べた。


「実はの、わしの孫を呼んでおるんじゃ」


「お孫さんを?」


「そうじゃ。実は、騎士になってるんじゃ」


「え?騎士?」


 フォウは、自分の孫を呼んでいると話す。

 ヴィオレットは、フォウの孫がどんな人物なのか、知らないため、問いかける。

 すると、フォウ曰く、孫は、騎士になったというのだ。

 それを聞いたルチアは、驚き、目を瞬きさせていた。


「どうしたんじゃ?」


「あ、いえ……」


 ルチアの様子が気になったのか、問いかけるフォウ。 

 ルチアは、慌てて、首を横に振った。

 心情を悟られないように。


「もしかして……」


 フォウの孫が騎士になったと聞いたルチアは、思考を巡らせる。

 実は、ルチアが、遊んだ双子は、フォウの孫なのだ。

 彼らが、騎士になったという事は、試練で出会った二人の騎士が何者なのか、ルチアは、予想していた。

 その時だった。

 ドアが、ゆっくりと開いたのは。


「すみません、遅れました」


「待たせたな」


 フォウの家に入ってきたのは、二人の少年だ。 

 それも、白い髪の少年と黒い髪の少年。

 腰には、古の剣。

 彼らは、ルチアとヴィオレットを助けてくれたあの騎士であった。


「あーっ!!!」


 ルチアが、指を指し、大声で叫ぶ。

 その瞬間、フォウ達は、驚き、目を瞬きさせていた。

 ヴィオレットと黒い髪の少年以外は。


「やっぱりな」


 ヴィオレットは、笑みを浮かべて呟く。

 どうやら、推測していたようだ。

 こうして、ルチアとヴィオレットは、二人の騎士と再会を果たしたのであった。

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