第十九話 実は出会っていた
「君達は、あの時の……」
「あ、ああ……」
白い髪の少年は、気付いたようだ。
ルチア達が、かつて、試練の時に出会った少女達だと。
だが、ルチアは、指を指しながら、体を震わせている。
まるで、信じられないと言わんばかりに。
「どうした?俺達の顔に何かついているのか?」
ルチアの様子をうかがっていた黒い髪の少年は、静かに問いかけた。
思考を巡らせたが、見当もつかなかったのだ。
ルチアが、なぜ、驚いているのか。
「く、クロスとクロウ、だよね?」
「え?なんで、俺達の名前を?」
ルチアは、二人に問いかける。
彼らの名は、クロスとクロウと言うらしい。
白い髪の少年が、クロスであり、黒い髪の少年がクロウだ。
クロスは、なぜ、ルチアが、自分達の名前を知っているのか、不明のようだ。
まだ、気付いていないのだろう。
ルチアが、何者なのか。
「わ、私だよ!!ルチア!!フーレ村の!!」
「ルチア……」
ルチアは、必死に、思い出させようとする。
ルチアの名前を聞いた二人は、思い返しているようだ。
そして、二人は、目を見開き、驚いていた。
「あのルチアか」
「思い出した!!一緒に遊んだことあったよな!!」
「うん!!久しぶりだね!!」
クロウは、静かに、呟く。
共に遊んだ少女が、目の前にいるだと、思いもよらなかったようだ。
反対に、クロスは、嬉しそうに、語る。
幼い時の事を。
ルチアも、嬉しそうに、はしゃいでいた。
まるで、子供の頃に戻ったかのように。
「ん?なんじゃ?なんかあったのか?」
「以前、彼らに助けていただいたんです。一か月くらい前に」
状況を把握できないフォウ達は、目を瞬きさせる。
何があったのか、理解できないのだろう。
ヴィオレットは、フォウに教えた。
以前、クロスとクロウに救われた事を。
ルチアは、今も、嬉しそうに、はしゃいでいた。
「ルチア、そろそろ……」
「あ、そうだった」
ヴィオレットは、ルチアを落ち着かせる。
再会を果たせたのが、うれしいのだろう。
だが、目的を忘れてはならないのだ。
ルチアは、我に返ったように、落ち着きを取り戻した。
しかも、照れながら。
「今回は、お主らだけで、妖魔を討伐してもらうぞ」
「……ヴァルキュリアの助けはいらない。俺たちだけで、十分だ」
「クロウ」
フォウは、ルチア達に命じる。
ヴァルキュリアと騎士の共闘を。
だが、クロウは、それを良しとしなかった。
ヴァルキュリアの力に頼らなくとも、騎士の力だけで、倒せると思っているのだろう。
女に頼るのを快く思っていないようだ。
そんなクロウに対して、クロスは、彼を責めるように、名を呼んだ。
「そう言うでない。ルチア達の力も必要なのじゃ。妖魔を倒すためにはな」
「クロウ、じいちゃんの言う事を聞こう」
フォウも、クロウを諭す。
妖魔を倒し、平和を保つには、ヴァルキュリアの力が、必要なのだ。
もちろん、騎士の力も必要だ。
騎士は、ヴァルキュリアを守るために、神の力が宿った古の剣を与えられたのだから。
クロスは、クロウを説得する。
クロウの気持ちを汲んでいながらも。
「……わかった」
クロウは、ため息をつきながらも、承諾した。
ルチア達と戦う事を。
まだ、納得していないようだが。
それでも、ルチアは、嬉しそうな笑みを浮かべていた。
幼い頃に遊んだクロスとクロウと、共に戦えるのだから。
「よろしくね!」
「うん、よろしく」
ルチアは、笑みを浮かべる。
クロスも、つられて笑みを浮かべていた。
楽しそうに話すルチアとクロス。
そんな二人をクロウは、静かに見ていた。
まるで、複雑な感情を抱いているようだ。
ヴィオレットは、クロウの心情を察したのか、静かに歩み寄った。
「私は、ヴィオレットだ。よろしく頼む。クロウ」
「……ああ」
ヴィオレットは、自己紹介をする。
まだ、名を名乗っていなかったから。
クロウは、静かに、うなずいた。
完全に、拒絶されているわけでははないようだ。
ルチア達の事を想って、共闘を反対したのだろう。
その事を見抜いたヴィオレットは、笑みを浮かべていた。
「さて、妖魔を探しに行こうか」
「うん!!」
クロスは、妖魔討伐に行こうと促す。
早急に討伐しなければ、危険が及ぶからであろう。
ルチアも、強くうなずいた。
同じ意思を抱いていると知って。
「とりあえず、どこで発見されたか、確認したほうがいいな」
「そうだな。その方がいい」
ヴィオレットは、妖魔が、発見された場所を確認したいようだ。
どこに潜んでいるのか、推測するためであろう。
クロウも、うなずく。
同じことを考えていたようだ。
ルチア達は、フォウから、地図を渡され、どこで発見されたか、聞いた。
「うーん、色んな所で、発見されてるんだね」
「みたいだな……」
妖魔が、発見された場所は、まばらであり、異常に多い。
一週間の間に、多く、発見されているようだ。
ヴィオレットは、意外だったようで、あっけにとられている。
これは、妖魔を見つけ出すのは、至難の業のように思えてならなかった。
「どう思う?クロウ」
「……」
クロスは、クロウに問いかける。
冷静さを保っているクロウなら、妖魔が、どこにいるのか、推測してくれるのではないかと考え、判断をゆだねたようだ。
さすがは、双子と言ったところであろう。
お互いの事をよく理解している。
クロウは、じっと、地図を眺めていた。
「誰も、どんな妖魔なのか、知らない。だが、これだけ、多く発見されているというのに、見つからない、か……」
クロウは、淡々と呟く。
妖魔の特徴を掴めなかったことに、違和感を覚えたようだ。
多く発見されているというのに。
ルチア達は、静かに、クロウを見守った。
クロウが、答えを出すまで。
クロウなら、答えを出してくれると信じているのだろう。
「もしかしたら、妖魔は、一人ではないかもしれないな」
「え!?」
クロウは、意外な答えを出す。
なんと、妖魔は、一人ではないと、推測しているようだ。
これには、さすがのクロスも、驚きを隠せなかった。
「そうなの?」
「ああ。おそらく、一人だと、錯覚させるために、あえて、姿を見せてるんだ。特徴を掴めないように、一瞬だけな」
ルチアは、驚きつつも、クロウに問いかける。
クロウ曰く、妖魔が出現したのは、二人ではなく、一人だと思い込ませるために、あえて、島の民の前に姿を現しているようだ。
特徴を掴めないように、一瞬だけ、姿を見せて。
そうすれば、確かに、妖魔は、一人だと錯覚してしまうだろう。
「それに、どこに潜んでいるのか、わかった」
「どこだ?」
クロウは、さらに、妖魔達が、どこに隠れているのか、推測したらしい。
さすがと言ったところであろう。
クロスは、クロウに問いかけた。
どこに隠れているのか知るために。
「遺跡だ。あの中なら、隠れやすい」
「でも、遺跡の中も、探したんだろ?」
クロウ曰く、遺跡にいるという。
だが、遺跡の中も、捜索しているのだ。
妖魔が、隠れているのではないかと、推測して。
見つからなかったため、今回、ルチア達が、呼ばれたのだ。
クロスは、それを知っていた為、クロウに問いかけた。
「二人とも、闇の妖魔だったら、別だ。影に隠れやすい」
「そうだよね……」
確かに、妖魔は、いないという報告を聞かされている。
だが、属性が闇であるならば、影に隠れて、身を隠す事は、たやすいのだ。
闇属性であるクロウだからこそ、推測できたのであろう。
クロウの言葉を聞いたルチアは、納得していた。
「なら、遺跡に行ってみるしかないな」
「ああ」
ヴィオレットは、遺跡に行くことを提案する。
クロウの推測が、本当であるならば、見つけられるはずだ。
クロウは静かに、うなずく。
こうして、ルチア達は、遺跡へ向かうことになった。
遺跡にたどり着いたルチア達。
中に入ると、確かに、影ができている。
大きな影が。
「確かに、ここなら、隠れやすい」
「だろうな」
ヴィオレットは、大きな影を目にして、納得していた。
闇属性の妖魔ならば、影と同化して、隠れる事はできるだろう。
クロウも、実際に目にして、確信を得たようだ。
この遺跡のどこかに、妖魔がいると。
しかも、影と同化して。
「どこだろう、奥にいるのかな?」
ルチアは、慎重に、歩き始める。
警戒しているのだろう。
だが、その時であった。
影がゆっくりと伸び始め、ルチアに迫ろうとしたのは。
「待て!!ルチア!!」
クロウは、影の異変に気付き、ルチアの腕をつかんで、強引に下がらせる。
すると、影が刃と化して、ルチアを斬りかかろうとしたのだ。
あともう少し、遅ければ、ルチアは、斬られていただろう。
「へぇ、気付いたか。さすがだな」
「だよね~」
男性と女性の声が聞こえる。
かと思いきや、すぐさま、影が、人の姿へと変わったのだ。
しかも、二人とも黒褐色の肌であった。
「やはり、二人、いたのか」
ルチア達は、構える。
クロウの読み通り、妖魔は二人いた。
それも、闇属性の。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます