第十五話 命がけで
ヴィオレット達から、遠ざかっていく男性。
全速力で走っているようだ。
ヴィオレット達から、逃げるように。
ヴィオレット達も全速力で、追っているが、追いつくことはできなかった。
「ちっ!!すばしっこいな!!」
「ここで、クロスボウを打ってやりたいけど、人に当たりそうだし……」
ベアトリスは、イラついているようだ。
こちらも、全速力で走っているというのに、追いつかないからであろう。
ライムは、いっそのことクロスボウを打ったほうがいいと考えたが、人に当たる事を懸念して、打つことはできなかった。
――どんどん、遠ざかっていく。やはり、あいつは、妖魔か……。
人間や精霊とは思えないほどの速度だ。
ヴィオレット達でさえも、追いつかないほどに。
ヴァルキュリアに覚醒したヴィオレット達は、少々であるが、変身前でも、戦闘能力が上がっている。
だというのに、追いつかないという事は、妖魔と見て間違いないのであろう。
――まずいな。このままだと……。
このままだと、外に出てしまうだろう。
あるいは、人を襲う可能性もある。
それだけはなんとしてでも避けたい。
だが、男性は、ヴィオレット達から、遠ざかっていくばかりだ。
ヴィオレット達は、焦燥に駆られていた。
「よし、このまま、逃げ切れれば……」
男性は、ドーム内から出ようとしているようだ。
外に出て、島から脱出するつもりなのだろう。
もう少しで、外に出れる。
最悪、門番がいても、殺せばいい。
もう、殺すしかないと推測しているようだ。
だが、その時であった。
男性の前に、ルチアが、現れたのは。
「っ!!」
男性は、思わず、立ち止まってしまう。
前ばかり見ていて、気付かなかったのだろう。
ルチアが、横切るようにして、男性の前に立ちはだかるまでは。
隙が生まれ、ルチアは、すぐさまは、かがみこんだ。
「せいっ!!」
「ぐあっ!!」
ルチアは、男性に対して、足払いをかける。
男性が、豪快に、前のめりになって倒れ込んだ。
「ルチア!!」
「でかしたぜ!!」
男性を追いかけていたヴィオレットは、驚くが、ベアトリスは、笑みを浮かべているようだ。
ルチアが、足止めしてくれたのだ。
今が、チャンスと思っているのだろう。
男性は、立ち上がろうとするが、カレンが、すぐさま、ヴァルキュリアに変身して、ハルバートを男性に向けた。
「っ!!」
「動かないで」
ハルバートを向けられた男性は、思わず、動きを止めてしまう。
動けば、殺されると危機感を察したからであろう。
カレンは、男性を脅した。
セレスティーナも、ヴァルキュリアに変身して、カードを構えた。
念のため。
その間に、ヴィオレット達は、ルチア、カレン、セレスティーナの元へと駆け付けた。
「皆、どうして、ここに?」
「騒ぎが起こってたから、追いかけてきたのよぉ」
ライムは、驚いているようだ。
なぜ、うまく、合流できたのか。
そのことについて、セレスティーナが、説明する。
遠くからではあったが、騒ぎが起こっている事に気付いたのだ。
そこで、カレンは、何者かが逃げているのではないかと推測し、入口に向かっていた。
もしかしたら、外に出ようとしているのではないかと、推測して。
その読みは、見事に当たったようだ。
「なぜ、逃げた?お前は、何者だ?」
「正体を明かしなさい」
ヴィオレットは、ヴァルキュリアに変身して、鎌を向けて、男性に問いただした。
カレンも、続けて、正体を明かすように命じる。
もちろん、妖魔だと見抜いているが。
「ちっ、仕方がねぇな!!」
「っ!!」
男性は、これ以上、ごまかすことはできないと、察し、突如、まがまがしい力を発動した。
ヴィオレットとカレンは、危険を察知して、とっさに、離れる。
まがまがしい力は、瞬く間に、広がった。
「ヴィオレット!!カレン!!」
ルチアが、すぐさま、ヴィオレットとカレンの元へ駆け付ける。
ヴァルキュリアに変身して。
ライム、ベアトリスも、ヴァルキュリアに変身する。
まがまがしい力が、収まると男性が、姿を現した。
妖魔の姿で。
「やはりか……」
ヴィオレットは、静かに、呟く。
彼女の読み通り、彼は、妖魔だったのだ。
「よ、妖魔だ!!」
「逃げろ!!」
妖魔を目にした島の民は、逃げるように、妖魔から、遠ざかる。
殺されると、感じたのであろう。
「貴様、なぜ、ここに!!」
「仕方がないだろ!!俺だって、気付いたら……」
カレンは、妖魔に問いただす。
なぜ、ここに侵入したのか。
だが、妖魔は、意味不明な言葉を発した。
自分の意思とは、関係なく、ここにいたと言いたいのだろうか。
「何を言っているんだ?こいつ」
「わからないわぁ……」
ベアトリスは、意味を理解していないようだ。
もちろん、セレスティーナも。
当然であろう。
彼女達は、まだ、知らないのだ。
妖魔の正体を。
まさか、帝国の民が、妖魔に変化したとは、推測できないはずだ。
ゆえに、理解できなかった。
妖魔が、何を言っているのか。
「とにかく、さっさと、倒したほうがいいよ!!」
「うん!!」
ライムは、困惑しながらも、構える。
惑わされてはならないと、自分に言い聞かせながら。
ルチアも、うなずき、構えた。
今は、妖魔を倒す事に専念するしかないと。
「し、死にたくない!!俺は、死にたくないんだ!!」
ルチア達に追い詰められかけた妖魔は、まがまがしい力を発動する。
死を恐れながら。
すると、まがまがしい力から、妖獣が生み出された。
「こいつ、妖獣を生み出しやがった!!」
「厄介ね」
ベアトリスは、舌を巻く。
妖魔は、十数の妖獣を生み出したのだ。
これでは、六人いても、倒すに時間がかかるであろう。
戦力を分散されてしまうのだから。
セレスティーナも、思わず、舌を巻いた。
「ルチア、ヴィオレット、気をつけるのよ」
「うん!!」
「わかった」
カレンは、ルチアとヴィオレットに忠告する。
強いと言えど、妖魔と戦うのは、これが、初めてだ。
もちろん、ルチアとヴィオレットも、わかっている。
気をつけなければならない事は。
二人は、強くうなずいた。
妖魔が、妖獣を引き連れて、襲い掛かる。
四方八方に、別れて、回避するルチア達。
だが、その時だ。
妖獣が、カレン、セレスティーナを取り囲んだのは。
ライムとベアトリスが、妖魔に向かっていく。
だが、妖魔は、素早く回避し、妖獣を生み出し、妖獣は、ライムとベアトリスを取り囲んだ。
「しまった、囲まれた!!」
カレンは、焦燥に駆られた。
よりによって、自分達が、取り囲まれてしまったのだ。
妖魔と対峙しているのは、新人であるルチアとヴィオレット。
これは、まずい状況であった。
「まずいよね……」
「ちっ」
ライムも焦燥に駆られているようだ。
このままでは、ルチアとヴィオレットが、窮地に陥るのではないかと、推測して。
ベアトリスも、舌打ちをする。
妖獣を蹴散らし、ルチアとヴィオレットの元へ向かいたいが、数が多すぎる。
妖獣を蹴散らすには、時間がかかりそうであった。
「今は、信じるしかないわ。カレン」
「そうよね……」
セレスティーナは、ルチアとヴィオレットの強さを信じるしかないと思っているようだ。
カレンも、うなずいた。
ルチアとヴィオレットを信じて。
「お前らが、相手か。余裕だな」
「……見くびるなよ」
「私達だって、弱いわけじゃない」
ルチアとヴィオレットは、構えている。
二人だけでも、妖魔を倒そうとしているようだ。
だが、妖魔は、笑みを浮かべている。
余裕だと思っているのだろう。
ルチアとヴィオレットが、初陣だと知っているかのように。
ルチアとヴィオレットは、反論する。
確かに、初陣だが、弱いわけではないと言いたいのだ。
「そうか?なら、試させてもらうぜ!!」
妖魔は、構える。
ルチアとヴィオレットだけなら、勝てると思い込んでいるかのようだ。
ルチアとヴィオレットは、すぐさま、地面を蹴り、妖魔に向かっていった。
「はっ!!」
「甘い!!」
ヴィオレットは、魔技・スパーク・ブレイドを発動する。
だが、妖魔は、いとも簡単に回避してしまった。
ルチアが、蹴りを放つが、妖魔は、弾き飛ばしてしまう。
ルチアに対して、魔法・エビル・スパークを発動しようとする。
どうやら、彼は、精霊型の妖魔のようだ。
だが、妖魔が、魔法を放つ前に、ヴィオレットが、ルチアを押しのけた。
ルチアを守るために。
妖魔は、魔法を放ち、魔法は、ヴィオレットに襲い掛かった。
「うぐっ!!」
「ヴィオレット!!」
雷のまがまがしい魔法がヴィオレットを襲う。
ヴィオレットは、苦悶の表情を浮かべ、膝をついた。
「よくもっ!!」
ルチアは、怒りに駆られながら、魔技・ブロッサム・ブレイドを発動する。
だが、妖魔は、ルチアの魔技を回避し、魔法・エビル・スパークをルチアに向けて発動する。
ルチアは、回避できず、妖魔の魔法に直撃してしまった。
「あああっ!!」
ルチアは、うめき声をあげ、膝をつく。
ルチアとヴィオレットは、怪我を負ってしまった。
「ルチア!!ヴィオレット!!」
カレンは、危機感を感じてしまう。
このままでは、ルチアとヴィオレットが、負けてしまうのではないかと推測して。
ルチアとヴィオレットは、妖魔に追い詰められてしまった。
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