第十六話 別格
「へぇ、あっけないもんだな」
ルチアとヴィオレットは、倒れ込んでいる。
彼女達を目にした妖魔は、笑みを浮かべていた。
一撃で、倒れるとは、あっけなく、弱いものだと。
彼女達を殺す事は、可能ではないかと思うほどに。
「ルチア、ヴィオレット……」
妖獣と戦いながら、ルチアとヴィオレットの戦いを目にしたカレンは、どうする事もできず、歯がゆい思いをしていた。
今すぐにでも、妖獣を蹴散らしてやりたい。
だが、それすらもできないのだ。
妖魔は、ルチアの元へと迫る。
容赦なく。
「うぅ……」
妖魔は、ルチアの首をつかみ、持ち上げる。
息をすることができず、ルチアは、苦悶の表情を浮かべた。
妖魔の腕をつかみ、もがくが、力が思うように出せない。
このままでは、妖魔に殺されてしまうのではないか。
ルチアは、危機感を感じ、歯を食いしばりながらも、抵抗を試みた。
「まずは、こいつから、殺してやろうかな」
妖魔は、ルチアを殺そうとしている。
殺せると思い込んでいるのだ。
妖魔は、魔法・エビル・スパークを発動しようとしていた。
だが、その時だ。
紫の鎌が、妖魔の首に突きつけられたのは。
それにより、妖魔は、魔法を中断させた。
危機感を感じて。
「ルチアから、離れろ」
「ちっ。再生能力か」
当然、鎌を突きつけたのは、ヴィオレットだ。
再生能力により、戦闘に復帰できたのだ。
だが、妖魔は、舌打ちをし、苛立つ。
ヴァルキュリアの再生能力を知っているようだ。
彼らは、何者なのだろうか。
妖魔は、ルチアを解放するが、その直後、ヴィオレットの鎌をつかむ。
そして、豪快に、振り回し、ヴィオレットを吹き飛ばした。
「ぐっ!!」
ヴィオレットは、地面にたたきつけられる。
全身に激痛が走り、ヴィオレットは、思うように、体を動かせなかった。
それでも、彼女は、激痛に耐えながらも、鎌をつかみ、立ち上がる。
ルチアを守るために。
「ヴィオレット!!」
突如、呼吸ができるようになり、咳き込むルチアであったが、ヴィオレットの危機を感じて、ヴィオレットの元へと駆け寄る。
ヴィオレットを守ろうとしているのだ。
「ルチア、大丈夫か?」
「う、うん」
ヴィオレットは、ルチアの身を案じる。
心配しているのだろう。
だが、ルチアにも、再生能力が備わっている為、すぐさま、回復したのだ。
ヴィオレットも、再び、再生能力が、発動され、傷が癒えた。
「こいつ、厄介だな」
「うん。でも……」
ルチアも、ヴィオレットも、舌を巻く。
この妖魔は、厄介だと推測しているようだ。
自分達だけでは、追い詰められないほどに。
だが、カレン達は、今でも、妖獣達と戦いを繰り広げている。
倒しても倒しても、妖獣は、増え続けるのだ。
妖魔が、居る限り。
ゆえに、自分達だけで、妖魔を倒すしかなかった。
「私達なら……」
「やれるよね!!」
追い詰められているというのに、ルチアも、ヴィオレットも、笑みを浮かべている。
まるで、自分達なら、勝てると思っているかのようだ。
なぜ、笑みを浮かべているのだろうか。
策があるのだろうか。
カレン達には、全く、予想できず、困惑していた。
「何、笑ってんだよ!!」
妖魔は、苛立ったようで、ルチアとヴィオレットに襲い掛かる。
追い詰められているのは、間違いなく、ルチアとヴィオレットだ。
だというのに、なぜ、笑っていられるのだろうか。
自分に勝てるとでも、思っているのだろうか。
そう思うと、勘違いも甚だしい。
妖魔は、怒りに駆られ、ルチア達に向かって、魔法を放とうとした。
「はっ!!」
ルチアは、ヴィオレットの前に出て、魔法・ブロッサム・ショットを発動する。
だが、妖魔は、いとも簡単に、回避してしまう。
ルチアは、魔法を発動し続けるが、妖魔を直撃する事はなかった。
「だから、甘いっての!!」
妖魔は、ルチアに迫り、魔法・エビル・スパークを発動しようとする。
ルチアを仕留めるつもりだ。
だが、ルチアは、回避しようとしない。
背後にいるカレン達や島の民を守るためなのだろうか。
どのような理由にしても、妖魔にとっては、好都合であった。
「甘いのは、どっちだ?」
「何?」
ヴィオレットの声が聞こえる。
それも、妖魔の背後から。
妖魔は、驚き、振り向く。
なんと、ヴィオレットが、妖魔の背後に立っていたのだ。
いつの間に、妖魔の背後に回っていたのだろうか。
ルチアばかりに気をとられていた妖魔は、思考を巡らせても、見当もつかなかった。
「はっ!!」
「うがっ!!」
ヴィオレットは、魔技・スパーク・ブレイドを発動する。
さすがの妖魔も、回避する事はできず、刃と化したオーラに斬られた。
妖魔は、血を吐き、うずくまる。
妖魔に一矢報いた瞬間であった。
「い、今のは、囮か!?」
妖魔は、推測した。
ルチアは、回避しようとしなかったのは、囮となっていたからだ。
何度も、魔法を連発していたのも、ヴィオレットが、移動した事を気付かせないため。
全ては、二人の連携によるものだ。
妖魔は、いつの間にか、ほんろうされていたという事に気付いていた。
「だったら!!」
妖魔は、まがまがしい力を発し、ルチアとヴィオレットに襲い掛かる。
二人は、そのまま、後退し、距離を取るが、今度は、妖魔が、ヴィオレットに襲い掛かった。
魔法・エビル・スパークを発動して。
だが、ヴィオレットは、妖魔の魔法に反応し、すぐさま、魔法・スパーク・スパイラルを発動したのだ。
二つの魔法はぶつかり合い、妖魔の魔法が消し飛ばされる。
ヴィオレットの魔法は、妖魔へと襲い掛かった。
「甘いな。同じ魔法だったら、私の方が上だ」
「く、くそ……」
確かに、同じ魔法であれば、相殺されるはずだ。
だが、ヴィオレットは、ヴァルキュリアになった事で、戦闘能力が上がっている。
ゆえに、妖魔の魔法よりも、上回っているのだ。
妖魔は、思わず、歯噛みをした。
思うようにいかなくなって、苛立っているのだろう。
「それよりも、いいのか?私ばかりに気をとられていて」
「なっ!!」
ヴィオレットは、妖魔に問いかける。
相手は、ヴィオレットだけではないと言いたいのだろう。
妖魔は、気付いてしまった。
もう一人の存在を忘れてしまっていたのだ。
危険を感じ、あたりを見回す妖魔。
ヴィオレットは、その間に、妖魔と距離を取る。
妖魔は、苛立ちながら、上を見上げると、なんと、ルチアが、跳躍していたのだ。
妖魔を仕留める為に。
「しまった!!」
「やっ!!」
妖魔は、あっけにとられていた。
油断してしまったと。
ルチアは、そのまま、回し蹴りを放ちながら、魔技・ブロッサム・ブレイドを発動する。
刃と化したオーラは、見事に、妖魔を切り裂き、妖魔は、吹き飛ばされ、地面にたたきつけられた。
ルチアは、そのまま、地面に着地した。
「ルチア!!」
「ヴィオレット!!」
ルチアとヴィオレットは、互いの名を呼ぶ。
作戦を言う必要はない。
ルチアとヴィオレットは、お互いが、何をするか、わかっているのだから。
目を合わせるだけでわかるようだ。
二人は、同時に地面を蹴る。
妖魔は、起き上がるが、すでに、ルチアとヴィオレットが、妖魔の元へと迫っていた。
「「はあああああっ!!」」
ルチアとヴィオレットは、同時に、固有技を発動する。
ルチアのブーツが、ヴィオレットの鎌が、宝石の刃と化す。
そして、二人は、同時に、妖魔を切り裂いた。
二人に斬られた妖魔は、目を見開いたまま、膝をつき、光の粒となって消滅した。
妖魔を倒したことにより、妖獣が生まれなくなった。
今がチャンスだ。
カレン達は、一斉に畳みかけ、妖獣達は、消滅した。
「す、すごい……」
「あの子達、強いわねぇ……」
息を整えながらも、カレンは、ルチア達の方へと視線を向ける。
正直、あきらめかけていたのだ。
このまま、ルチアとヴィオレットは、負けるのではないかと。
だが、自分達が、思っている以上に二人は強い。
セレスティーナも、二人の強さを認めていた。
改めて。
「へぇ、やるじゃん」
「一時は、焦ったけどね」
ベアトリスも、感心しているようだ。
実の所、二人の新人だけで、妖魔を倒したという話は、聞いた事がない。
ルチアとヴィオレットが、初と言うわけだ。
ライムは、安堵した様子で、ルチアとヴィオレットの方へと視線を移した。
それも、嬉しそうに。
「やったね、ヴィオレット」
「ああ」
初めて、妖魔を倒したルチアとヴィオレット。
二人は、嬉しそうだ。
当然だろう。
妖魔を倒せたのだ。
島の民を守れたのだ。
こんなにうれしい事はないだろう。
ルチアとヴィオレットは、ハイタッチをした。
笑みを浮かべながら。
王宮では、ダリアが、目を閉じていた。
実は、魔神の力を使って、ルチア達の様子をうかがっていたのだ。
ルチアとヴィオレットは、妖魔を倒せるのか、見極めていたのだろう。
「ふふ、さすがね。あの子達の強さは、別格だわ」
ダリアは、満足しているようだ。
ルチアとヴィオレットの強さに。
彼女達は、特別だ。
だからこそ、別格だと言えるのだろう。
なぜ、特別なのかは、不明だが。
「このままうまくいけば、魔神は、復活するわね」
ダリアは、確信を得ていた。
このままうまくいけば、魔神は、確実に復活すると。
ルチアか、ヴィオレットの魂で。
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