第十二話 ヴァルキュリアの誕生と末路

 無事に、ヴァルキュリア誕生の儀は、終わった。

 ルチアとヴィオレットは、王宮の部屋に戻ったところだ。

 と言っても、まだ、全てが終わったわけではない。

 女帝と謁見し、研究所にて命を落とさないように何らかの魔法をかけるらしい。

 さらには、他のヴァルキュリア達と顔合わせをし、夜には祝賀パレードが行われる。

 やることは、多いのだ。

 そのため、王宮は、あわただしい。

 ダリアも、ルチア達を出迎える為に、準備をしていた。

 アマリアと共に。


「ようやく、スタートラインに立ったわね」


「はい……ですが……」


 確かに、二人は、ヴァルキュリアになった。

 だが、まだ、始まったばかりだ。

 戦いは、これからだ。

 過酷な戦いが、二人を待ち受けているはず。

 アマリアも、それを知っていた。

 知っていたからこそ、うつむいてしまったのだろうか。 

 あるいは、別の事で、不安に駆られているのだろうか。


「わかっているわ。あの事を話さなければならないわね」


「はい……」


 ダリアは、アマリアが、何が言いたのか、察したようだ。

 ついに、「あの事」を話す時が来たのだと。

 だからこそ、アマリアは、不安に駆られているのだ。

 「あの事」をルチアをヴィオレットは、受け入れられるのか。


「私から、話しましょうか?」


「いえ。私が話します」


「そう」


 ダリアは、アマリアの事を気遣い、自分が話すことを提案する。 

 だが、アマリアは、首を横に振った。

 ここで、逃げてはならないと、思っているのだろう。

 アマリアは、覚悟を決めるしかなかった。


「では、二人を呼びましょうか」


「はい」


 ダリアは、キウス兵長に命じる。

 ルチアとヴィオレットを呼ぶようにと。

 キウス兵長は、頭を下げ、女帝の間を出た。



 しばらくして、ルチアとヴィオレットは、キウス兵長と共に、女帝の間に入る。

 女帝の間には、ダリアとアマリア、そして、ダリアの娘のコーデリアと息子のカイリが、待ち受けていた。


「ようこそ。私が、ダリアよ」


「私は、娘のコーデリアよ」


「息子のカイリと申します」


 ダリアは、ルチアとヴィオレットを出迎える。

 コーデリアとカイリも、二人の前に出て、挨拶を交わした。


「よ、よろしくお願いします」


「よろしくお願いします」


 ルチアは、少々、緊張しているようだ。 

 だが、ヴィオレットは、落ち着いている。

 本当は、緊張しているが。

 それを隠しているのだろう。


「おめでとう。本当に、よく頑張ったわね」


「「ありがとうございます」」


 ダリアは、ねぎらいの言葉を二人にかける。

 本当に、よく、乗り越えたと思っているのだ。

 ヴァルキュリアになるために、厳しい訓練を受けてきたのだから。

 言葉をもらったルチアとヴィオレットは、微笑みながら、頭を下げた。

 うれしいのだろう。

 女帝から、直々にねぎらいの言葉をもらったのだから。


「これから、世界を守って頂戴」


「「はい」」


 ダリアは、ルチアとヴィオレットに、世界の事を託す。

 妖魔を倒せるのは、ヴァルキュリアだけなのだ。

 もちろん、アマリアも、倒せる力をその身に宿しているのだが、ヴァルキュリアを誕生させるために、生きてもらわなければならない。

 ゆえに、ダリアは、ヴァルキュリア達に託すしかなかった。

 世界の行く末を。

 もちろん、ルチアとヴィオレットは、そのつもりだった。


「それでね、あなた達に話さなければならない事があるの」


「何でしょうか?」


 ダリアは、ここで、トーンを落とす。

 大事な話をしなければならないのだ。

 彼女達にとって、重要な。

 だが、ルチア達は、何を話すのか、まだ、わかっていないようだ。

 ヴィオレットは、驚きつつも、ダリアに問いかけた。

 堂々とした様子で。


「それは、私からお話します」


「アマリア様」


 ダリアの隣にいたアマリアが、一歩前に出る。

 まるで、覚悟を決めたかのように。

 ルチアは、状況も把握できず、アマリアの方へと視線を向けた。

 アマリアは、いつになく、真剣な眼差しで、二人を見ている。

 ゆえに、どのような話をするのか、予想もできないほどであった。


「これから、話す事は、ヴァアルキュリアの結末の事です」


「ヴァルキュリアの結末?」


 アマリアは、静かに語る。

 何か、決意を固めたかのように。

 だが、ヴァルキュリアの結末とは、一体、何なのだろうか。

 ヴィオレットは、見当もつかないようで、アマリアに問いかけた。


「ヴァルキュリアは、宝石を使う度に、神の力と魂が、融合していきます」


 アマリアは、淡々と説明していく。

 まず、アマリアが、説明したのは、宝石の事だ。

 宝石は、変身する時、ヴァルキュリアの固有技で発動する時に、使用する。

 つまり、一度に、二回、力を使用することになるのだ。

 しかも、どういうわけか、力を使う度に、自分達の魂と宝石に宿る神の力と融合するらしい。


「そして、完全に融合した場合は……」


 アマリアは、完全に融合した場合、どうなるかを説明しようとする。

 だが、中々、言えずにいた。

 それ以上は、言えないのだろうか。

 ルチアとヴィオレットは、立たずを飲んで見守る。

 そうするしかなかったのだ。

 アマリアが、思いつめているような気がして。


「神魂の儀を行います」


「神魂の儀?」


 聞いたことない言葉だ。

 神魂の儀とは、どのような儀式なのだろうか。

 ルチアは、見当もつかないようで、首をかしげる。

 ヴィオレットも、知らないようで、アマリアの方をじっと見つめていた。


「はい。神様が封印されている事は知っていますね?」


「あ、はい……」


 アマリアは、神様について問いかける。

 確かに、ルチアも、ヴィオレットも、神様が帝国の地に封印されている事は、知っていた。

 太古、大戦で、神様は、ヴァルキュリア達と共に戦ったが、封印されてしまったらしい。 


「ヴァルキュリアの魂は、神の力を得ます。その魂を捧げて、神様を復活させなければならないのです」


「それは、つまり……」


「……」


 アマリアは、説明する。

 ヴァルキュリアは、神の力と融合する。

 すなわち、神の力を得るという事だ。

 完全融合したヴァルキュリアの魂は、最後に、神様に捧げることになっているのだ。

 神の力と魂で、神様は、復活するらしい。

 それは、何を意味しているのか、ヴィオレットは、悟ってしまったようで、アマリアに問いかける。

 だが、アマリアは、黙ってしまった。

 答えられなくなってしまったのだ。

 ルチアやヴィオレットにとって、あまりにも、残酷な答えであったから。


「死ぬ、と言う事よ」


「え?」


 ダリアが、代わりに答える。

 本当に、残酷だ。

 最後に、ヴァルキュリアは、死ぬのだ。

 命や魂を犠牲にして。

 ルチアは、驚愕してしまった。

 衝撃を受けたのだろう。

 ある程度、察していたヴィオレットは、うつむいてしまった。

 この嫌な予感が当たらなければと、思っていたのだ。

 だが、当たってしまった。

 ゆえに、何も、言えなかった。


「ごめんなさい。今まで、黙ってて……」


「私が、言わないようにと言ったのよ。ごめんなさいね」


「い、いえ……」


 アマリアは、声を震わせる。 

 罪悪感を感じているのだ。 

 もし、ヴァルキュリアになる前に、話せていたら、選択肢はあったはずなのだ。

 知ったうえで、選んでほしかったと思っているのだろう。

 ルチアも、ヴィオレットも、生きてほしいと願っていたのだから。

 ダリアが、謝罪する。

 アマリアに口止めしていたのは、他でもないダリアだったのだ。

 ダリアの命令とあれば、アマリアも、言えないのは、当然だ。

 ゆえに、ヴィオレットは、責めるつもりはなかった。

 アマリアの事を想うと。


「神様に魂を捧げる事は、名誉な事よ。あなた達の魂で、神様が、復活して、世界は、守られるのだもの」


 ダリアは、アマリアの代わりに説明する。

 確かに、最後には、命を落としてしまう。 

 だが、それは、ヴァルキュリアにとっては、名誉な事なのだ。

 神様が、復活すれば、世界は、完全に守られるという。

 つまり、彼女達の死は、無駄ではないと言いたいのだろう。


「神が、復活すれば、妖魔だって一瞬で、消えてしまうわ」


「つまり、もう、誰も、妖魔に殺されることはないという事ですか?」


「そうよ」


 ダリア曰く、神様が、復活すれば、妖魔がいない世界になるというのだ。

 誰も、妖魔に怯える事はない。

 誰かが、妖魔に殺されることはなくなるのだ。

 ルチアは、それを悟り、ダリアに問いかける。

 ダリアは、微笑みながら、うなずいた。


「だったら、私、神様の為に、魂を捧げます!!」


「え?」


「ルチア?」


 ルチアは、魂を捧げる事を宣言した。

 これには、さすがのアマリアも、驚きを隠せない。

 予想外の言葉だったからだ。

 死を恐れると思っていたから。

 それは、ヴィオレットも、同様だ。

 なぜ、魂を捧げると宣言したのか。

 ヴィオレットは、理解できなかった。


「もう、誰も、死なせたくないんです。私の魂で、神様が、復活するのであれば、命だって惜しくありません」


「……」


 ルチアは、妖魔のいない世界にしたいのだ。

 妖魔がいなくなれば、もう、誰も、殺されずに済む。

 自分の魂で、それが、成せるのであれば、死を恐れることなどないのだ。 

 ゆえに、ルチアの決意は固かった。

 だが、ヴィオレットは、複雑な感情を抱いていた。

 ルチアの事を大事に思うがゆえに。


「……私も、同じです。神様の為に、魂を捧げる事を誓います」


「ありがとう」


 ヴィオレットは、心情を悟られないように、宣言した。

 ルチアと同じ決意だと。

 ダリアは、微笑み、アマリアは、複雑な感情を抱いた。

 だが、この時、まだ、ルチアは、知らなかった。

 ここで、ルチアとヴィオレットの意思が、同じではなかったなどと。

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