第十三話 希望となった少女達
女帝と謁見したルチアとヴィオレット。
その後は、研究所へと案内された。
なぜかは、詳しくは知らされていないが。
研究室に入ると、研究者達は、ルチアをヴィオレットを歓迎する。
続けて、女研究者から説明を受けた。
「では、これから、とある術式を君達にかける」
「とある術式、ですか?」
「そうだ」
女研究者は、ルチア達に告げる。
だが、とある術式とは、一体、何の術なのだろうか。
ルチアは、思考を巡らせるが、見当もつかない。
それゆえに、首をかしげて、問いかけた。
「この術は、宝石を体の中に埋め込む術式だ」
「か、体の中に!?」
衝撃的であった。
なんと、ヴァルキュリアが使用する宝石を体の中に埋め込むための術式だというのだ。
どうやって、埋め込むのだろうか。
痛みを感じるのだろうか。
ルチアは、驚き、動揺していた。
不安に駆られているのだろう。
「そう、驚くな。宝石を体の中に埋め込むことで、再生能力を得ることができるんだ」
「再生能力?」
「そうだ。宝石を埋め込むことで、心臓を貫かれても、首を切り落とされても、再生してしまうさらしいぞ」
女研究者は、淡々と説明する。
宝石を体名の中に埋め込むことは、意味があるのだと。
宝石を埋め込むことによって、再生能力を得るというのだ。
ヴィオレットは、女研究者に問いかける。
再生能力を得られるなど、聞いていなかったからであろう。
致命的な怪我を負っても、心臓を貫かれても、首を切り落とされても、即死しないという。
つまり、死なない体になるという事だ。
神様に、魂を捧げるその日まで。
「それも、宝石を使うことになるんですか?」
「そうなるらしいが、私はよくわからなくてね。アライア研究室長なら、詳しく説明してくれるはずなんだが……」
ルチアは、問いかける。
宝石を埋め込むことによって、再生能力を得るという事は、宝石を使用することになるのではないかと。
だが、女研究者は、詳しくは知らないようだ。
これを知っている者は、責任者であり、研究室長であるアライアのみだという。
実は、詳しく聞いたことはあるが、話についていけなかったのだ。
それほど、複雑だったという事なのだろう。
「アライア研究室長は今、どこに?」
「さあな。あの人、変わり者だから。あたしらに、仕事押し付けたんだよ」
「そ、そうなんですか」
ヴィオレットは、アライアが、どこにいるのかを尋ねるが、女研究者は、首を横に振る。
彼女曰く、アライアは、変わり者らしい。
ゆえに、誰にも告げず、どこかに出歩いてしまう事は、しょっちゅうあるようだ。
大事な術式を発動しなければならないというのに、アライアは、女研究者に仕事を押し付けてしまったらしい。
相当の変わり者のようだ。
ルチアは、戸惑いながらも、問いかけると女研究者は、ため息交じりにうなずいた。
「さあ、始めるぞ。心配はいらない。アライア研究室長が、発案した術式だからな」
「はい」
女研究者は、ルチアとヴィオレットを楕円形のカプセルの中で眠らせる。
アライアが、開発した物だという。
このカプセルの中に術式を埋め込んであるらしい。
ルチアとヴィオレットは、静かに眠りについた。
眠気が突然、襲ってきたのだ。
実は、睡眠術が、施されていたのだ。
それゆえに、ルチアとヴィオレットは、眠らされていた。
強制的に。
「お願いしますよ」
「もちろんだよ」
女研究者が、ルチアとヴィオレットが眠ったのを確認すると、ある人物に声をかける。
どうやら、術をかけるのは、彼女ではないらしい。
声をかけられたものは、静かに、二人の前に立った。
その人物こそが、アライアであった。
しかも、奥にかけられた布を外すと宝石が埋め込まれた体が結晶の中で眠っていたのだ。
その素顔はルチア、ヴィオレットにそっくりであった。
術が終わると、ルチアとヴィオレットは、研究室を出た。
「大丈夫だったね」
「ああ」
不安に駆られていたルチアであったが、眠りについたためか、痛みを感じなかったのだ。
それどころか、一瞬で終わった気がした。
「どこも、痛くない?」
「痛くないな。ルチアは?」
「うん、大丈夫」
ルチアは、ヴィオレットに尋ねる。
一瞬の出来事とは言え、宝石を体に埋め込まれたのだ。
痛みを感じるのではないだろうか。
ルチアは、ヴィオレットの身を案じていた。
だが、ヴィオレットは、痛みを感じていない。
それどころか、ルチアの事を心配していたようだ。
無論、ルチアも、痛みを感じなかった。
ルチアは、衣服の上から、胸元に手を当てている。
すると、固い物が手に触れた。
「本当に、宝石がある。埋め込まれたんだ」
「不思議だな」
「うん」
その固い物こそ、宝石だったのだ。
それゆえに、ルチアは、本当に、自分の体の中に宝石が埋め込まれたのだと、感じていた。
ヴィオレットも、不思議に感じているようだ。
宝石が、埋め込まれたというのに、違和感を感じない。
以前と同じように思えてならなかったのだろう。
「次は、ヴァルキュリアのみんなと会うんだよね?」
「そうだったな」
宝石を埋め込まれたルチアとヴィオレットであったが、まだ、やることはある。
次は、いよいよ、現役のヴァルキュリア達とのご対面だ。
彼女達を遠くから見ていたルチアとヴィオレットであったが、いよいよ、間近で対面することになる。
そう思うと、ルチアは、少々、緊張していた。
王宮に戻るルチアとヴィオレットは、ヴァルキュリア達が、待機している部屋へとたどり着いた。
「し、失礼します」
ルチアは、緊張しながらも、部屋へ入る。
ヴィオレットは、冷静な表情で。
すると、部屋には軍服を身に着けた四人の少女達が、ルチア達を出迎えた。
「初めまして、貴方達が、新しいヴァルキュリアね」
「それも、期待の新人の、ね?」
最初にルチア達を出迎えてくれたのが、赤い髪の少女だ。
彼女は、穏やかな表情を浮かべている。
しっかりとした口調は、まるで、リーダーのようだ。
続いて、青い髪の少女が、静かに、微笑んだ。
その様子は、少々、妖艶なお姉さんのように思えてならなかった。
「へぇ、かわいい子達じゃない。仲良くしたいな♪」
「緊張してるのかい?緊張しなくてもいいぜ?」
続いて、話しかけてきたのは、緑の髪の少女だ。
ルチアよりも、身長が低く、可愛らしい。
無邪気な少女、と言ったところであろうか。
最後に、話しかけてきたのは、黄色の髪の少女だ。
話し方は、豪快であり、姉御肌な少女のようであった。
「自己紹介が遅れたわね。私は、火のヴァルキュリアのカレンよ。ヴァルキュリアのリーダーをやってるの」
「私はぁ、水のヴァルキュリアのセレスティーナよぉ?よろしくね」
自己紹介をしたのは、赤い髪の少女だ。
その少女こそが、カレンであり、ヴァルキュリアのリーダーであった。
続いて、青い髪の少女、セレスティーナが、自己紹介をする。
ゆったりとした口調ではあるが、穏やかな表情だ。
妖艶のように思えたが、優しいお姉さんのようにも思えた。
「はいは~い、ちゅうもーく。ライムは、風のヴァルキュリアのライムだよ。よろしくねん」
「あたしは、地のヴァルキュリアのベアトリスだ。よろしくな」
緑の髪の少女が、陽気に手を上げる。
その少女こそ、ライムだ。
可愛らしく、本当に、無邪気であった。
黄色の髪の少女が、にっと、笑みを浮かべて、自己紹介をする。
頼りになる姉御のようだ。
「は、華のヴァルキュリアのルチアです。よろしくお願いします」
「雷のヴァルキュリアのヴィオレットです。よろしくお願いします」
「よろしく」
ルチアは、緊張しながらも、自己紹介をする。
ガチガチのようだ。
ヴィオレットも、頭を下げるが、やはり、緊張しているらしい。
そんな彼女達をカレン達は、優しく出迎えてくれた。
この時、まだ、侵食は進んでいなかったのだ。
ゆえに、彼女達の笑みは、温かみを感じていた。
「これからは、命がけの戦いになるわ。でも、安心して。私達と一緒なら、大丈夫だから」
「それに、私達はぁ、死なないし、ね」
カレンは、真剣な眼差しで、語る。
これからは、妖魔達と戦うことになる。
妖獣とは違って、強敵だ。
と言っても、一人で戦うわけではない。
カレン達も、最初は、サポートしながら、戦うつもりだ。
それに、セレスティーナの言う通り、死ぬ事はない。
宝石を体に埋め込まれた事で、再生能力がその身に宿っているからだ。
ゆえに、カレンとセレスティーナは、ルチアとヴィオレットの不安を取り除こうとしてくれているのだろう。
そう思うとルチア達は、ありがたいと感じていた。
「次は、凱旋パレードだね」
「楽しみだねぇ。酒は、飲めるのか?」
「飲めないわよ」
ライムは、楽しそうに語る。
次は、待ちに待った凱旋パレードだ。
王宮エリアだけではなく、他のエリアでも、行われる。
ゆえに、ヴァルキュリア達も、帝国の民も、帝国兵も、楽しみにしているのだ。
ベアトリスは、酒が飲めるかどうかが、気になっているらしい。
当然、飲めないため、カレンが、否定するが。
そのやり取りが、普段の自分達と変わりないように思えてならない。
ルチアとヴィオレットは、不安が取り除かれたような気がして、微笑んでいた。
その後、凱旋パレードが、始まった。
ルチア達が、アライアが開発した空を飛ぶ石板に乗って、移動し始めた。
ゆっくりと。
ルチア達を一目見ようと、帝国の民が、外に出ている。
カレン達も、笑みを浮かべて、手を振っている。
彼女達の表情は、とても、穏やかだ。
うれしいのだろう。
仲間が増えたのだから。
ルチアとヴィオレットも、笑みを浮かべながら、手を振った。
それも、嬉しそうに。
彼女達の様子を王宮から、ダリア、コーデリア、そして、アライアが見ていた。
「ふふ、盛り上がってるわね」
「そうですわね、お母様」
ダリアとコーデリアは、嬉しそうだ。
もちろん、ヴァルキュリアの誕生は、うれしい。
だが、彼女達の笑みは、帝国の民とは、別の意味を現していた。
「これで、神は、復活できるでしょうね」
「ええ。そうすれば、世界は私達のものよ。楽しみね」
アライアが、ダリアに語りかける。
三人は、知っているのだ。
神魂の儀の真実を。
魔神を復活させることこそが、彼女達の野望だったのだから。
ダリアたちは、その時を待ちわびていた。
いつか、誰かが、神魂の儀を行い、魔神を復活させてくれると信じて。
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