第十一話 運命の出会い

「な、なんで……」


 突然、妖獣が現れたことにより、ルチアは、驚きを隠せない。

 何が起こったのか、未だ、理解できないのだ。

 それは、ヴィオレットも、同じであった。

 予想もしていなかったのだ。

 妖獣がすぐ近くにいたとは。

 警戒し、構えようとするルチア達。

 だが、多くの妖獣が、ルチア達を取り囲んでいた。


「まずい、妖獣だ!!」


「しかも、こんなにも!!」


「どこから、出やがった!!」


 帝国兵も、動揺しているようだ。

 誰も、気付いていなかったらしい。

 なぜ、こんなにも、多くの妖獣がいたのか。

 すぐ近くに。

 しかも、なぜ、自分達は、気配に気付かなかったのか。

 何が起こったのか、誰も、理解できなかった。


「ヴィオレット!!」


「ああ!!」


 今は、妖獣を倒す事だけに集中しなければならない。

 ルチアも、ヴィオレットも、地面を蹴って、妖獣達に向かっていく。

 帝国兵も、妖獣達に向かっていった。

 試練どころではないと、判断したのであろう。 

 だが、妖獣達は、容赦なく、次々と帝国兵を切り裂いた。


「うあっ!!」


「ぐああっ!!」


 妖獣達に切り裂かれた帝国兵は、血を流して、倒れる。

 他の帝国兵も、応戦するが、妖獣の多さに圧倒され、斬られてしまったのだ。

 ついに、戦えるものは、ルチアとヴィオレットだけとなってしまった。


「まずい……」


「どうしよう……」


 ルチアも、ヴィオレットも、困惑しているようだ。

 このままでは、死ぬかもしれない。

 ヴァルキュリアになる前に。

 そう思うと、ヴィオレットは、歯を食いしばり、ある事を決意した。


「ルチア、ここから逃げろ!!」


「ヴィオレット、なに言ってんの!!」


 ヴィオレットは、ルチアに向かって叫ぶ。

 ルチアを助けようとしているようだ。

 帝国兵は、目を閉じたまま、動かない。

 殺されてしまったのだろう。

 次の狙いは、自分達のはず。

 ゆえに、ルチアだけでも、逃がそうとしたのだ。

 自分を犠牲にして。

 ルチアは、その事に納得できず、反論した。


「もう、このままでは、二人とも殺される。だから……」


「嫌だよ!!」


「ルチア……」


 ヴィオレットは、ルチアを守ろうとしているのだ。

 このままでは、二人とも、殺されてしまうと、懸念して。

 だが、ルチアは、首を横に振り、ヴィオレットの懇願を拒絶した。

 それも、必死に。


「ヴィオレットを失いたくない!!」


「だが……」


 ルチアは、涙ながらに訴えた。

 もう、失いたくないのだ。

 大切な人を。

 両親が死に、カトレアが、行方不明になってから、ヴィオレットだけが、心の拠り所であった。

 もちろん、アマリアも、家族になってくれたが。

 ヴィオレットは、特に大事に思ってきたのだ。

 それでも、ヴィオレットは、ためらった。

 このままにしていいわけがなく。

 だが、妖獣達は、容赦なく、ヴィオレットに斬りかかろうとしていた。


「ヴィオレット!!」


 ルチアは、ヴィオレットの元へ、駆け寄ろうとする。

 ヴィオレットを守るためだ。

 だが、その時であった。

 突然、妖獣が、何者かによって、切り裂かれたのは。


「え?」


「何が、起こって……」


 ルチアとヴィオレットは、あっけにとられる。 

 何が、起こったのか、状況を把握できていない。

 誰が、妖獣を倒したのだろうか。

 ルチアとヴィオレットは、見当もつかない。

 すると、二人の前に、白い髪の少年と黒い髪の少年が、現れた。


「大丈夫?」


「あ、はい……」


 白い髪の少年は、ルチア達の元へ歩み寄る。

 ルチアは、戸惑いながらも、少年達の方へと目を向ける。

 二人の少年は、剣を手にしていた。 

 それこそが、本で見た古の剣であった。

 つまり、二人は、騎士だ。

 ヴァルキュリアを守る騎士が、ルチアとヴィオレットを助けに来たのだろう。


「来るぞ。構えろ」


「わかった」


 黒い髪の少年は、冷静な表情で、構える。

 だが、冷たい印象は受けない。

 ヴィオレットのように、どこか、優しさを感じたのだ。

 ヴィオレットも、続けて、冷静な表情で構える。

 ルチアと白い髪の少年も。

 ルチア達は、地面を蹴り、妖獣達に向かっていった。



 しばらくして、妖獣達は、全滅した。

 ルチア達は、連携を取り、妖獣達を追い詰めていったのだ。

 それにより、誰一人、殺されることなく、無事であった。

 

「ふぅ、助かった」


「そうだな」


 ルチアは、息を吐き、汗をぬぐう。

 緊張感が解けたようだ。

 ヴィオレットも、安堵したのか、息を吐き、心を落ち着かせた。

 ルチアが、無事でよかったと思いながら。


「二人とも、怪我はない?」


「あ、はい」


「良かった」


 白い髪の少年が、ルチアとヴィオレットの元へと歩み寄る。

 二人の事を気遣ってくれているようだ。

 ルチアは、強くうなずく。

 彼女達の様子をうかがった白い髪の少年は、微笑んだ。

 安堵しているのだろう。


「でも……」


 自分達は、無事だった。

 だが、共にここへ来た帝国兵は死んでしまった。

 ルチアは、自分の事を責めていたのだ。

 自分が、妖獣の気配に気付いていれば、守れたかもしれないと思うと。


「大丈夫だ。まだ、生きてる」


「え?」


 黒い髪の少年は、ルチア達の元へ歩み寄り、告げる。

 帝国兵は、まだ、生きているというのだ。

 驚くルチア。

 黒い髪の少年が、何も言わず、指を指し、ルチア達は、視線を変えると、なんと、帝国兵達は、立ち上がっていた。

 怪我も癒えている状態で。


「本当だ」


「いつの間に……」


 ルチアは、あっけにとられている。

 帝国兵は、死んだと思い込んでいたのだろう。

 だが、それは、ヴィオレットも同じだ。

 いつの間に、傷が癒えていたのだろうかと、推測したが、見当もつかなかった。


「重傷だったけど、俺達が、戦っている間に、皆が治してくれたんだ」


 白い髪の少年曰く、自分達が、戦っている間に、彼らの仲間が、帝国兵の傷を癒してくれたようだ。

 そのおかげで、彼らは、生き延びることができたのだろう。


「ありがとうございます!!」


「本当に、助かりました」


「いいって」


 ルチアは、頭を下げる。

 本当に、喜んでいるのだろう。

 ヴィオレットも、静かに微笑んだ。

 彼女達の笑みを目にした白い髪の少年は、笑みを浮かべる。 

 穏やかな表情で。


「気をつけろよ。ここは、危険だ」


「はい」


 黒い髪の少年は、忠告する。

 言い方は、冷たく感じるが、ルチア達の事を想っていったのだろう。

 心配してくれたのだ。

 ルチアは、その事に気付いており、笑みを浮かべる。 

 ルチアの笑みを目にした黒い髪の少年は、目を背け、歩き始めた。

 照れているようだ。

 白い髪の少年は、ルチア達に手を振りながら、去っていった。


「すごかったね」


「ああ」


「また、会えるかな」


「かもしれないな」


 ルチアとヴィオレットは、二人の少年の強さに圧倒された気がした。

 本当に、強いと感じて。

 自分達以上に、厳しい訓練を受けたかのように思えたのだ。

 彼らは、騎士のようだが、また、どこかで会えるかもしれない。 

 ルチアとヴィオレットは、そんな気がしてならなかった。



 ルチア達の様子をダリアは、目を閉じながら見ていた。

 特殊な魔法を使って。


「あら、とんだ、助っ人が現れたものね」


 ダリアは、不敵な笑みを浮かべる。

 実は、妖獣が突如、現れたのは、ダリアの差し金だったのだ。

 妖魔に命じて、妖獣を生み出させた。

 ルチア達を試すかのように。

 だが、騎士である少年達が、現れたのは、予想外だ。

 それでも、ルチア達の強さを見極めることができた。

 自分が予想していた以上よりも、強いと感じたのだ。

 そう思うと、ダリアは、微笑んでいた。



 無事に帝国に戻ったルチア達。

 帝国兵が、キウス兵長に報告し、試験は、合格となった。

 途中、予想外の事が起こったものの。

 こうして、ルチア達は、試練を乗り越えたのであった。

 それから、一週間後、王宮前の広場にて、ヴァルキュリア誕生の儀が、行われることとなった。

 特別な儀と言うだけあって、一般人にも、公開されることになっている。

 そのせいで、広場は、人だかりができていた。

 多くの帝国兵や、ヴァルキュリア達が、見守る中、誕生の儀が、行われようとしていた。


「これより、ヴァルキュリア、誕生の儀を行います。では、二人のヴァルキュリア候補よ、前へ」


「「はい」」


 キウス兵長が、ルチアとヴィオレットに前に出るよう指示する。

 ルチアとヴィオレットは、緊張しながらも、前に出た。


「アマリア様、お願いいたします」


「はい」


 さらに、アマリアが、ルチアとヴィオレットの前に立つ。

 母親としてではなく、聖女として。

 ルチアとヴィオレットは、静かに頭を下げ、アマリアは、二人に向かって手をかざした。


「神よ、この者たちに、力を与え給え」


 アマリアは、呪文を唱えながら、力を与える。

 すると、二人が、手にしていたピンクと紫の宝石が、輝き、ルチアとヴィオレットも、輝き始めた。

 二人のオーラと宝石の中に宿る神の力が、つながった瞬間だ。

 アマリアは、オーラと神の力をつなげる事で、少女達をヴァルキュリアへと覚醒させているのだ。

 なぜ、このような力をその身に宿しているのか、アマリア本人も、わからないのだが。

 光が止み、ルチア達は、顔を上げた。


「これで、ヴァルキュリアになれるはずです」


「はい」


 アマリアは、二人に告げる。

 ルチアとヴィオレットは、うなずき、宝石を握りしめた。

 すると、宝石が光り始め、光が、ルチアをヴィオレットを包みこんだのだ。

 光が止むと、ルチアとヴィオレットは、ヴァルキュリアに変身していた。

 ヴァルキュリアが、誕生したのだ。

 彼女達を目にした帝国の民は、歓声を上げた。


「本当に、なれた」


「ああ」


 ルチアとヴィオレットは、あっけにとられながらも、互いを見合わせる。

 そして、微笑みながらも、涙を流した。

 うれしいのだろう。

 ようやく、念願のヴァルキュリアになれたのだから。

 そんな彼女達の様子をアライアは、遠くから見ていた。


「これで、二人は、晴れてヴァルキュリア、か」


 ルチアとヴィオレットを目にしたアライアは、微笑んでいた。

 この時、まだ、二人は、知らなかった。

 ヴァルキュリアになるという事は、過酷であり、理不尽であり、残酷である事を。

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