第十話 ヴァルキュリアになるための試練

 ルチアとヴィオレットが、王宮エリアに移り住んでから、二年の月日が経った。

 ルチアが、十二歳、ヴィオレットが、十五歳の少女へと成長した。

 成長して、ますます、可愛らしく、美しくなった二人。

 王宮にいる貴族たちが、振り返るほどだ。

 毎日、訓練を重ね、ルチアとヴィオレットは、たくましく、生きていた。

 今日は、訓練も、休みの為、ルチアとヴィオレットは、街中を歩いているのだ。

 二人、行きつけのお店があり、そこで、ランチを楽しんでいた。


「美味しい!!これ、美味しいね。ヴィオレット」


「そうだな」


 ルチアは、美味しそうに、オムライスをほおばっている。

 ルチアのお気に入りだ。

 ここのお店は、帝国兵に教えてもらったのだ。

 アマリアも、連れていきたかったのだが、アマリアは、公務で忙しい。

 ゆえに、今は、二人で、ランチを楽しんでいた。


「でも、いよいよかぁ」


「緊張してるか?」


「うん、ちょっとね。ヴィオレットは?」


「……私もだ」


 二年の月日が経ったが、実は、ヴァルキュリアになる時が来たのだ。

 ゆえに、ルチアは、緊張している。

 ついに、この日が来たかと思うと、緊張してしまうのだろう。

 ヴィオレットも、珍しく、緊張しているようだ。

 当然かもしれない。

 ヴァルキュリアになるという事は、念願ではあるが、命がけではあるのだから。

 その時であった。


「ねぇ、ヴァルキュリア様よ!!」


「本当だ!!」


 店にいた帝国の民が、外の方へと指を指す。

 なんと、ヴァルキュリアが、任務から帰ってきたようだ。

 帝国の民は、ヴァルキュリアの一目拝みたいと言わんばかりに、ランチを中断させ、店から出る。

 ルチアとヴィオレットも、慌てて外に出た。

 外に出ると、軍服姿の少女達が、王宮に向かって進んでいる。

 ヴァルキュリアの姿は、拝められなかったようだ。

 当然かもしれないが。


「あの方々が、ヴァルキュリア……」


「綺麗……」


 別格だった。

 帝国兵よりも、凛々しく、勇ましい。

 まるで、女神を見ているかのようだ。

 いつも、冷静なヴィオレットが、ヴァルキュリアに見とれている。

 もちろん、ルチアもだ。


「私達も、ついになるんだよね?」


「ああ」


「楽しみ、だね」


「そうだな」


 彼女達を目にして、ルチアとヴィオレットは、実感がわいた気がした。

 改めてだが。

 ルチアは、緊張しながらも、楽しみにしていた。

 彼女達と共に、ヴァルキュリアに変身して、世界を守るために、戦えるのだkら。

 もちろん、ヴィオレットも同様だ。

 ゆえに、ルチアとヴィオレットは、その日を楽しみにしていた。



 数日後、ついに、ヴァルキュリアになる為、ルチアとヴィオレットは、訓練場に来ていた。

 その日は、皇族を護衛しているキウス兵長が、来ている。

 それに、アマリアも。

 アマリアは、不安げな表情ではあるが、ルチアとヴィオレットを見守っていた。


「いよいよ、お前達は、ヴァルキュリアになる。覚悟は、いいか?」


「「はい」」


「いい返事だ」


 キウス兵長は、ルチアとヴィオレットに問いかける。

 覚悟があるかどうかを、確認する為に。

 もちろん、ルチアとヴィオレットは、迷いなどなかった。

 ヴァルキュリアになるために、今まで、訓練してきたのだから。

 彼女達の返事を聞いたキウス兵長は、微笑んだ。


「では、お前達には、試練を受けてもらう。この試練に合格すれば、ヴァルキュリアの儀式が受けられるぞ」


「試練って、何をすればいいんですか?」


 キウス兵長は、説明する。

 ヴァルキュリアになるためには、試練に合格しなければならないのだ。

 全てを見極める為に。

 だが、試練とは、何をするのだろうか。

 ルチアは、見当もつかないようで、キウス兵長に問いかけた。


「ルーニ島に降りて、妖獣を倒す事だ」


「妖獣、妖魔から生まれる魔物の事ですね?」


「そうだ」


 試練の内容は、妖獣を倒すという事のようだ。

 ヴィオレットは、妖獣についても知っていた。

 もちろん、ルチアもだが。

 妖獣は、妖魔から生まれるが、妖魔ほど手強くはない。

 と言っても、油断すれば、命を落としかねない。

 ゆえに、試練としては、申し分ないのだろう。


「エデニア諸島は、ある島を除いて、結界が張られてある。妖魔は、侵入できないが、妖獣は、侵入できてしまうのだ。どういうわけかは、わからんが」


 エデニア諸島は、遺跡や大精霊の力により、結界が張られている。

 と言っても、レージオ島は、遺跡も大精霊もいないため、よく、妖魔が、出現してしまうのだ。

 だが、なぜかは、不明だが、たまに、レージオ島以外にも、妖魔は、出現するようだ。

 結界を張っているにも関わらず。

 ゆえに、ヴァルキュリアは、レージオ島での任務がほとんどだ。

 妖獣は、結界をすり抜けて、侵入してしまう。

 なぜなのかは、未だ、不明なのだが。


「妖獣なら、ヴァルキュリアでない私達も倒すことができる。お前達もな」


 妖獣を倒せないのであれば、酔うまでさえも、倒せないはず。

 だからこそ、妖獣を倒す事を試練としたのだ。

 だが、妖獣なら、ルチアとヴィオレットも、簡単に倒せるはずであろう。

 キウス兵長は、ルチア達の訓練成果を帝国兵から聞いているのだ。

 ゆえに、今回の試練は、問題ないと思っているのだろう。


「私達、頑張ります!!試練に合格して、ヴァルキュリアになります!!」


「ヴィオレット、お前は?」


「私もです。ルチアと共に、ヴァルキュリアになります」


 迷いなどなかった。

 この時の二人は、死を恐れてなどいなかったのだ。

 緊張は、していたが。

 ヴァルキュリアになるという事は、死と隣り合わせだ。

 今まで、ルチアとヴィオレットは、訓練を受けて、それを理解してきた。

 その事を理解し、受け入れた二人に、もはや、迷いなどなかった。


「では、試練を開始する!!」


「「はい!!」」


 こうして、試練が、開始された。



 ルチア達は、王宮エリアの地下にある魔法陣から、帝国兵と共に、ルーニ島に降り立つ。

 帝国兵は、試験官として、降り立ったのだ。

 もちろん、万が一の場合も備えてだが。


「ここにいるんだよね?」


「そうだな」


 ルチアとヴィオレットは、あたりを見回す。

 見えたのは、遺跡だ。

 どうやら、遺跡の近くに降り立ったようだ。

 そんな二人を帝国兵は、遠くから見守っていた。

 二人が、試練を乗り越えられると信じて。


「ルチア、大丈夫か?」


「うん、大丈夫だよ」


 ヴィオレットは、ルチアを気遣う。

 だが、ルチアは、大丈夫のようだ。

 怖くないのだろう。

 その時であった。

 二人が、何かを、察知し、警戒し始めたのは。


「誰かいるな」


「うん」


 ルチアとヴィオレットは、気配を察したようだ。

 異質な気配が。

 だからこそ、警戒したのだ。

 いざという時の為に、構えるルチアとヴィオレット。 

 すると、豹に似た妖獣が、飛びだしてきた。


「妖獣だ!!」


「行くよ、ヴィオレット!!」


 妖獣が現れた。

 ついに、試練が本格的に開始されたのだ。

 ルチアは、気合を入れ、地面を蹴り、妖獣に向かっていった。


「やあっ!!」


 ルチアは、回し蹴りを放つ。

 魔技・ブロッサム・ブレイドを発動しながら。

 華のオーラは、刃と化し、妖獣を切り裂こうとする。

 だが、妖獣は、素早く、回避してしまった。


「すばしっこい!!」


「これなら、どうだ!!」


 あまりの素早さにルチアは、舌を巻く。

 やはり、訓練とは違う。

 もちろん、妖獣と戦った事もある。

 実践を積み重ねる為に。

 だが、それは、帝国兵と共に戦った時の事だ。

 今は、二人だけ。

 ルチアとヴィオレットは、二人だけで、乗り越えなければならない。

 ヴィオレットは、魔法・スパーク・ショットを発動する。

 魔法の弾は、妖獣に襲い掛かった。

 それでも、回避する妖獣。

 だが、全てを回避しきれず、足に傷を負ったが、それでも、ひるまなかった。


「しぶといな……」


 厄介な相手だ。

 この妖獣は、すばしっこい上に、しぶといようだ。

 さすがのヴィオレットも、舌を巻いた。

 妖獣は、ルチアとヴィオレットに襲い掛かる。

 だが、ルチアは、ギリギリのところまで、引き付けて、右へとよけた。


「えいっ!!」


 ルチアが、妖獣に対して、足払いをかける。

 妖獣は、一回転し、豪快に、倒れ込む。

 仰向けになって。

 これなら、起き上がるには、時間がかかるだろう。 

 倒すなら、今が、チャンスであった。


「今だよ!!ヴィオレット!!」


「よし!!」


 ルチアが、ヴィオレットに向かって叫ぶとヴィオレットが、地面を蹴り始めた。

 ルチアがくれたチャンスだ。

 それを逃してはならない。

 ヴィオレットは、地面を蹴り、跳躍した。


「はあっ!!」


 ヴィオレットは、魔技・スパーク・ブレイドを発動する。

 雷のオーラは、刃と化し、妖獣に斬りかかろうとする。

 妖獣は、起き上がるが、その直後、妖獣は、刃と化したオーラに切り裂かれ、消滅した。


「やったね!!ヴィオレット」


「ああ」


 ルチアは、ヴィオレットの元へ駆け寄る。

 二人だけで、妖獣を倒したのだ。

 これで、試練は、合格であろう。

 二人は、晴れてヴァルキュリアになれるのだ。

 そう思うと、ルチアとヴィオレットは、うれしかった。


「お見事です!!」


「これで、あなた方も、ヴァルキュリアになれますね」


「ありがとう」


 彼女達を見守っていた帝国兵が歩み寄る。

 拍手をしながら。

 うれしいのだろう。

 ヴァルキュリアが、誕生したと確信を得たのだから。

 ルチアとヴィオレットも嬉しそうだ。

 本当に。

 だが、その時であった。


「ぐぎゃ!!」


「え?」


 一人の帝国兵が、背中から血を流して、倒れる。

 それも、一瞬のうちに。

 なんと、妖獣が、帝国兵に襲い掛かったのだ。

 ルチアは、あっけにとられていた。

 何が起こったのか、理解でもできずに。

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