第七話 憧れのヴァルキュリア

 ルチアとヴィオレットが、施設に入ってから、四年の月日が経った。

 ルチアは、十歳になり、ヴィオレットは、十三歳になったのだ。

 二人とも、可愛らしい少女へと成長した。

 この日は、健診があった。

 と言っても、普通の健診ではない。

 オーラ健診と呼ばれている。

 人間、精霊、精霊人の体に、オーラは、宿っている。

 そのオーラが、不調になる事はないが、念のため、年に一度の健診が行われていたのだ。

 ルチア達は、研究所で、健診を受けていた。

 ルチアは、オーラを計測してもらっているようだ。

 オーラを可視化し、オーラの異常を見るらしい。

 それも、特別な魔法で。


「はい。いいわよ。楽にしてて」


「はい」


 計測が終わったようで、ルチアは、体を楽にする。 

 実の所、緊張していたのだ。

 悪い部分が、見つかってしまわないかと、恐れているのだろう。

 研究者の女性は、紙に記録し始めた。


「うん、調子はいいみたいね」


「はい」


 オーラを目にした女性は、ルチアのオーラに異常はないと判断したようだ。

 ルチアは、安堵したのか、元気よくうなずいた。

 本当に、安心しているようだ。

 今年も、異常はないとわかって。


「違和感を覚えたら、いつでも来なさい。オーラは、私達にとって、大事な源だから」


「ありがとうございます」


 研究者の女性は、ルチアに、忠告する。

 今は、異常はないが、いつ、異常が発生するか、わからないからだ。

 と言っても、その例はあまりない。

 オーラが、異常になる事はないのだ。

 妖魔と戦い、妖魔にオーラを傷つけられることはあるが。

 ルチアは、微笑みながら、頭を下げた。


 

 ルチアが、研究所から去った後、研究者の女性は、記録書を目にしている。  

 それも、ルチアのオーラの記録を。


――やっぱり、この子は、適正有なだけはあるわね。オーラが、強いわ。


 研究者の女性は、微笑んでいた。

 それも、不敵に。

 実は、このオーラの健診は、ヴァルキュリアになるルチアの為に、行われていたものだ。

 ルチアが、ヴァルキュリアになる前に、異常が見つかっても、対処できるように。

 と言っても、異常が見つかるはずがないと思っていたのだが。

 念のため、と言ったところであろう。


――それに、この子も……。そろそろ、動いても、よさそうね。


 研究者の女性は、もう一つの記録書を目にしていた。

 その記録書は、ヴィオレットのものであった。

 実は、ヴィオレットも、ヴァルキュリアになれる素質を持っていたのだ。

 それも、雷のヴァルキュリアに。



 何も知らないルチアは、研究所を出た。

 研究所の入り口では、ヴィオレットが待っていたのだ。

 ルチアが、研究所から出てくるのを。


「終わったよ、ヴィオレット」


 ルチアは、ヴィオレットの元へと駆け寄る。 

 まるで、妹が、姉の元へはしゃぎながら。

 ヴィオレットも、ルチアが、駆け寄った途端ルチアの頭を優しく撫でた。

 姉のように。


「どうだった?」


「うん。調子はいいって」


「そう」


 ヴィオレットは、ルチアから、結果を聞く。

 調子は、良いようだ。

 ヴィオレットは、それを聞いて安心していた。

 異常はないとわかって、ほっとしたのだろう。


「でも、ちょっと、変わった健診だったな」


「うん。オーラの健診って、聞いたことないよ」


「まぁ、重要とは言っていたからな」


 ヴィオレットは、改めて、思っていた事がある。 

 それは、先ほど、受けた健診が、オーラ健診と少々変わった健診だ。

 ヴィオレットは、エデニア諸島のルーニ島、出身ではあるが、そのような健診は、一度も、受けた事がない。

 島の民が、聞いたら、驚いてしまうだろう。 

 もちろん、ルチアも、聞いた事がない。

 不思議に感じていたようだ。

 だが、研究者曰く、オーラは、重要だと言っていた。

 その事を思い出したヴィオレットは、静かに、呟く。

 それも、しっかりとした口調で。


「今日、授業はないし。どうする?」


「図書館に行かないか?調べたいことがあるんだ」


「うん、いいよ」


 ルチアは、ヴィオレットに問いかける。

 朝は、健診の為、授業がないのだ。

 それゆえに、時間がある。

 ヴィオレットに尋ねると、図書館に行こうと誘われた。

 調べたいことがあるらしい。 

 ルチアは、うなずき、施設の隣に建設されている図書館へと向かった。


「あの二人、仲がいいわね」


「うらやましいわ~」


「美人姉妹って感じね」


 ルチア達の様子を目にした他の孤児達は、羨ましく思っているようだ。

 ルチアとヴィオレットは、仲睦まじい。

 本当の姉妹のように。

 特に、ヴィオレットは、変わった。

 ルチアの姉になると決意したあの日から、口調を変えたのだ。

 男らしく。

 ルチアを守るために。

 と言っても、彼女達は、可愛らしく、美しい。

 誰から見ても、美人姉妹と思えるほどに。



 ルチアとヴィオレットは、図書館に入り、本を読んでいた。

 ルチアも、ヴィオレットも、集中して、本を読んでいるようだ。


「なるほど……」


 本を読んでいたヴィオレットは、納得した様子で、呟く。 

 一体、どのような本を読んでいるのだろうか。

 ルチアは、気になり始めていた。


「ねぇ、何、調べてるの?」


「ヴァルキュリアの事」


「ヴァルキュリア?」


 ヴィオレットの向かいに座っていたルチアは、ヴィオレットの隣に、座り、本を覗き込むように、寄り添う。

 ヴィオレットは、ヴァルキュリアの本を読んでいたようだ。

 「ヴァルキュリア」と言う単語を耳にしたルチアは、きょとんとした様子を見せる。

 「ヴァルキュリア」の事を知らないのだろうか。


「そう、ルチアも、聞いたことあるだろ?」


「うん。伝説だもんね」


 ルチアは、「ヴァルキュリア」の事を知らないわけではない。

 「ヴァルキュリア」は、島でも、語り継がれていた伝説だ。

 女子なら、誰でもなりたいと思うほどに、強く憧れていた。

 もちろん、ルチアも、ヴィオレットも。


「ヴァルキュリアは、実際、いるらしいな」


「みたいだね。王宮エリアにいるんだよね?」


「みたいだな」


 ヴィオレットは、現在も、ヴァルキュリアに変身し、戦っている少女達がいる事を知っていた。

 妖魔は、島では、よく出現している。

 帝国では、まだ、報告されていないが。

 ヴァルキュリアに変身できる少女達は、島へと派遣され、妖魔達と戦いを繰り広げているのだ。

 島を、世界を守るために。

 現在、ヴァルキュリア達は、王宮エリアに住んでいるらしい。

 優遇されているのだろう。

 当然かもしれない。

 彼女達は、帝国や島にとって、希望なのだから。

 ルチアは、確認しながら、尋ねると、ヴィオレットは、静かにうなずいた。


「私、ヴァルキュリアになってみたいなぁ」


「けど、大変だぞ?」


「できるって。ヴィオレットと一緒なら」


 ルチアが、願っていた。

 ヴァルキュリアになれたらと。

 だが、ヴィオレットは、現実的だ。

 ヴァルキュリアになれば、過酷な試練が待ち受けているだろう。

 ルチアの事を心配しているようだ。

 だが、ルチアは、心配していないらしい。

 ヴィオレットと一緒なら、試練さえも、乗り越えられると思っているのだろう。

 これまでも、苦楽を共にしてきたのだから。


「そうだな」


 ヴィオレットは、微笑んだ。

 確かに、ルチアと一緒であれば、試練を乗り越える事は可能であろうと推測しているのだろう。

 そう思えてならないのだ。

 根拠はないのだが。

 その時であった。


「あ、いた!!ルチア!!ヴィオレット!!」


「ん?どうしたの?」


 少女が、ルチアとヴィオレットを見つけた途端、慌てて、駆け寄る。

 何かあったのだろうか。

 ルチアは、不思議に思いながらも、立ち上がり、問いかけた。


「研究所の人が呼んでたの!!話があるって」


「え!?」


 衝撃的であった。

 なんと、研究者が、二人を呼んでいるというのだ。

 先ほどの健診で、何か、異変を見つけたのだろうか。

 ルチア達は、驚きながらも、すぐさま、研究所へ向かった。



 研究所にたどり着いたルチアとヴィオレット。

 彼女達の前に、一人の女性が立っていた。

 アライアではないが。


「やぁ、初めまして。私は、ヴァルキュリアの研究を研究しているカナリアだ。よろしく」


「よ、よろしくお願いします」


 研究者の女性は、自己紹介する。

 ヴァルキュリアの研究をしているようだ。

 ルチアは、少々、緊張気味に、頭を下げた。

 まるで、恐れているようだ。 

 どんな話をするのか、予測できないからであろう。


「それで、話とは」


「うん、そうだね」


 ヴィオレットは、冷静に、問いかける。

 ルチアとは、反対に。

 さすがと言ったところであろう。 

 カナリアは、静かにうなずき、語り始めた。


「君達は、ヴァルキュリアを知っているかな?」


「も、もちろんです」


「なぜ、そのような話を?」


 カナリアは、ヴァルキュリアについて問いかけるとルチアは、恐る恐るうなずく。

 知らないはずがないのだ。

 ヴァルキュリアは、島でも、帝国でも、有名な話だったのだから。

 だが、なぜ、そのような事を問いかけたのだろうか。

 ヴィオレットは、見当もつかないようで、問いかけた。


「実はね。今回の健診でわかったんだ。君達は、ヴァルキュリアになれる素質があるってね」


「え!?」


 ルチアとヴィオレットは、衝撃を受ける。

 当然であろう。

 まさか、自分達が、ヴァルキュリアになれるとは、思いもよらなかったのだ。

 幼い頃から、憧れていたヴァルキュリアに。

 ルチアも、ヴィオレットも、目を開け、驚愕していた。

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