第14話 世界が確立した日

-- 真治


「・・・約束は守りますわ。私の事は好きにしてよろしいですわよ」


リンダが胸を張る。


「いや・・・そう言われても。不幸な行き違いもあったし、この話は無かった事にしても良いけど?」


戦いとも呼べないものだったし。


「駄目ですわ!けじめはつけさせて下さい!」


食い下がるリンダ。

じゃあ・・・


「分かった。当初提案通り、財産を貰うよ」


リンダが胸を反らし、


「幾ら渡せば良いのかしら?私が自由にできるお金は、5億を超えてますわ!」


「じゃあ、5億貰うよ」


持ってきたのが20億だから、25億になるな。


リンダは愕然とした顔で告げる。


「鬼ですわね・・・」


あれ?


-- 真治


「ねえ、これ凄いよ!見た?」


僕がみんなに言うと、みんな頷く。


「そうね。驚いたわ。これが都会の叡智・・・」


晶が慄きながら頷く。


「僕・・・もう一度やりたい」


夜歌がそっとそれに手を伸ばし・・・倒す。


ぷしゃああああああ


上部の器具━━シャワーから水が溢れる。

無事躱した夜歌が、驚きの声を上げる。


「どういう事?!何かのトラップ・・・?さっきは下から出たのに!」


「恐らく、倒す方向、ね。下に倒したら下から、上に倒したら上から出るんだと思う」


睡蓮が言う。

恐らく、正解だ。


晶がレバーを回して水を止めると、足元の水に干渉し、気化させる。


馬鹿にされては困る。

ファミリアの知識提供も受けつつ、日常生活の知識を共有した。

テレビ凄い。


-- 真治


この世界は、魔王や神王が居なくなった世界だ。

これは、大前提だ。

人類の・・・妖精の、精霊の、希望だ。


そう言われている。


「良いか、魔王や神王が生きている、そんな嘘をついた者がいた。そいつは、世界反逆罪・・・問答無用で死刑となった。お前達も覚えておけ。相手が誰であれ、人類であれ、妖精であれ、精霊であれ・・・その嘘だけは許容出来ない」


今は歴史の授業。

教諭が主張している。


「すみません、それが大罪と言う事は分かっているのですが、何故そこまで問題視されるのでしょうか?」


学生の一人が質問する。


教諭は、ちらっと学生を見ると、


「誰か答えられるか?」


すっと、別の学生が手をあげる。

先生が目で促すと、


「魔王と神王が居なくなって、初めて世界が確立したと言えるからです」


「そうだ」


教諭が頷く。

一同を見回し、続ける。


「我々、この世界に在る全ての存在は、そこに在る権利を得たのだ。魔王や神王は、世界の在り方を変えるし、この世界を何時でも終わらせる事が出来る・・・それは、異常な事だ」


これは間違っている。

精霊は、その気になれば何時でも世界の在り方を変える事が出来る。

昨日、入学式の日を変えたみたいに。


「例えば」


教諭が、ガラスのコップを取り出す。

手を離すと、徐々に加速されて落下し・・・地面の手前で静止、


ことり


ゆっくりと地面に落ちる。


「このように、地面に割れる物を落とした場合、一旦静止してから落ちる。これは世界の常識だ。だが、魔王や神王は、この様な常識すら改変してしまう。これがどういう事か、分かるな?」


ごくり


先程質問した学生が、息を呑み、答える。


「コップが・・・割れます」


教諭は満足気に頷く。


「そうだ。コップだけじゃない。お皿でも、だ」


そもそも、そうやって法則変えたのがニクスなんだよね。

お皿割ってしまって、対策したのだ。

物が途中で静止する方がおかしいと思うのだけど。


「それだけじゃないぞ。例えば、入学式は伝統的に4月1日に開催する。これは、世界常識だ。だが、今年は例外的に4月2日に開催した」


教諭が一旦言葉を区切る。

気付いてる?!


「だが、魔王や神王なら、今年も4月1日に変更する事すら容易い」


どよっ、と学生が騒ぐ。

さっきからわざとなのだろうか。

ピンポイントでニクスが世界改変した事ばかり。

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