第4話 羊飼いの少年、服屋の娘

ずりずり


グレーターブルも、順番待ちしているだけなので、別に確保しておく必要もない。

ないのだけど、一応目印代わりというか、習慣というか。


ひゅおおおお


夜歌のファミリア、ロウ。

透き通る様な薄紫の毛並みの狼、聖精霊だ。

風を巻き起こし、家畜達を巻き上げ、遊んでやっている。


「ブル連れて来てー」


夜歌の声に、のそのそとグレーターブルが、夜歌に向かって歩き出す。


ずるずる


引きずられる僕。


「有難う〜」


夜歌は僕にそう言うと、グレーターブルの毛を刈り始めた。

次は・・・


ぽーん


ロウが竜巻から羊を一匹弾き出す。


ふわ


僕の近くに降ろされる。


がし


確保しておく。

流石に羊なら確保できる。


とりあえず、手伝いにはなってないと思う。


-- 真治


「もう無理だよ・・・」


睡蓮すいれんが呻く。


「分からないよね・・・」


僕が同意する。

睡蓮は幼馴染の女の子。

黒髪黒目、長髪。

お人形さんの様な美人さんだ。

宿屋と服屋の看板娘。

明るく、優しく、色々器用にこなす。

人気者だ。


・・・でも、この数学やら物理学やら・・・こいつ等は駄目だ。

歴史はまだ何とかなったが、他は無理だろう。

晶の様な例外はおいておいて。


尚、夜歌はそもそも歴史も諦めている。

勉強誘いに行く度、気付いたら牧場の世話を手伝っている。

・・・手伝っているのだろうか?


「スイ、あと53分47秒勉強する予定です。本を閉じたら勉強していると言えません。開いて下さい」


睡蓮のファミリア、リスタが淡々と告げる。

リスタは銀色の髪、涼やかな目をした女性、聖精霊だ。

きっちりした性格・・・だが、可愛い物には目が無く、睡蓮が衣装を変えると大はしゃぎする。


睡蓮が、リスタを見ながら、


「リスタ、そろそろ入学式用の衣装を用意しておこうと思うのだけど」


睡蓮の言葉に、リスタがそそくさと光のゲートを創り、中から色々衣装を並べ出す。

睡蓮の衣装専門の異空間だ。

超高度な魔法を組み合わせ、最高の保存状態にされた衣装群が、整然と並んでいる。

歩いて選んでも良いが、入り口にある魔法カタログから指定すれば、自動で転送される・・・というか、手を突っ込んで思い浮かべるだけでも出てくるらしい。


睡蓮は様々な衣装を持ち、色々試すが・・・気に入っているのは、黒を基調としたふわりとした衣装だ。

ゴシック・アンド・ローリタ、というらしい。


「ちょっと、何あっさり陥落してるのよ。ルールを遵守するあまり、人々を法でがんじがらめにして、暗黒時代を築いた恐怖の大王は何処行ったの?」


ニクスが抗議する。


リスタは溜息をつくと、


「そのような間違った歴史を覚えるよりも大事な事が有ります。それが分からないから、貴方は諸悪の根源なんです」


ニクスが叫ぶ。


「誰が諸悪の根源よ!アンケートを採ったら、貴方に入れる人が圧倒的なんだからね!」


睡蓮が、リスタに、


「若草色をメインにして、明るい印象のドレスにしようと思うのだけど・・・どうかしら?」


リスタが、


「成る程、それは美しそうですね。そうですね・・・生地はこのあたりで」


リスタが物質創成を実施し、生じた布を睡蓮に渡す。

精霊は、自分の趣味の為なら、力を制限しない。

結果、人間からすると信じられないような事をやってのける。

生地は、あまりこだわりがないようだ。

・・・こだわりなく適当に創ったせいで、神がかった魔法抵抗力と物理抵抗力を持っている。

多分それ加工できないんじゃないかな?


「そうね・・・もう少し薄く・・・黄色を混ぜられる?」


睡蓮とリスタがやり取りを始めてしまった。

ああなると長い。


「ニクス、行こうか?」


ニクスに呼びかけると、ニクスも頷く。


「そうだね。戦闘訓練でもしておこうか」


勉強は夜にやれと言われそうだ。

睡蓮とリスタに別れを告げ、立ち去った。


-- 真治


「良いですか?田舎者となめられないように、せめて力だけは見せつけなければなりません。結界の中に籠もっている土竜達は、旧文明を引き継いでいます・・・良く分からない知識だけは沢山有るのです。代わりに、彼らは保護服無しでは外に出られないくらい脆弱です。常に大量のマナに晒されている我々の方が、魔力は強いのです」


ニクスが言い含めるように言う。


話を聞いているのは、僕、晶、夜歌、睡蓮。

実際何処まで力の差があるか分からないし・・・そもそも、魔法理論等を用いて独自の武具や術式を築いているらしく、自分達が有利だとは思うな、と親からは言われている。

文明怖い。


今日は、精霊を使った戦闘だ。

その辺の野良では意味が無いので、最近出てきた神霊級を相手にする事になった。


ニクス達も、皆戦闘スタイルだ。

ニクスは深紅のフルプレート。

ガイは白装束。

ロウは紫の仔犬。

リスタはトンガリ帽子が似合う漆黒の魔女ルック。

ニクス、ガイ、リスタは口元や顔の大半を隠している。

防御力強化の為だ。


「都会ではファミリア同士の戦いがあるって本当なの?」


睡蓮が困惑した様に言う。

ファミリア・・・精霊は、人智を超えた力を持っている。

人間に力を貸す時は、一部の力しか使わないが・・・それでも、場合によっては天地を揺るがす。

通常、テイマー同士の戦いの場合、ファミリアは横で待機するのが普通だ。

ファミリアとは、あくまで、伏して願い、脅威を排除するのに力を貸して貰う存在なのだ。

私欲の戦いに使う存在では無い。

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