第3話 宝石職人

「頭痛い・・・」


机突っ伏す。

僕は物覚えが悪い方ではないと自負しているが、半年でこれだけ覚えるのは無理だ。


「真治、大丈夫?」


ニクスが後ろから覆いかぶさってくる。


「無理はしなくて良いと思うけどねえ。こんなの覚えれる人いないって」


パラパラ・・・と、数学の教科書をニクスがめくる。


「うん・・・」


そうだよなあ。

外の民にいきなりこれを、って言われても無理がある。


「真治、晶ちゃんが来たわよ」


母親が下から叫ぶ。


晶。

幼馴染の女の子だ。

遊びに来たのだろう。


「真治、おはぁ」


ひょこっと、晶が入ってくる。

今は夜だよ。

黒髪黒目のショートカット・・・と言うか、うちの村人は、人間は基本、黒髪黒目だ。

頭にひょこっと、謎の巻毛が有る。


「こんばんは、晶」


晶はきょとん、とした目で僕の机の上の教科書を見て、


「何でそれを読んでいるの?生真面目過ぎるの?」


不思議そうに言う。

・・・お前とは違うんだ。


「晶、皆が君の様には出来無いのだよ。もっとも、真治も程々で良いとは思うがね」


晶の横で語りかけるのは、ガイ。

黒髪黒目、長髪、男性の聖精霊だ。

優しく冷静なので、頼りになる。

補助魔法を得意とし、チームでは後方でサポートする。


「晶、この数学の12ページ目は?」


ニクスが尋ねると、晶が、


「このような式を2次関数と呼び・・・」


すらすらと答えだす。

数学の教科書丸暗記ってどうよ。

ちなみに、普通に問題も解ける。


「この様な、土竜人間共が勝手に決めた事を覚えても、価値は無いと思うのだがね」


ガイが溜息をつく。

土竜人間とは、精霊が結界内の人達を揶揄する蔑称だ。

精霊の中には、あまり都市の人を良く思わない者もいる。


「ん、ガイ、違う。これらの決まりは、確かに正しくはない。でも、抽象化し、大筋を仮定する事で、極めて少ない計算量で色々な事が出来る。この考えは、面白い」


晶がガイの言葉に反応する。


ガイは少し考え込むと、


「・・・確かに、晶がこれらの理論で創った物は面白かった。あのデフォルメは、美しくさえあったな」


頷く。


晶は微笑むと、


「ガイが昨日絶賛してくれた宝石も、物理演算で計算して創った。数学は、美しい」


「・・・あれが・・・計算で創った・・・だと・・・」


ガイが呻く。


晶は、宝石職人の娘だ。

宝石や装飾、家具等、様々な物を創る。

ちなみに超お嬢様。


晶の父親が創った品は、時々都市にも売りに行っている。

膨大なお金や珍しい物を持ち帰る。

高く評価されているようだ。

尚、晶の祖父は村長をしている。


「そういう訳です。真治、遊ぼう」


どういう訳ですか。

今勉強中なのですが。


「晶、真治は勉強中だから・・・」


ニクスが困ったように言う。


「私としてはやはり、土竜共の定めた物等価値はないと思うのだがなあ・・・特に歴史」


ニクスがうんうん、と肯定する。


「だよね!魔王に対する記述・・・愛情という感情が欠如していて、特に残虐な行為に対し喜びを見いだすとか・・・醜い容姿にしわがれた声をした老人とか・・・あり得なくない?!」


ガイが半眼で、


「それは仕方あるまい。敵を100人殺す間に味方を200人殺す事もあったし・・・一人の神を葬るのに500人近い味方を殺した事もあったし・・・容姿や性別も、お気楽娘では格好がつかんだろ?」


「どういう意味よ!」


ニクスが怒鳴る。

何時もの喧嘩だ。

精霊同士、歴史に譲れない部分があるらしい。


「それよりも、だ。地の神王に対する、自身の美以外に興味が無いとか、世界より自分の美容の方が大切だとか・・・おかしいだろう、色々と」


ニクスが半眼で、


「朝、戦場に赴く前に10時間もかけて髪型セットしたりしてるから恨まれたんじゃない?睡眠も10時間、お風呂2時間、御飯1時間・・・活動時間が1時間しかないじゃない」


ガイが反論する。


「デタラメを言うな。お風呂は1時間30分くらいの事が多かったぞ!」


それでも1時間30分しか活動してませんが。

というか、歴史の教科書の内容が飛んでいくのでやめて欲しい。


「晶、問題の出し合いしよう」


晶に妥協案を提示してみる。

晶は困ったように、


「それはどうすれば私が負けられるか分からないから、困る。それは勝負ではない」


・・・絶対間違えないものね。


-- 真治


「真治、ちゃんと押さえててよ〜」


夜歌ようたがむくれ顔で言う。

夜歌は幼馴染で、牧場の息子だ。

黒髪黒目に短髪、背は僕より低い。


神のもふり手、と呼ばれるくらい、獣をもふるのが上手い。

どんな獣でも・・・魔獣でも、夜歌にかかれば、ただのもふられものに成り下がる。

無論、本人も無類のもふり好きだ。


・・・都会には、新人・・・エルフやドワーフといった種族がいるらしい。

妖精と人間の混血は、そうなる事があるようだ。

うちの村にも、精霊との混血・・・天使や魔族がいるので、同じ事だろう。

不安だ・・・

ケモ耳少女とかがいて、夜歌がもふってしまったら・・・責任問題にならないだろうか。


「真治?」


「あ、ごめん」


夜歌は、鼻歌を鳴らしつつ、羊の毛を手際良く刈っている。

羊も気持ち良さそうだ。


僕は・・・


☆5の魔獣、グレーターブルを確保する・・・はずが、引きずられている。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る