第3話 女神の足跡


「ジーナ・ラーソンに会いたい…?」


華やかな入り口からではなく、

あえて薄暗い裏口の方を選んで立ち入ろうとしたハルナを見つけた黒服の男は

怪訝そうな表情でそう言うと、

上から下までハルナの姿をジロジロと

眺めていた。


「えっと…ジーナは私の姉で…」


あまりの黒服の対応の悪さに、

すっかり萎縮してしまったハルナは

もごもごと小さな声でそう答えた。


「困るんだよね~。どうせ君も、

『ジーナのようなD-Queenになりたいですっっ』なんてゆ~淡い期待だけを抱いて、ノープランで田舎からヒョイっと飛び出して来ちゃったジーナの追っかけだろ?無理無理!

ジーナみたいになれるのは、ほんの一握りだけなんだから。君もちゃんと現実を見なさいね。」


そう言ってつらつらと自分の言いたい言葉だけを並べて、ポンっとハルナの肩に手をやる黒服。どうやらハルナの小さな声は黒服にまで届いていなかったようだ。


「あのっ!だから私はジーナの妹でっっ」


今度は少し大きな声で答えてみたが、そもそも黒服には全くハルナの話を聞き入れようとする気自体がなかったようだ。


「あ!そうだ!これっ!これ見て下さい!」


今にもその場を立ち去ってしまいそうなその黒服に向かって、ハルナは急いでポケットの中から取り出した1枚の紙を無理矢理手渡した。


「何?ジーナへのファンレター?

だから困るんだよね~、

こういうの…も!?」


そう言って溜め息まじりにハルナから手渡された1枚の紙切れを無造作に開いた黒服の動きが、はたっと止まった。


その紙こそ…

ジーナの直筆で


『あなたに最高の観覧席を!』


と書かれたD-Queenトーナメントの

観覧チケットだった。


「これを持っているって事は…

君はもしかしてジーナの妹さん!?」


「は…はい。」


…だからさっきからそう言ってたのに…


ハルナはそう思ったが、

とりあえずそんな気持ちはゴクっと心の中に飲み込んでおくことにした。


「ジーナの妹さんなら話は早い!

ちょっと!ちょっとこっちに…」


そう言って黒服の男はハルナの腕を強く掴むと、建物の中へと引きずり込んで、焦った様子でハルナにそっと耳打ちをしてきた。


「実はこれは本当に一部の人間しかまだ知らない超極秘の話なんだけど…」


黒服から告げられたその言葉は

ハルナを驚かせるのには十分すぎる内容であった。



◇◇◇



『実は俺達黒服は、D-Queenの部屋に立ち入る事は一切禁止されているんだ。』


そう言って黒服に無理矢理押し込められた

ジーナの部屋は思った以上に薄暗く、そしてあまりにも殺風景だった。


大きな観葉植物が一つ置いてある以外は

本当に何もない部屋…


それはとても表の看板で華やかでゴージャスな笑顔を浮かべていた彼女の棲み家とは到底思えぬような静かな空間だった。


「3日前、実は彼女が突然姿を消してから

いまだに全く足取りが掴めていないんだ。今は体調不良って事で何とかしのいでいるけど、それもいつみんなにバレてしまうか…もし、この事が表沙汰になったら、俺らのクビだって危ない。とにかく、部屋の中を探ってみてよ!何か彼女に繋がる物が見つかるかも知れない。じゃ、俺はそろそろ仕事に戻るから!後はよろしくねっ」


黒服は部屋のドアの外から一方的にハルナにそう告げると、足早に立ち去って行ったようだ。


「部屋を探ってみろったって…」


そう言って肩を落としたハルナは

ただ呆然とジーナのいない薄暗い部屋を

眺めていたのだった。


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