第4話 女神の痕跡


黒服に無理難題を押し付けられ

途方に暮れたハルナは

とりあえず黒服に言われるがままに、

ジーナのいない部屋の中を捜索してみる事にした。


薄暗く殺風景なはずなのに、きちんと整理されていて塵の一つも残っていない。


ハルナはジーナには悪いなと思いながら、

机の引き出しにそっと手を伸ばした。


引き出しの中から出てきたのは、

一冊の日記帳のような物だった。


ペラペラとページをめくってはみたものの、

日記は三ページ程度しか記載されておらず

しかも全て『晩御飯がどうだった』だの

『今日は初めてラゼルダの街で友達ができた』だの、何ともたわいもない内容ばかりだった。


「ジーナ…三日坊主なのは、

相変わらずなのね。」


そう言って思わずクスっと笑うハルナ。

するとその拍子に、日記帳の中から数枚の写真がなだれ落ちてきた。


「うわ~!懐かしい!

これってキリスナの村で

みんなで撮った写真じゃん!」


ハルナは床の上へと散らばった

数枚の写真を丁寧に拾いあげると、

ジーナのベッドに腰かけて

1枚1枚、写真を広げていった。


「わ~!これ懐かしい!

みんなで木の実を拾いに行った時の写真だ!ジーナ、よく持ってたなぁ~、コレ!」


そう言って嬉しさに足をバタつかせながら

喜びの声をあげるハルナ。


写真の中には6人の少年少女が

自分達が拾って来た木の実を誇らしげに掲げながら、みんなそれぞれ楽しそうに笑顔を浮かべている。


「うわ!ジーナ若いっ!私もまだこんなに小さかったんだ!あ~!ミサもいる!あ!

ガルグ!こいつこの頃本当に悪かったんだよね~」


そう言って写真の中にうつった1人1人の名前を挙げながら、当時の情景を懐かしむハルナ。


ハルナはそのままジーナのベッドに横たわると、次々と拾った写真を眺めはじめた。


「わぁ~!懐かしいっ!

グラナダの時の写真だ!」


ハルナがそう言って一段と声を高くしたのは、キリスナの村で伝統的なスポーツである

グラナダの時の写真だった。


グラナダとは、正式名称

『グラナダ・アプリコット』と呼ばれる競技で、3人ずつの2チームに分かれ、お互い攻防を行いながら、手持ちの小さなボールを各所に設置してある敵の陣地の中に投げ入れるというシンプルなスポーツだ。


「ジーナ、この頃から運動神経良かったもんね。D-Queenになって正解だよ。」


そう言ってグラナダで活躍するジーナの写真に目を細めるハルナ。


するとジーナの背後で、こちらを睨み付けるかのような表情をした少年の姿が目に入った。


「また出た!ガルグ!本当にコイツいっつも意地悪ばっかりして!特にジーナには意地悪だったよな~!ジーナより年上のクセにさ!い~っつもジーナの持ち物取ったりするから、ジーナはいつも『ガルグにバレないように木の下に埋めときましょ』って、自分の大切な物、いちいち森の中に隠しに行ったりしてさ…」


そこまで言ってハルナははっと気がついた。


『ガルグにバレないように、

木の下に埋めときましょ。』


あの日の情景と共に、

そう微笑むジーナの声がハルナの頭の中を

ぐるぐると駆け巡っていた。


『ガルグにバレないように、

木の下に埋めときましょ。』


その声に感化されるかのように

ハルナは突然立ち上がり、急いで部屋の隅へと移動した。



…ガルグにバレないように――――…



ハルナは部屋の隅に置いてある

観葉植物を鉢ごと倒した。



…木の下に埋めときましょう―――…



すると倒れた観葉植物の土の中から

ビニール袋に包まれた

大きな赤い宝石のペンダントが現れた。


血のように深いその真紅の宝石には

メモも何も添えられてはいなかった。


思わずその場にしゃがみ込むハルナ。

いつしかハルナの頬には一筋の涙が

流れはじめていた。


真紅の宝石の上にも、

ポタポタとハルナの涙が滴り落ちる。


「…ジーナ…こんなんじゃ分かんないよ…

私にカッコいい姿見せてくれるって言ったじゃん…私…すごく楽しみにして来たのに…

…ジーナ…一体どこへ行ってしまったの…」


とめどなく溢れ始める涙を

自分の瞳から乱暴に拭うと

ハルナは赤い宝石を強く握りしめ、

そしてその場で大きく振りかぶった。


「何か伝えてくれなきゃ分からないじゃん!ジーナの…ジーナの馬鹿ぁぁぁっっ!」


そう言って力強くドアに向かって投げつけたハズの赤い宝石を、気がつけば羽根の生えた奇妙なウサギがものの見事にキャッチしていた。


「さすが、キリスナの村で馬鹿みたいに

グラナダばかりやっていたジーナの妹だ。

投げる速度とコントロール力には目を見張るモノがあるな。」


そう言って羽根の生えたウサギは

泣いているハルナに向かって

とても見た目には似つかわしいような渋い声で微笑むと、ふっわふわの毛に包まれた小さな前足で、そっとハルナの首へと赤い宝石のペンダントをかけたのだった。

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