第3話 変える力
あれから二週間。明後日は登校日、つまり本番。
僕が身に付けたのは、駆け引き、守るための技、特に単対複数の際の身のこなしや目配り。はっきり言えば強くなった、そんな自信も、確実に勝てるという保証もない。
不安しかない。
「さて、さっきので教えることは教え終わったんだが。なにか聞きたいことはあるかい?」
すでに息を整え胴着を直し、おじさんはまだ息の荒い僕に質問を続ける。
「ま、正直に言うと『こんなことで変える力は手に入ったのか?』とか、『絶対に勝てるとは思えない』とか、かな?」
まだ息の整わない僕は顔だけ上げて頷く。
「たしかに、君に教えたのはある種の基本だし、勝つための必殺技なんかじゃない。むしろ、姑息というか、弱点を突いていく方法だ。君が自信を持てないのも無理はないかな」
正座をしながらおじさんは床に座るよう僕に促し続ける。
「本当はね、本当に勝つ為の力を、戦いかたを教えられる。教えれば一つや二つなら二週間もあれば身に付けれる。ただ、身に付いたら最後、半端な力ほど君自身を破滅へと向かわせる事になりかねない。君をイジメてる奴らのようにね」
「どういう……意味、ですか?」
ようやく息を整え終わり、喉にからむ声にもどかしさを覚えながらたずねた。
「つまり、君に教えたのはそうならないための布石。奴らのなかには有段者がいるんだろう?知ってる人は知ってるけど、畑違いの人は知らないこともある。例えば、有段者がその力を、技を一般の人に振るえば、その時点で傷害罪、凶器使用罪に問われる。ただこの場合同じように武力をもって相対するには時間が足りないし、バリエーションの少ない状態なら簡単に負けるだろう。だから、教えたのは負けない為の戦いかたであり、勝つ為の戦いかたじゃないのさ」
僕は言っていることの意味がわからず、なんとなくもやもやとした気持ちと、騙されたのかも知れない、そんな裏切られたような感情。そして、一朝一夕で【世界を変える力】なんてものはなくて、やっぱりこの世界は調律など取れてない、ただの混沌なのだ。と、半ばあきれた。
現に今も、明後日は決戦だというのに、自信もなにもないのだから。
ただ、別れ際におじさんが僕に掛けた言葉はよくわからない。なぜそう言ったのか……
一言だけ。
「ありがとう」と。
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