第2話 術《すべ》
僕はおじさんの問いに答えた。それは手に入れれるなら欲しいと。
親には二週間帰らないと伝えた。勿論止められる、反対されるだろうと思っていたらおじさんが手を回したらしくあっさり認可してくれた。
親は平和主義だ。悪く言えば争いを悪と決めている。暴力なんてものを許容しないし、受け入れない。そんなものだろう。
例え、昨日僕が命を落としていても、悲嘆し、警察や学校に訴えかける程度で、きっとその先にまた生まれるかもしれない僕みたいな人を救うことは無いだろう。
そう、これはどうしようもないことだ。
世界は変わらない。
駅のロータリーでベンチに腰かけていると、シルバーのセダンが目の前に止まり助手席の窓が開く。
「時間通りだね。了承とれたみたいでよかったよ。さぁ、乗って」
僕はベンチから腰を浮かせて扉を開く。
三十分ほど走ったとこで車は街を抜け、田園風景の交じる田舎道に入る。
「ここらはおっさんの実家があるとこで、まぁ、おっさんの実家に向かうわけだけどね。周りにあるのは森、山、田んぼ、二十四時間営業じゃないコンビニ位で何もないから。あ、でも電波は届くから今のうちに携帯は切っといて」
「なんで?」
「君を守るためさ。今じゃSNSとかで奴らから監視されてるでしょ?あと、君の親御さんには『寺修業二週間プラン』って言う事で了承してもらってるからさ」
「は?え?なんで……」
「おいおい、親が二週間未成年の子を簡単に自由にさせると思うかい?嘘も方便さ。やることはたいして変わらない。電波は届かない方が都合がいいのさ。特に山寺てことにしとけばね、丁度そこの山の上は圏外でおっさんの知り合いの寺だし。終わったあとで、記念撮影しとこう。証拠としてね」
車は手入れの行き届いた生け垣の中に入り停止した。
「着いたよ。ここで二週間、
「え?それって……」鍛えると言うことは、つまり、暴力。
「君は今暴力を嫌がってるよね?それは正しい。人として立派だ。だが、君は今その暴力の前に屈してるんじゃないのかい?数の暴力、腕力、精神的な暴力、言葉の暴力。さて、それを受けてる君は暴力を嫌う。だからこそ暴力を身に付けてもらう、正確には暴力ではなく、正当防衛であり、正しく扱うことで抑止力になる。そんな力を身に付けてもらうってことだけど」
力=暴力と僕は思っていた。勿論、鍛えてないわけじゃない。ただ、鍛えてつけた腕力で相手を殴ったり、そうした行為をするつもりはない。単純に守りたかったから鍛えただけだ。
僕は心で今までのトレーニングを思い返すが、結局『守るために鍛える』は全く役に立たなかった事を客観的に気づいて唇を噛んだ。
「安心して、君に足りないのは闘争心さ。見たところ多少鍛えてあるから問題ないさ。
「そうだ。僕は抗いたい!」
僕は考える間もなく答えていた。自分が一番驚いていることは、伝わらないことを祈るばかりだったが、きっとそれすらもおじさんは見抜いた様であのときと同じように破顔した。
平屋の家屋に道場、元は剣道道場だったらしい、床は磨かれていてまるで学校の体育館のように外から差し込む光を反射していた。
僕は手渡された胴着を慣れない手つきで身につける。おじさんは帯の結び方から、襟の正し方全てを僕に教えながら壁にもたれ掛かって眺めている。
「まずやることだけど、基礎として柔軟、受身、それがある程度身に付いたらちょっとずつ実践に近づけていくから」
こうして、僕の二週間は始まった。
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