第35愛 進撃《影》の巨人

 光の国ライトレシアのブライティ王来訪によるお祭りムードから一転、突如出現したAランク魔物モンスターにより夢の都ドリームタウンはパニックに陥っていた。 

 影の巨人シャドウタイタン夢の都ドリームタウン北西に位置する噴水広場へ出現し、街へと進撃を開始する。噴水広場周辺の露店や街灯が無残にも薙ぎ倒され、逃げまどう妖精達が影に押し潰されていく。


「これ以上、進撃させないのね、そうなのね!」

「ワタシ……トメル……キョジン……」

「はいはーい、みんなで巨人止っめるよぉーー!」

「卯月先輩の命により、制御を開始します!」


 夢見部隊ドリーマーパーティ幹部の夢妖精達が素早く巨人の四方を取り囲む。人間界の高層ビル級の身体を形成した影の巨人シャドウタイタンが漆黒の腕を振り下ろすと、振り下ろした勢いで道沿いの木々が薙ぎ倒され、猛烈な突風により幹部達が吹き飛ばされそうになる。


「何なのあの風やばいのね、やばいのよ!」

「ハヤク……トメル……キョジン……」

「やっば! 皐月先輩ーー早くあれやりましょうよぉー」

「防御結界構築、開始します!」


 若草色、藤紫、マリンブルー、向日葵色……それぞれの浴衣と揃った髪の色をした妖精達が素早く両手を拡げ、詠唱を開始する。


「「「「合同結界! ――四封妖陣結界スクエアエナジーフィールド!」」」」


 刹那、影の巨人は四角い透明の結界に覆われる。腕を振り下ろす風が結界に阻まれ、大地と空気が震動する! 街へ届きそうな程の咆哮をあげ、猛る巨人。蠢く腕。やがて、影の巨人が全て吸い込まれそうな孔のような大口を開け、口から闇の一撃を放つ!


「グゴゴゴオオオオオオオオオオオオ!」


皐月さつき! 水無月みなづき! 文月ふみつき! 葉月はづき!」 


 弥生と通信をし終え、現場へ急行した卯月。しかし、卯月が到着した時には公園入口より放たれた闇の一撃により、結界は一瞬にして破られ、公園より一直線上へ続く東側の町並みが消滅してしまっていた。夢妖精幹部達は傷つき、地へ臥していた。


「よくも……後輩達を……」


 卯月が全身より白い妖気を発し、攻撃を仕掛けようとしたその時……。


「のほぉおおおおお! 殲滅するのぉおおおお!」

「もう大丈夫、影の巨人シャドウタイタン……うちらが喰い止める!」


 銀髪を靡かせ颯爽と現れるエルフのノゾミ。鋭い眼光で巨人を見据える蒼い髪の水妖精――ツカサ。影の巨人が振り下ろす腕を回避し、死闘へ参戦する。


「ノゾミさん、ツカサさん、ありがとうございます。私は後輩達の回復へ廻ります。巨人を止めて下さい」


 涙ながらに訴える卯月。ツカサは頷き、ノゾミが笑顔で返事をすると、それぞれ散開し、攻撃を開始する!


「のほぉおおおおお! そんなスピードじゃあ当たらないのぉおおお! ――暗黒射撃ダークアロー


 左右に豊かなメロンを揺らしながら連続で放つ矢は影の巨人の胴体部分へ吸い込まれてしまう。続けて背後へ廻り込んだツカサが長刀のように長く伸ばした水刃で巨人の腕を斬り落とさんと薙ぎ払う!


水劉拳すいりゅうけん! ――青竜水刃斬せいりゅうすいじんざん!」

「ナイスなのぉーーツカサ!」


 水の刃により影の巨人の腕が斬り落とされ、地面へ落ちると共に大地が揺れる! が……斬り落とされた箇所より黒い靄のようなモノが拡がっていき、やがて元の腕の形へと再生される。背後へ振り向き様横へ薙いだ腕が暴風を巻き起こし、ツカサは防御態勢を取ったまま後方へ吹き飛ばされてしまう!


「くっ!」

「ツカサ! 斬ってダメなら……消滅させるのぉーー! 黒き滅びの閃光――滅亡の散矢ルイーナンディアロー


 ノゾミの瞳がルビーのように紅く光ったかと思うと、上空へ放たれた漆黒の刃が驟雨となり影の巨人シャドウタイタンへと降り注ぐ。巨人へ吸い込まれるように突き刺さる闇のエルフが放つ矢による地獄への招待状。並の敵なら一瞬で塵と化していただろう。しかし……!


「……え!?」


 影の巨人へ吸い込まれた無数の矢。漆黒の矢が影へと吸い込まれた直後、ノゾミへ向け・・・・・・漆黒の矢が放たれたのだ! 影の巨人はあろう事か、闇属性攻撃を吸収し、そのままノゾミへと返したのであった。銀髪エルフの身体は無残にも孔だらけとなり、全身より赤い鮮血が飛散し、彼女はそのまま倒れてしまう。


「ノ……ノゾミ……」


 吹き飛ばされ倒れたツカサ。地面へ伏すノゾミ。影の巨人は再び巨大な口より闇の一撃を放たんとする!


「グォオオオオオオオ! ――光源咆哮ブリンティアハウル!」


 しかし、闇の一撃が放たれる直前! 前方より巨大な白く輝く弾が巨人が開いた大口へと吸い込まれ、爆ぜる! 影の巨人が一瞬後ろへとよろめいた!


「ノゾミ! ノゾミ! しっかりしなさい! ――光源癒包ブリンキュアヴェール!」


 白く美しい毛並みと巨大な爪。巨人の三分の一程の大きさではあるが、見上げる程の白き猛獣。美しく黄色い瞳で力なく横たわるエルフを見つめ、彼女を光に包み込む! 光妖精による回復能力アビリティにより、全身に空いた孔より溢れ出ていた赤い液体の噴出が止まり、ぼやけた視界の中、エルフが力なく笑う。


「……マリン・・・……失敗しちゃったのぉ……影には闇は……効かなかったみたい」

「もう喋らなくていい……少し休みなさいノゾミ」


 闇属性のノゾミは影の巨人との相性が悪かったのだ。淡い光に包まれたまま、彼女はそのまま目を閉じ気を失う。


「グゴゴゴオオオオオオオオオオオオ!」

「グォオオオオオオオ! 五月蠅いわね――光源咆哮ブリンティアハウル!」


 闇の一撃が放たれる前に白き猛獣と化したマリンが咆哮と共に巨大な光球を放ち、影の巨人の大口を無理矢理閉じる! 振り下ろされる腕を鋭く巨大化した爪で受け止めると、腕を持ち上げ、巨人へと飛び掛かる!


「――白猫光印爪アルバライトクロー!」


 光輝く爪撃により両腕を引き裂き、地面へと落ちる黒き塊。再び腕を再生すべく、影は蠢き、咆哮する!


「「雷精霊トールよ、導きのままに、天からの裁きを! 姉妹合成魔法――迅雷撃ライトニング!」」


 この時、上空より突如雷鳴が轟き、影の巨人頭上より閃光が巨大な体躯を貫通する! 影の巨人より白煙があがり、巨人の動きが鈍ったように見えた。そう……雷撃による不意打ちはマリンによる魔法ではなかった。


「マリンお姉様! 思い出したのん! ユズキ様があたしらの主だったのん」

「おにいさまの温かな寵愛を忘れるなんて、私達どうかしていました」


 鶯色のポニーテールと桜色のツインテールが雷撃による鳴動により揺れていた。


「どうやらフォボスってやつの洗脳が解けたみたいね。うぐいす、さくら、あいつを止めるわよ!」


「マリンお姉様モフモフしていて気持ちいいのん」

「お姉様! 共に闘います!」


 ユズキがフォボスを追い詰めた事により、くの一姉妹にかかっていた恐怖による洗脳が解けたようだ。魔獣の背中に飛び乗り、モフモフした感触を確かめるうぐいすとさくら。野生化した白き猛獣、マリン。


 ――彼女達の共闘が今、始まる!

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る