第34愛 三分間待ってやる
――まだだ、まだ終わらんよ!
「ユズ君!」
「……嗚呼!」
声がした方向へ
「……この姿の儂には何をしても無駄じゃよ」
「ちょっとぉーー邪魔しないでくれる? せっかく夢見の回廊で誰にも邪魔されなく逞しくなったユズキとにゃんにゃんしようと思っていたのに!」
蠢く影に向かって、下半身の疼きを抑えつつレミリアが
「え?」
「え?」
思わず顔を見合わせる青年姿のユズキとレミリア。
(あのー、レミリア?)
(だってユズ君……突然凛々しくなったら興奮するじゃない?)
「ほぅ、それは邪魔をしたの。そのまま続けてもよいのじゃよ? 三分間待ってやる」
「待たなくていいわよ! このエロ妖魔!」
意地悪い妖魔に見られた状態で続けるような趣味をレミリアは持ち合わせていないようだ。
「まぁよい。いい事を教えてやろう。三分間待ったところで、お主等は儂に傷ひとつつける事は叶わぬが、この状態では儂も攻撃すら出来ぬ。ここまで追い込まれたのは久しぶりじゃ。命拾いしたの。人間とその
「なんだと!? まさか……逃げる気か!?」
妖魔の言葉から影へ変化した意図を探ろうとするユズキ。逃亡するためなら、フォボスがわざわざ攻撃も出来ない姿になる理由がつくのだ。妖魔の嗄れた声がする度、影が揺らぐ。
「人間よ。逃げるとは人聞きが悪いの。暗殺者とは常に影へと潜む者よ。儂はまた闇に紛れる。そろそろシェイドも動き出すじゃろうて。儂はそれを見届けた上で還る事にするよ」
そう、フォボスを倒して終わりではない。王を守る事が最大の使命であるのだ。
「レミリア! こいつに今何をしても無駄だ! 王の所へ行こう!」
「そうね。こんなエロ妖魔ほっといて、急ぎましょう」
『よかった! 無事でしたか! ようやく
投影された
「……消滅……しましたか……」
フォボスが消滅した影の跡を見つめ、巫女が呟く。
「弥生様! 来てくれたのね!」
「レミリア、そしてユズキさん。よく頑張って下さいました。今すぐ傷の手当てを……って、あら、ユズキさんはすっかり
夢見の巫女の傍へ駆け寄るレミリア。弥生は笑顔で彼女とユズキを気遣う。弥生がユズキの脇腹へ手を翳すと、彼の戦闘で受けた傷口が癒えていった。
「弥生様、ありがとうございます! あ、この姿は……えっと……」
「説明されなくても大丈夫ですよ?」
どう説明したらいいのか戸惑う青年ユズキへ弥生は語らずとも分かっていますと言わんばかりの笑顔を見せる。
「えっと……分かりました。あ、弥生様!
「ええ、ノゾミさんやツカサさんが頑張ってくれたようです。今しがたこちらへ来る直前にマリンさんの持つ妖気力が増大するのを感じました。彼女も無事でしょう」
報告を聞いて安堵の表情となるユズキ。どうやら皆無事のようだった。
「じゃあ、早く王の所へ向かいましょう! 確かあっちに……」
その時だった……。地鳴りのような低く地面を這うような音が聞こえたかと思うと、耳を塞ぎたくなるような爆発音が聞こえたのだ! 音の発生源は王が居たであろう場所であった!
「これは……いけない! まずい事になりました……」
直後、ユズキ、レミリア、弥生の
『弥生様! 大変です! 卯月です!
「卯月……恐らくブライティ王は影の巨人内部に居ます!」
「え?」
「弥生様! それってどういう事?」
弥生が冷静に状況を分析し、卯月へ告げた言葉へ思わず聞き返し、驚愕の表情となるユズキとレミリア。
『そんな……どういう事ですか!? 敵の
「ええ……恐らくそれが敵の狙いです。王は元々エルフとして長い年月を生きており、膨大な
「そんな!? どうすればいいの?」
「方法はないんですか弥生様!」
レミリアとユズキが弥生に迫ると、巫女は素早く指示を出す。
「卯月、肉テロパーティの皆さんと巨人を食い止める事は出来ますか?」
『分かりません……でもやるしかありません故なんとかします!』
「お願いします。夢見の回廊側より私がレミリアさん、ユズキさんと王を取り込まんとする影の主の
『御意! 弥生様、ご武運を!』
そういうと、卯月からの通信が途絶える。
「ちょっと待って! 弥生様! 深層心理に潜入ってそんな事出来るの?」
「僕達も一緒にですか?」
移動を開始しようとする弥生へ声をかけるレミリアとユズキ。
「ええ、私を誰だと思っているのですか?
「ええと……モフモフですか?」
モフモフな妖狐達に埋もれている弥生を見た事がないユズキが一瞬困惑した表情となる。
「あ、気にしないで下さい。ユズキさんのその姿、
「分かりました! 任せて下さい、弥生様」
「ええ、私とユズ君が一緒なら、誰にも負ける気がしないわ!」
ユズキとレミリアが決意の表情で弥生と頷き合う。
「ご協力感謝致します。その言葉、心強いです。では、敵の下へ向かいましょう!」
そう言うと、弥生は目を閉じ、影の主――シェイドの深層心理への潜入を開始するのである。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます