第27愛 のほぉーー! 殲滅するのぉーー!

 夢の都ドリームタウンが見渡せる高台にて国王達の様子を監視していた銀髪エルフ――ノゾミは、国王の姿が消失した瞬間、突然の出来事に戦慄した。


「マリン大変! 夢都浮遊庭園にてブライティ王が消失、夢都冒険者協会のショコラさんが標的ターゲットと絡んでる模様! ユズキさんが事に気づき、たぶん一緒みたい! こちらで状況を把握します!」


 夢端末ドリームアンドロイドでリーダーのマリンへ報告を入れる。


(どうしてショコラさんが……それにこの状況、他にも敵が居るかもしれない)


 そう考えを巡らせた直後、ノゾミは自らの瞳をルビーのように赤く光らせる! 彼女の視界がズームしていき、街中・・の住民達の様子を高速で捉える! そして、彼女は気づく。夢都浮遊庭園上空が、目に見えない霧のような蒸気に包まれている様子に。


「ツカサ! ブライティ王が消失した! すぐに夢都浮遊庭園へ向かって! たぶん何者かによって庭園周辺の能力アビリティが封じられている!」

『――了解』

 

 空間の妖気力フェアリーエナジーの動き、歪み、全てを捉えていくエルフの瞳。彼女は遥か遠くに居る者を捉え、妖気力を感知する、エルフの中でもごく一部の者しか扱えない不思議な瞳の力を持っていた。


 彼女の瞳は夢都浮遊庭園、夢見部隊の夢渡りの力ドリームポーターを封じた特殊技オリジナルスキルの使用者を探す。やがてノゾミは、夢都浮遊庭園北側、高く聳える夢見杉の生い茂る葉の中、大枝に佇む男を視界に捉えた!


「夢見の巫女様。こちら肉テロパーティ、ノゾミです。標的ターゲットを見つけました。殲滅にかかります!」


 弥生へ状況を報告し、〝メロンのノゾミ〟は弓を取り出し、遥か遠くの標的ターゲットへと狙いを定めた。


「のほぉーー、いよいよ私の出番なのぉーー!」


 口からの涎を拭ったノゾミ。二つのメロンが彼女の興奮を投影するかのように、プルルンプルルルン! っと主張を始めた。





能力封殺霧アンチアビリティネブラは疲れるから面倒くさいんだよな……」


 特殊技オリジナルスキルを発動させた男――ローストが、燻らせた葉巻シガーを一旦手に取り溜息をついている。彼は自身の任務を遂行すべく、木陰に隠れ、空間内に居る夢見部隊の能力アビリティを封じていた。


「潜入とはいえ、だいたいなんで俺が貴族みたいな格好しないといけないんだよ。こんな任務、早く終わらせて、さっきの屋台の食物でも食いに……」


 そう彼が考えていた矢先、遥か遠く、自身へと一直線に向かってくる一筋の黒い物体を視界に捉える。慌てて潜んでいた大木から飛び降りると、大木の幹が鋭い閃光により抉られ、乗っていた枝が吹き飛んだ!


「おいおいおい、なんなんだ!?」


 飛び降りた彼に向かって今度は数本の黒い物体が降り注ぐ。回避した黒光りした矢が地面へと突き刺さり、地面に亀裂が入る。


「弓矢だと!? ちっ、どこから狙って来てやがる!」


 彼は一流の暗殺者だった。だからこそ気配を消して闇に潜むなど日常茶飯事、居場所がバレるなんて事はなかなかない事であったのだ。黒い炎のような妖気オーラを帯びた矢が彼に襲いかかる。一本の矢が彼の左腕を掠めると、鮮血が飛散する!


「ちぃっ! 能力アビリティ封じてんだぜ! まさか有効範囲テリトリーの外からの攻撃だって言うのかよ!」


 彼の周囲に居る者は彼の能力封殺霧アンチアビリティネブラにより能力アビリティが使えないのだ。居場所が分からない以上、反撃も出来ない。それは最早、有り得ない攻撃だった。慌てて岩場の陰へと隠れるも、隠れた岩場が吹き飛び、黒い妖気オーラに包まれる。


「おいおい、今の岩、国の重要文化財みたいなやつじゃねーのか!?」


 実際ノゾミが吹き飛ばした岩場には、夢の都ドリームタウンの重要文化財が含まれていたのだが、本人が知らないのだから仕方がないのである。


「仕方ねぇー。ギリギリまで有効範囲テリトリー広げて逃げるしかねぇか」


 宙へ浮かぶ夢都浮遊庭園へ能力封殺霧アンチアビリティネブラが届くギリギリの距離まで退避し、林の中へと紛れ込むロースト。夢見部隊ドリーマーパーティの夢渡を封じる使命があるため、彼はこれ以上退避する事が出来ないのだ。葉巻シガーを口に含み、考えを巡らせる男。


「……これなら少しは時間稼ぎ出来るだろう……後は相手の居場所を見つけて……」

「のほぉおおおーー隠れても無駄ですよぉーー! 黒き滅びの閃光――滅亡の散矢ルイーナンディアロー!」


 夢都浮遊庭園上空に浮かんだ岩場より一瞬紅い瞳が煌めく。この時確かにローストは、遥か上空より放たれる地獄への招待状を視る。紅く煌めく光の傍では二つのメロン激しく揺れていた。能力封殺霧アンチアビリティネブラの霧に包まれた上空へ向け放たれた矢が、まるで地獄から呼び起された炎のように揺らめく黒く妖しい妖気オーラを纏い、驟雨のように降り注ぐ!


「……そうか、あれが有名な〝メロンのノゾミ〟か……」


 彼の視界が刹那真っ黒に染まる。〝極上のメロン〟はこの時確かにローストにとっての〝獄上のメロン〟となり、彼の潜む林は、一瞬にして黒い蒸気を醸すまっさらな大地と化す。


「のほぉーー殲滅なのぉーー滾るのぉおおーー」


 敵を殲滅するにあたって暴走したメロン・・・・・・・は、下半身のおつゆ露だくの状態でしばらく愉悦に浸るのであった――――

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