第26愛 夢渡の力が発動出来ません!

 光の国ライトレシア国王ブライティが別空間へと転送される少し前より、童夢ドリームTVの生中継は国王と巫女達が観光している様子を上空より投影していた。


「はーい、どうも! 毎度お馴染みパンジーだよ! ここからは再び生中継でお届けするよ。映像は、風妖精ウインドフェアリー達が上空より旋回しつつ、投影鏡プロジェクションミラーで撮影しているよ!」


 上空より映し出される夢都浮遊庭園の映像が夢の都ドリームタウン中に中継されている。美しい風景を同時に放映出来るという事で、複数の風妖精が旋回しつつ撮影している映像には力が入っていた。やがて、国王達が記念撮影をしていた問題の場面となり、中継は国王達が談笑しつつ撮影に臨む姿をズームインしていた。


夢の国ドリームプレミア光の国ライトレシア友好の証となる記念撮影だね。ブライティ国王も、我らが夢見の巫女――弥生も素敵な笑顔をしているよ!」


 そして生中継は、プリンセスドレス姿のユズキが投影鏡プロジェクションミラーの前へと飛び出し、突然国王と撮影者であるショコラ、ユズキの姿が消えた瞬間を捉えたのである。一瞬何が起きたのか分からず困惑する者達。


「え?」

「ブライティ王!?」

「まさか……!?」

「ちょっとユズ君!?」


 生中継が揺れる。一瞬映像が乱れ、上空からの遠目の映像へとすぐに切り替わる。


「え? どういう事でしょう!? 突然国王の姿が消えたように見えましたが……」


――パンジー聞こえる? プランDでお願いします!


「はーい! 突然みんな驚いちゃったね、これは夢見の巫女――弥生から国王へのサプライズなんだって! 国王は夢渡でこの後、夢見の回廊を観光するようだよ? びっくりさせちゃってごめんねー!」


 この時、パンジーの脳裏に聞こえた声……誰であろう弥生からの意思伝達であった。そう、中継を仕切っているレポーター役の花妖精フラワーフェアリーパンジー。彼女は人気アイドル――フラワリングのセンターを務める妖精であったが、ただのアイドルではない。何を隠そう夢見の巫女――弥生と繋がっている妖精だったのである。


 中継はパンジーのどあっぷの顔へと切り替わる。


「国王はしばらく夢見の回廊観光という事で、生中継はここで終わりだよ? 国王来訪を記念して先日収録したフラワリングのライブ映像をここからはお届けするよ! その前にCMをどうぞ!」


 見事に国民への不安を煽らないよう中継を終了するパンジー。しかし、現場はそうはいかない。夢都浮遊庭園にて国王と共に居た貴族達が騒ぎ出したのだ。


「ど、どうなっているんだ! 巫女よ、説明してもらうぞ!」

「ブラストまぁ落ち着け、弥生殿。国王が居なくなったのには理由があるんだろう?」


 異常事態に弥生へと弁明を求めるグランデ家バディス公爵の嫡男、金髪のエルフ――ブラスト。そんなブラストをフランツ家、銀髪銀瞳のエルフ――クロースが窘める。


「後で事情はご説明します。ご心配は要りません。卯月!」

「御意! 弥生様! 夢見部隊ドリーマーパーティ夢渡にて捜索します!」


 弥生がすぐさま夢見部隊幹部へと指示を出し、夢渡にて移動を開始しようとした! ……のだが。


「……弥生様! 夢渡の力ドリームポーターが……発動できません!」

「えっ!?」


 幹部達の言葉にさすがの弥生も驚く。弥生は目を閉じ念じ始める。


「……これは……能力封殺霧アンチアビリティネブラ。そうですか。私の力ならこの程度の特殊技オリジナルスキルを打ち破る事は容易い……ですが、貴族の皆様をそのままに私が動く事は得策ではありませんね」


「意味がわからない! 何が起きているんだ!」

「落ち着けブラスト」


 うろたえるブラストを窘めるクロース。他の貴族達からも怒号が飛び交い始める。しかし、夢見部隊の能力が封殺されても尚、動じる事なく落ち着いた様子の弥生。そして、彼女が目配せをした視線の先には……。


「嗚呼……ユズ君ーー心配だわ! 早くーー私を呼んで・・・ーー」


 自身が騎士姿・・・になっている事も忘れ、不安そうな表情のまま頬に手を当てているレミリア。今まで低い声色を装い男口調で話していた騎士の豹変に貴族達が困惑の表情となる。


「国王が居なくなったかと思えば、レミリオ殿? どうしたんだ、突然女口調となって!?」


 ブラストが騎士姿のレミリアへ声をかける。


「弥生様。国王が居なくなった以上、この姿を続ける意味がありません。ブラスト様、私はレミリオではありません。私の本当の名は夢妖精ドリームフェアリーレミリアです」


 そう告げた瞬間、一瞬白い煙に包まれたかと思うといつもの夢魔導士姿となるレミリア。ブロンドの美しい髪が靡き、今まできつく抑えられていたメロン級の双丘が、まるで鳥籠から放たれ自由の身となった鳥のように外へと羽ばたき、ぷるるるん! ぷるるるん! っと主張するっ!


「……レミリオ殿……こ、こんなに美しい女性だったのか……!?」


 ゴクリと息を呑んだのはブラストではなくクロースの方であった。男性姿のレミリオを口説いていた一部のエルフ達は複雑な表情をしていた。


「じゃ、じゃあ……まさか、あのユリア姫は?」

「ええ? ユリアは正真正銘、男の娘・・・よ」 


 その瞬間、雷が落ち、全身を打ち抜かれたかのような衝撃を受けるエルフの貴族達。


「あ、あんな美しい姫が……」

「そんな事ある筈がない」

「逃げちゃダメだ、逃げちゃダメだ」

「し、信じられない」

「いや……もういっそ男でも構わん」


 驚愕の事実にブライティ王が居なくなった衝撃をも一瞬忘れてしまいそうになる光の国ライトレシアの者達。そして、事は動き出す。


――夢見の巫女様。こちら肉テロパーティ、ノゾミです。対象ターゲットを見つけました。殲滅にかかります!


「了解です、気をつけて下さいノゾミさん!」


 ノゾミからの意思伝達に反応する弥生。そして……。


「嗚呼! 来たわ! ユズ君ーー今行くわーー待っててぇえええーー」


 レミリアが佇む地面より桃色の魔法陣が出現し、光を放ち始める。明滅する桃色の光に包まれたレミリアの姿は、能力封殺霧アンチアビリティネブラにて夢渡りの力ドリームポーターが封じられているにもかかわらず、夢都浮遊庭園より姿を消すのであった。

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