第25愛 いつから私が仲間だと錯覚していた?

「うぐいすお姉様その美しい鶯色の髪、すべすべのお肌、甘美な香り、今日も素敵ですわ」

「さくら……あたしらはユズキ様のペットになったけれど……さくらとあたしは何処までも一緒なのん」


 夢の都ドリームタウンメイン通りから外れた路地裏で、『任務何それ美味しいの?』状態で身を寄せ合い、慰めあう二名ふたり。そんな愛を深め合う百合姉妹の様子を細いまなこで見つめる姿が……。


「あんたらこんな大事な時に……しかも昼間っから何やってるの?」


「はっ、マリンさん……いつからそこに?」

「マリンせっかくいいところだったのに……そんなに混ざりたいなら最初から言ってくれたらよかったのん」 


 乱れた忍び装束を整えつつ上目遣いで猫妖精マリンを見つめる百合姉妹。


「美しい子や可愛い子は好きだけど、貴女達今それどころじゃないでしょ? 任務・・はどうしたの?」


 うぐいすとさくらは本来の暗殺部隊としての任務を遂行するフリをして、マリンへ状況を伝える二重スパイの役割を担っていたのだ。王の暗殺へ携わっているならば、本来この場に居る事があり得ないのだ。


「どうやら暗殺は決行らしいのん。あたしらは王を守る幹部達をる任務を任されたのん」

「昼間時間が出来ました故、こうしてお姉様と午後のひと時を過ごしていたのです」


 再びさくらとうぐいすが致そうとしていたため、呆れた表情で話を進めるマリン。


「そういう事ね、じゃあ貴族達と同行しているユズ君やレミリアたんの出番はなさそうね」


 夜まで暗殺部隊が動かないという内部情報を知り、マリンがほっと腕を撫で下ろす。


「そうなのん。よかったらマリンさんも一緒に三重奏を奏でるのん」

「よく見るとマリンさんも美しい肢体をお持ちで素敵ですね」


「いや……私は遠慮しておくわ」


 ――――にゃーーお、にゃーーーお


 この時、夢端末ドリームアンドロイドから着信音猫の鳴き声が鳴り、マリンが応答する。


「はいこちらマリン。ノゾミ、え? ……なんですって!? ブライティ王が消失・・した!? ええ、分かった、すぐそちらへ合流する!」


 夢端末ドリームアンドロイドの通話を切った瞬間、動揺した表情で駆け寄るうぐいすとさくら。


「ど、どういう事なのん?」

「そんな……決行は夜のハズ……」


「貴女達……泳がされたんじゃない? 私達に嘘の情報を掴ませるために。心当たりはない?」


 マリンが百合姉妹の様子を見つつ、敵の状況を詮索しようとする。


「あたしらはちゃんと任務を与えられたのん」

「裏切りはバレていない筈です」


「まぁいいわ。ともかく王とユズ君が心配だわ。すぐ移動するわよ!」


 路地裏を出て、現場へ急行しようとするマリン。


「ちょっと待つのん!」


 うぐいすが彼女の腕を掴み、マリンの首筋に細い針のような物を突き刺す。


「……貴女達……どうして……?」


 彼女が首筋に違和感を感じた時にはもう遅い。マリンがそのまま力を無くし、倒れてしまう。悲哀な表情で彼女のしなやかでモフモフの身体を受け止めるうぐいす。


三名さんにんで三重奏を奏でていたらよかったのん」

「裏切りはバレていない筈です」


 マリンを背中に担いだまま、くの一姉妹は路地裏の闇へと消えていった。





★★★


「ここは……!」


 辺り一面が赤茶けた大地に何かが焼け焦げたような臭い。渦巻いて蠢く紫がかった厚い雲に覆われた空間。一瞬光に包まれたかと思うと、眼前の世界はまるで入れ替わったかのように別空間と化していた。ユズキが周囲を見回すと、正面に狐耳をひくひくさせ、尻尾をフリフリしている妖狐の姿を捉える。


「ショコラさん! どうして……!?」


 ショコラの奥には黒い影のような物に縛られ、目隠しをされたブライティ王の姿があった。自身の名前を呼ばれたショコラが振り返り、虚ろな瞳のままユズキに笑いかける。


「あ……ユズキさん。何を言ってるんですか? これは命令・・なんです。あの方の命令は絶対ですからぁ」


 ユズキがいつもよりおっとりした口調に視える。ブライティ王は下を向いたまま気を失ったかのように口を開かない。


 (ブライティ王は気を失っているのか……!?)


「あの方って誰だよショコラさん! 暗殺者の事か!?」


 ショコラの下へ駆け寄ろうとしたユズキだが、刹那、白い妖気オーラが発せられ、吹き飛ばされそうになるユズキ。ショコラは普段持っていない薙刀のような物を地面へ突き立てる。


「近づかない方がいいですよ? 近づいたらユズキさんを殺さないといけなくなります」

「おかしいよ! 君は夢都冒険者協会の人気受付嬢、ショコラさんだろ!」


 白い妖気オーラを諸共せず、一歩一歩近づくユズキ。ショコラの表情が一瞬揺らぐ。


「どうして……邪魔しないで下さい! 殺しますよ!」

「そんな口調……ショコラさんらしくないだろ!」


 ユズキが強い口調になった瞬間、一瞬彼の瞳が光ったように視える。ショコラの全身が震え、そのまま彼女は下半身を抑えたまま蹲ってしまう。そう、本人の意思と無関係に〝寵愛〟スキルが発動した証拠だった。


「はぁああああん……ユズキさぁあああん……い、今はらめなのぉ……」

「ショコラさん! 目を覚ましてくれ! 君は誰かを殺すような妖狐じゃない筈だ!」


 ユズキが見つめる度に、湧き上がる何かと必死に戦っている妖狐。尻尾がビクンビクンと脈打つように動き、薙刀を落としたショコラは両膝をついたまま上目遣いでユズキを見つめる。


「ユズキさぁん……ユズキさんの熱いのが入って来るの……ありがとう……。私……本当はユズキさんと……戦いたくない。だから、早く逃げて!」

「ショコラさん!」


 彼女の瞳から一筋の涙が流れる。泣き笑いの表情をしたまま彼女はユズキの身体を突き飛ばす。


「……早く……私が正気なうちに……」

「どういう事!?」


「――ほぅ、やはり死んでおらんかったか。儂の支配から一瞬でも解放させるとは……お主、面白い特殊技オリジナルスキルじゃのぅ」


 突如空間へ出現したユズキへ声をかけた者――それは、皇帝牛馬ジェネラルミノホース狩りの特別依頼エキストラクエストの際、プレミア平原にて対峙したあのフードの男だった――――

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