第24愛 孔明の罠

「なぁ、俺……この仕事が終わったら、夢の都ドリームタウンに移住してもいいか?」


 サングラスをかけた貴族のような格好をした男が夢の都ドリームタウン、メイン通りの露店で購入したキメイラの鳥皮串を頬張りながら隣の女へ声をかける。


「ねぇ、ロースト? そういうの人間界の言葉で、死亡フラグ・・・・・って言うらしいわよ?」

「なんだそれ? 旨いのか?」


 (格好いいのにたまにこいつ抜けてるのよねぇ)


「もういいわ。でもここの宝飾店や洋品店は魅力的ね。こんな綺麗な衣装がたくさん並んでる街初めてみたわ」

「いやいやシェイク……お前格好ビキニアーマーじゃねーか! 宝飾いらねーだろ……っておいそれ!」


 赤い髪を靡かせ女性が頬を膨らませ、男の持つキメイラの鳥皮串を奪い、残りを食べてしまう。 


「失礼しちゃうわね! この格好は任務・・の時だけよ! こう見えても私普段は乙女なの!」

「おいおい、任務って声デカイから!」


 ビキニアーマーの女性――シェイクの口を塞ぎ小声になる男――ロースト。気づくと警備のために街を歩く妖狐が彼等の横をぴょんこぴょんこ通過していた。


「もう……ローストが変な事言うからでしょ」

「おいおい俺のせいかよ。まぁいいや。時間までこの街を堪能しておこうぜ。街がなくなっちまったらそこの肉も食べられなくなるからな」


 牛馬ミノホースのステーキ串が売ってある露店を見つけ、指差しつつ、葉巻シガーに火をつけ燻らせる。


「まぁ、それは賛成ね。私は時間まで若い男と綺麗な衣装でも堪能しておくわ」


 軽くハイタッチを交わし、二名ふたりの暗殺者はお祭り騒ぎな群衆の中へと紛れていくのであった。




★★★


「うむ。今のところ異常はないようである。」

「はぁ……これ一日続くと思うと僕……先が思いやられるよ……」

ユリア姫・・・・! 小国のお姫様なんですから、僕じゃなくて私ですよ?」


 光の国ライトレシアの貴族達との会食が無事に終わり、ブライティ王と弥生との会談も問題なく進んでいるようだ。夢の国ドリームプレミア観光を前に控室にて待機しているお姫様姿のユズキが溜息をついていた。騎士姿のレミリアと専属メイド姿のショコラも一緒だ。


「ユリアは誰が見ても美しいお姫様である。兄としてこれほど嬉しい事はないのである」

「レミリア……じゃなくてレミリオ……よくその口調続けられるね」

「レミリオお兄様・・・も騎士姿お似合いですよぉー」


 ショコラがレミリア扮する騎士レミリオの姿にうっとりしている。会食会場ではユリア姫とレミリオは貴族達から注目の的だった。グランデ家のブラストとフランツ家のクロースを始めとする大貴族のエルフ達が入れ替わり立ち替わり声をかける始末。尚、美しい顔立ちのレミリオも一部の男性エルフに人気だったようだ。


「でも、これで分かったわね。グランド家とフランツ家は昔から争っている。ブライティ王暗殺にどちらかの貴族が絡んでいるのは間違いないわね」

「あ、レミリアさすがに元の口調に戻ったね。だよね、でも尻尾を掴むのは大変そうだよ」

「ユズキさんが貴族の方と一夜を共に・・・・・すれば簡単なんじゃないですか?」


 (さらっととんでもない発言をしないで下さいショコラさん)


 ショコラの発言を黙ったまま否定するユズキ。アイコンタクトで頷き合う三名さんにん


「この後の観光はマリンさん達も監視しているし、TV中継も入るから実行は夜宿泊のタイミングかしらね?」

「いずれにせよ監視を続けるしかないね」

「私はユリア姫のお傍に仕えておきますね」




 そうこうしている内に夢×光TOP会談は終わり、一行は夢都浮遊庭園という観光名所へと移動を開始する。黄金色の絢爛豪華な橋梁を渡ると、その庭園はどうゆう原理か地面より浮遊している陸地に存在していた。美しく整った植物に池、存在感を示す不思議な淡い光を放つ石。夢の都ドリームタウンの中でも有名な観光地の光景に思わず感極まる一同。


夢の都ドリームタウン三景と呼ばれる夢都浮遊庭園はいかがですか? ブライティ王」

「ほほぅ、これはこれは美しい光景ですな」


 弥生がブライティ王を案内し、貴族や夢見部隊ドリーマーパーティ幹部達が続く。ユズキやレミリアも普段訪れるような場所ではなかったため、夢都浮遊庭園が織り成す不思議な世界に思わず任務も忘れてしまう程であった。


 庭園の真ん中へ来ると記念撮影が出来る場所へ到着する。投影鏡プロジェクションミラーという、景色を映し保存したり、録画する事が可能な鏡を準備し、弥生とブライティ王を中心に一同が並ぶ。この時の撮影係はショコラだった。


「はいー。じゃあ皆さん、行きますよー?」


 ショコラが合図をし、皆が注目する。

 

「ユリア姫、先ほどの事は考えてくれたかい?」

「あ、ブラストさん……いえ、私は……」


 ユズキの背後には金髪のエルフ、ブラストがしっかりとついていた。苦笑いで返すユズキ。


 (ショコラさん、早く終わらせて……あれ?)


 この時、この場には夢の国ドリームプレミアの巫女、弥生や、夢見部隊ドリーマーパーティの幹部迄ブライティ王を取り囲んでおり、警備は盤石な態勢と言えた。ユズキはショコラと普段から接しているからこそ、彼女の瞳の色に一瞬違和感を覚えたのである。


 彼女の瞳は尻尾と同じ狐色をしている。しかし、この時の彼女は瞳の色を失っている・・・・・ように視えた。うっすらと笑みを浮かべた彼女の表情をユズキだけは見逃さなかった。


「はーい、行きまーす、3、2、1」

「ショコラ待って!」


 その場から飛び出したユズキ。だが、投影鏡からフラッシュが焚かれてしまう。まさに一瞬の出来事。


「え?」

「ブライティ王!?」

「まさか……!?」

「ちょっとユズ君!?」


 夢見の巫女や幹部達が居る目の前で、ブライティ王とショコラ、そして異変に気づいたユズキの姿のみが、その場から消失・・したのであった――――

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