第20愛 ご主人様、奉仕致します

 ふかふかのソファーにガラスのテーブル、細かな刺繍が施された絨毯。窓がない・・・・広い部屋の中、一つの目的を果たすために集まった者達。彼等はとある資料を眺めながら、今後の計画を立てているようだった。


「へぇ……こいつらがその特別依頼エキストラクエストをクリアしたメンツねぇ……」


 部屋の隅、サングラスをかけた長身の男が葉巻シガーを咥え、燻らせたまま手に持った資料を眺めている。


「くっくっくっ……面白い連中じゃが、儂等の相手ではないの」


 ソファーへ座った闇に紛れる漆黒のフードを目深に被った男が渇いた笑みを浮かべる。


「ねぇーーワタシにもその資料見せてよぉーー」

「おいおい! 俺が夢の都ドリームタウンにわざわざ潜入して取り寄せた資料だ。大事に扱えよ」


 褐色肌で露出度の高い鎧を着た女性が赤髪を靡かせ、サングラスの男から資料を横取りする。資料にはユズキ・ルーシアの属性や冒険者ランク、特殊技や魔法、過去の主なクレスト履歴などが載っていた。


「えーーいいじゃん、減るモンじゃないしぃー。お、このコ、可愛いじゃん! 男の子なんだぁーワタシの好みぃーー」


 腰をくねらせつつ女が資料に載っている男の子ユズキを見て舌舐めずりする。


「人間で特殊技オリジナルスキルを二種類も保有しているのは珍しいな。だが……こいつは今頃くの一姉妹によって天国逝きだろう……」

「うっそー、せっかく好みの顔なのにぃーー」


 葉巻シガーを燻らせた男の言葉を聞くや否や、途端に残念そうな表情となる女。


人間そやつとそやつの契約者パートナーも面白い女じゃったが、うぐいすとさくらの手にかかれば勝ち目はなかろうて」


 ユズキの契約者パートナーであるレミリアの資料を眺める漆黒のフードを被った男がくつくつと嗤う。すると、部屋の入口付近、先ほどまで誰も居なかった場所へ忍び装束を着た二名ふたりの女性が片膝を立てた体勢で出現する。


「迅雷のくの一姉妹――姉うぐいす、妹さくら、只今戻りましたのん」

「只今戻りました」


 くの一姉妹の到着を確認し、赤髪の女性がくの一姉妹の顔を覗き込む。


「あーらー、遅かったじゃないー。てっきりあの男の子にられたのかと思ったわよ」 


「あんたじゃないんだから失敗はしないのん」

「私とお姉様にかかればあの程度、敵ではありません」


「……ふーん。そうー」

「まぁいいじゃないか。んで、うぐいす。他に計画の邪魔になりそうな奴は居たか?」


 サングラスの男が赤髪の女を窘め、うぐいすへ声をかける。


特別依頼エキストラクエストに参加していたパーティ。残りのメンバーが危険ですのん。あのAランクパーティには勝てないのん」

「あの妖精達の強さは本物です。私の雷撃も恐らく効かないかと……」


 うぐいすがお手上げ状態といったポーズを取り、さくらが補足する。


「……そうか。まぁいい。いざという時は儂が相手をしよう」

「で、肝心の標的ターゲットは誰が殺るの?」


 赤髪の女がそう尋ねると、フードの男がゆっくり立ち上がった。


「くっくっくっ……それはじゃな……」


 フードの男の影が一瞬揺らいだように見えた。



★★★


 夢の都ドリームタウンを兄妹に扮して一日歩いたレミリアとユズキ。ゴルの宿屋のVIP部屋にて、元の格好へと着替えているようだ。


「もうーーこれ苦しすぎぃーーこれしばらく続くのなかなか苦痛よぉーー」


 男装用のかつらを取り、鎧を脱ぎ、巻いている白い布を解いていくと、解放されたメロン級の果実がぷるるるんっ! と自由を取り戻したかのように主張する。


「僕もこの格好続けるの嫌なんだけど……」


 ソファーに座った状態で背後からの・・・・・声を聞きつつ、普段の格好へと着替えるユズキ。お姉さんレミリアの着替えている様子が気になりつつも、そこはぐっと我慢する。


「鎧って意外と汗をかくのねぇー。下着が濡れちゃった……私、魔導士でよかったわー」


 (なん……だとっ!?)


「……レミリア……その……着替え終わったら言ってね」

「もうーーご主人様マスターのえっちーーもう少しで着替え終わるから待ってて」


 スカートをするすると履く音、肌に服が触れると、擦れる音が余計に想像を掻き立てる。喉を鳴らして下を向くユズキ。


「……着替え終わりましたよ、ご主人様マスター

「そかそか……よかっ……なんっ……だとっ!?」


 ユズキがようやく拷問から解放されたかのようにほっとひと息ついてレミリアを見る。しかし、ユズキは彼女の姿を見た瞬間戦慄する! レミリアは普段着ている白い魔導士風のローブ……ではなく、二つのメロンが強調された、黒と白が基調のメイド服を身に着けていたのである!


「ふふふ……ユズ君、驚いた? これノゾミさんとの戦闘訓練の報酬なのよ? びっくりしたでしょう?」

「ほほほ報酬って……どうしてメイド服が……!?」


 眼前に強調された収穫時のメロンが迫り、ソファーに深く座り込んでしまうユズキ。言葉尻から動揺が伝わる。


「一度着てみたかったの。どう? ユズ君、似合ってる?」

「……に、似合ってるよ……」


 似合ってるも何も、可愛さとセクシーさを両方強調したかのような格好に、思わず鼓動が速くなってしまうユズキなのである。


「よかったぁー嬉しいー。さぁ、ご主人様。今日はいーーっぱいご奉仕しますねぇー」

「ちょ……ちょっと待って! レミリア!」


 ユズキの隣、ソファーへ座り、ご主人様を上目遣いで見つめる彼女レミリア


 (このままじゃ……レミリアが〝夜の妖精〟に……!?)


「ご主人様……この間……命を救ってくれてありがとう」

「え?」


 思わぬレミリアの言葉に驚くユズキ。


「私……毒でやられた時……本当ダメかと思ったの……ユズ君の寵愛が私を守ってくれた……嬉しかったのよ?」

「いや……あの時は必死だったから……」


 レミリアを失いたくないという強い気持ちがユズキを突き動かしたのだった。


「ご主人様このまま私にお礼をさせて……私の気持ちを……受け取って欲しいの」

「レミリア……でも僕……」


 ユズキの中に過去の不安がよぎる。眼前に居る彼女のブロンドの瞳は心なしか潤いを帯びていた。


「大丈夫よ。今度は私がご主人様を愛で包み込む番」


 そう言うと、契約者パートナー使役主マスターを押し倒したのだった――――

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