第18愛 堕ちるくの一姉妹

 気を失っているレミリアの痣が少しずつ広がって来ている。寵愛により苦しそうな痛みからは解放されているようだが、早く対処しなければならなかった。


「君……あたしに何をしたのん? ……敵にこんな……」

「……この毒の対処法を教えてくれたら、答えてあげてもいいですよ?」


 初めて受ける〝寵愛〟による快感と脳内で戦いながら抵抗するくの一。そんなくの一を冷たく一瞥するユズキ。ユズキが視線を強く向ければ向ける程、くの一の全身に電流が駆け巡ったかのような刺激が駆け巡る。


 (ダメ……このままじゃ……耐えられない……!)


「くっ、くそっ、さくら……逃げるよん!」


 全身がビクビクと痙攣する中、虚ろな表情で横たわる妹に声をかける姉くの一。


「うぐいすお姉様……私……大丈夫ですよぉ……もうこの人についていきましょう」


 目がトロンとした状態となり、妹くの一の心は既にユズキのモノになっていた。


「なっ、こいつ……あたしの大切な妹にまでっ! くそっ! 死ね!」


 全身に送られる快感を打ち消すかのようにくないを握り、投げつけるが、ユズキは軽く回避する。


「お前達、誰の差し金だ? 毒の治療方法を教えろ!」

「私……さくらです……お兄様ぁ……もっとこっちを見て……その瞳に見つめられると……気持ちいいの」


 (そうか……この妹なら……)


「さくらさん、レミリアさんを治癒してくれたら見つめてあげますよ」

「嗚呼……わかりましたぁ……私達は自分達が使う毒の血清を持っていますからぁ、もう大丈夫ですよぉ」

「馬鹿っ!? さくらっ、やめるのん!」

 

 うぐいすの訴えも虚しく、さくらが小さな針のようなものをレミリアの太股に刺すと、少しずつ痣が引いていく様子が分かった。


「さくらさん、ありがとうございます。ご褒美だよ」

「あひぃいん!? お、おにぃさまぁああああ!」


 さくらの両肩に手を乗せ、笑顔でユズキが見つめた瞬間、さくらは全身をビクビクさせたままそのまま瞳をハートマークにしたまま倒れるのだった。


「さくらっ! ここで負ける訳にはいかないの……任務に失敗すると母の命が危な……」


 その言葉にピクリと反応するユズキ。


「そうか……何か訳ありみたいだな。いいよ、僕も鬼じゃない。僕等に情報提供してくれるなら、僕もお前に協力してやるよ」

「……雇い主の情報だけは言えないの……」


「わかったよ、じゃあそのままそこで身悶えていたらいいよ。レミリアとこの妹さんは連れていくから……」

「ま、待ってなのん……分かった……私達の負けだ……だから……」


 (さくら……私の時・・・より気持ちよかったの?)


「だから?」

「あ……あたしも……その瞳で見……見つめて欲しいのん」


「じゃあ、僕の仲間になってくれるね?」

「なりゅぅうううーー仲間になるのぉおおおん!」


 ユズキの瞳に見つめられ、二名ふたりのくの一は全身を震わせ、恍惚な表情のまま気を失うのであった。





★や★り★す★ぎ★


 暗殺を回避したユズキ達は、そのままゴルの宿屋のVIP部屋へと移動した。レミリアの太股の傷は回復薬である治癒源水ヒールウォーターで回復しておいた。


「ねぇ……ご主人様マスター……どうして襲って来た子達がご主人にひっついてるの?」


 本来の契約者パートナーであるレミリアがジト目で椅子に座るユズキとその両側をぴったりキープしているくの一姉妹を見つめている。


「いや……実は僕も、レミリアが危険な状態になった時からの記憶があんまりなくて……」


 どうやらユズキは、怒りに任せて〝寵愛〟の力を解放した後の記憶があんまりないらしい。


「ユズキ様はあたしら姉妹を飼ってくれるって言ったのん」

「さくらはもう、お兄様のモノです」


 (記憶はなくても飼うなんて言ってないと思う……たぶん)


「レミリア、この子達も、敵の情報を話してくれるらしいから……」

「殺しに来ておいてご主人に取り入ろうなんて、こいつら信じられないわ」


 忍び装束を着たくの一姉妹。雷属性の妖精人ピクサノイドらしい。鶯色のポニーテールが姉のうぐいす。彼女はユズキより年上に見える。桜色のツインテールが妹のさくら。こちらはまだあどけない表情をしている。どうやら、とある国に属する小さな都の暗殺集団に所属しているらしい。


「レミリアさん、大丈夫ですよ? あたしらはあくまでユズキ様のペット・・・ですの。これからはペットとしてご主人を奉仕するのん」

「お姉様!? ご奉仕……さくら……男の人をご奉仕なんてした事ないけど頑張ります!」


 (やめんかーーお前らーー)


 心の中で悲鳴をあげるユズキ。先が思いやられるとはこの事だ。


「ユズ君、だめよ! こいつら朝からユズ君を奉仕とか言ってにゃんにゃんするつもりよーー! 今すぐユズ君から離れなさーーい!」

「レミリアもああ言ってるし、ちょっと離れてもらえる?」


 恐る恐るユズキがお願いすると、意外とすぐに二名はユズキの傍から離れる。すると部屋のソファーへと二名移動を始め……。


「わかりました、ユズキ様がそうおっしゃるなら離れるのん」

「その間はお姉様の温もりを堪能します」


 手を繋いだ状態で座る姉妹。姉妹にしては二名の距離が近い。いや、これはほぼ密着状態だ。


「あなた達……もしかして……」


 最近ノゾミとそっちに目覚めかけた経験を持つレミリアがその様子に気づく。


「あら、レミリアさんわかる? あたしの本命・・はさくらなのん。あたしらはずっと一緒なのん」

「私とお姉様は二名ふたり一名ひとりなんです」


 そのままゆっくり抱き合う二名。ユズキは呆気にとられた表情で姉妹の様子を見つめている。


「だめ、ユズ君には刺激が強すぎるわ」


 そのままユズキの顔を手で隠すレミリア。レミリア自身は互いを求めあう百合っぷる姉妹の様子をしっかりと見ていた。だんだんと姉妹の顔が近づいていき……そこへ部屋の扉をノックする音が聞こえる。


「ヒャッハーー! やっぱりあそこの肉は最高ね! ユズキ君、レミリアたん! お土産買って来たわよん」

「持ち帰り用のお肉の串なのぉーー! 一緒に食べましょー」

「嗜好」


 とんでもないタイミングで入って来たにくテロパーティ。眼前のソファーで行われていた自主規制コウイを目撃してしまう。


「ななな、なんなのぉーこの百合姉妹わぁーーどうしてユズキ君達の部屋に居る訳ーー」

「忍び装束の姉妹なのぉーーそそるのぉーー」

「至高」


 突然の来訪者にも気づかず、百合っぷる姉妹は互いを求め、見つめ合うのであった――――

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