第16愛 メロンかもしれない

 〝メロンのノゾミ〟――闇属性を扱うエルフは自身の妖気力フェアリーエナジーを身に纏う事で高速移動を実現する。遠隔で放たれる漆黒の矢は敵を殲滅し、その度にぷるるんっ、ぷるるんっと左右に高速で揺れ動くメロンを目撃した冒険者による噂が広がり、そんな通り名がついたらしい。


 敵として、あのメロンを目撃したが最後、メロンの破壊力により悩殺……ではなく、漆黒の矢により殲滅される――甘い蜜をたくさん含んだ極上メロン……相手にとっては地獄のメロンとなるかもしれない。


「……あの子、最大魔力がまだまだね。夢幻門ミラージュゲートはそう何度も使えない筈……あのノゾミ相手にどうするつもりなのかしら……」


 遠くから腕を組み、戦況を見つめているマリン。実力差は一目瞭然。これはあくまで模擬戦闘。どちらかが先頭不能になる前に止めるつもりのようだった。


 再び高速移動で縦横無尽に駆け巡り、死角から矢を放つノゾミ。感覚を研ぎ澄まし、ギリギリのところで回避していたレミリアだったが……。


「……痛っ!?」


 先ほどまで避けきれていた矢が左肩を掠める。思わず片膝をついてしまうレミリア。


 (どうして……先ほどまで避けきれていたのに……!?)


「……動きが鈍ってますよ?」


 距離を取っていたノゾミがゆっくりと近づいていく。弓に矢を構えた状態で悠然と夢妖精を見据える。


「このくらいの傷……平気よ」


 片手で脇腹を押さえた状態で、片手で杖を持つレミリア。


「じゃあ約束通り、ユズキさん一日専属メロン券・・・・・・、いただきますね! ――暗黒射撃ダークアロー!」

「……させない! 夢渡りの力ドリームポーター、発動!」


 放たれた矢は夢属性魔法によるゲートに吸収される事はなく、壁へ向かって飛んでいく! レミリアは夢魔法である夢幻門ではなく、自身が移動するために使っていた能力アビリティ――夢渡りの力を発動したのである。


「なっ、夢見の回廊へ逃げるなんて反則です!」

「……逃げてなんかいませんよ? 夢見への誘いよ――童夢音波ドリームウェイブ!」


 ノゾミの背後から目に見えない何かが放たれ、思わず両手を交差させるエルフ。

 

「レミリアさん、何をしたん……なっ!」

「夢魔法いきます! ――夢妖気弾エナジーボール!」


 片膝をついたノゾミへ向かって桃色の妖気を籠めた球を放つレミリア。夢渡りで一瞬にして背後へ移動し、彼女が背後から放った童夢音波ドリームウェイブは、対象の妖気力を直接減らす夢属性の中級補助魔法だった。それは相手の隙をつき、攻撃に転じるための奥の手だったのである。


 レミリアの魔法が直撃し、片膝をついたままのノゾミの身体から蒸気のような煙があがる。


「ノゾミさん、戦闘中、傷をつけたらいいんでしたよね? この勝負、私の勝ち……」

「……殺す」


 ノゾミの銀色の瞳が妖しく紅く光った瞬間、それまで片膝をついていた筈のエルフが一瞬で間合いを詰める! レミリアの眼前で弓を構え、禍々しい漆黒の妖気オーラを纏った矢をゼロ距離で放とうとし……!


「――そこまで!」


 刹那ノゾミとレミリアの間に模擬戦闘を見守っていたマリンが立ち、ノゾミの腕を押さえつける。我に返ったノゾミの瞳が元の状態へと戻る。


「ノゾミ! ここで暴走・・はやめてよ? レミリアたんどころか訓練場が吹き飛ぶわよ?」

「マリンごめん……つい闘争本能に火がついちゃって……」


 ノゾミが瞬間的に籠めた殺気は、明らかに今まで戦闘中に見せた事のない殺気だった。全身に鳥肌が立ち、思わず身震いしてしまうレミリア。 


「……こ、殺されるかと思いました」

「レミリアさんごめん、つい本気になっちゃって……賭けはレミリアさんの勝ちでいいよ?」


 両者手を取り、握手を交わす。


「いえ……あれだけの実力差を見せつけられたら……私の勝ちとは言えません」

「じゃあどうしよう……ご褒美はお預け?」


 (うーん……でもあのご褒美は捨てがたいわ……)


「……てかあんた達、勝負にナニを・・・賭けてたのか知らないけど、早く傷回復させるわよ!」


 戦闘に夢中で傷ついていた事を忘れていたのか、レミリアが脇腹についた自身の傷を見て、思わずふらっと倒れそうになる。慌ててノゾミがレミリアの身体を支え、彼女の顔がノゾミの双丘へと収納される形となる。


「ノゾミさん……やっぱ柔らかくて弾力のある果実は最高級メロンですわ……」

「レミリアさんもいい果実を持ってます……私も埋めたくなってしまいます」


 そのままゆっくりと抱き合う形で果実と果実を重ねていく二名ふたり……。

 ゆっくりと沈み込む柔らかで最高級な四つの果実。

 妖精界のどのメロンより極上のメロンかもしれない。


「美しい光景ね……ってだから! おまえら早く傷治しなさい!」


 そのまま何かに目覚めそうになる二名を引っ張って、治療室へと連れていくマリンなのである。



★メ★★ロ★★ン★


「じゃあ、レミリアさんも、ノゾミさんへ攻撃出来たという訳ですね」

「ええ、初日としてはまぁ上出来ね。レミリアたんは魔力が少ない分、妖気力は豊富にあるようだから、能力である夢渡りの力を有効に使えば戦闘も有利に運べるわよ、きっと」


 治療室にて身体を回復させた後、蒸気風呂で汗を流し、休憩室へと移動した一同。互いの訓練の様子を報告していた。ユズキはマリンより、Aランクのノゾミへレミリアが一矢報いた様子を聞いていた。


「マリン、彼もセンスがある。接近戦の動きさえ学べば将来有望」

「ツカサ先輩、僕はまだまだですから。経験が足りないという事を痛感しました」


 ユズキの攻撃は、舞により発生させた霧により視界を遮るところまではよかったが、強敵を前に致命傷を与えるレベルまで達していなかったのだ。


「ツカサとユズキ君もうまくやったようね。まぁユズキ君の場合は、その〝寵愛〟って奥の手もあるんなら問題ないんじゃない?」


 マリンが訓練の結果を聞き、満足そうに頷く。今日の訓練はユズキとレミリアにとってかなり収穫のあるものだった。


「それにしてもマリンさん、僕の契約者パートナーの様子がいつもと違うようなんですが、あれ……大丈夫ですか?」

「嗚呼……まぁ、しばらくしたら鎮まる・・・でしょうから、大丈夫でしょう」


 いつもならユズキの横をキープしているレミリアが少し離れたところに座っているのだ。両手を握りあい、夢妖精と向かい合って座っているのは……極上のメロンを携えた銀髪エルフだった。


「ノゾミさん……私、貴女の事……勘違いしていたのかも……」

「レミリアさん……私以外の果実に初めてこの胸がときめいたの……火照った身体がまだ冷めないの」


 蒸気風呂により火照った身体を慰めあうかのように、両手をぎゅっと握り締め、見つめあう二名。


「うーん……どうしたらいいかな?」

「ユズキ君の〝寵愛〟スキルで二名の矢印をユズキ君へ向けたらいいんじゃない?」


 遠目で見て困り果てるユズキに対し、さらりとマリンがとんでもない事を発言する。


「いや……それ、恐らく今以上に大変な事になりますから……」

「……酒池肉林」


 収穫のある訓練により、違う方向に目覚めかけている彼女達は互いに実った極上の果実を収穫しようとしていたのであった――――

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