第14愛 ユズキの半分は可愛さで出来ています

 ゴルの宿屋から夢都冒険者協会へ向かうには、必ずメインストリートを通過する事となる。

 この日はメインストリート途中にあるお店の前にひとだかりが出来ていた。


『はーい、みんな大好きユメナンデスの時間です! 本日は夢の都ドリームタウンのメインストリートから中継ですよー。中継先のパンジー!』


 上空を泳ぐようにして浮遊する巨大モニタの映像より、司会をしているらしき兎耳の妖精が、中継先へ呼びかけると、メインストリートの映像へと切り替わった。


「はーい、僕だよー。みんなのアイドル、パンジーだよ! 今日はね、このメインストリートに人間界の最新トレンドを取り入れた新しいお店がオープンという事で中継に来たんだ」


 映像がお店へ切り替わると、可愛らしい花をあしらったカラフルでフリフリの衣装を着た花妖精フラワーフェアリー、パンジーが自身の羽根をぱたぱたさせつつ、お店を案内し始める。既にお店の前には、甘い香りに誘われた女妖精達が行列を作っていた。中継は店内へと切り替わり、花妖精が中で素敵な食物を今まさに頬張ろうとしている女の子っぽい・・・・・・お客さんへ声をかけた。


「皆さん、あれです、あれ! 人間界から夢妖精ドリームフェアリーが取り寄せた〝パンケーキ〟という食べ物ですよー。はーい、そこの幸せそうな君ー、そうそう君だよ。ちょっと食べた感想聞かせてよ!」

「え? え? 僕ですか!?」

「ユ、ユズ君これ……童夢ドリームTVの中継よ!」


 まさに口に頬張ろうとした状態だったため、硬直状態で恥じらう表情が夢の都中に中継される。向かいに座っていた夢妖精も、突然のカメラクルー登場に驚く。


「ほら、ほら、フリーズしてないで! 食べないと僕が代わりに食べちゃうよ?」

「あ、はい。分かりました」


 観念したかのように恋苺ラブベリーソースと蜂蜜がたっぷり乗った、ふわっふわのパンケーキをひと口食べるユズキ。


「ふぇえええーー、ラブベリーの酸味と蜂蜜の甘さがぁーふわっふわのパンケーキに染み込んでとっても美味しいです!」

 

 ほっぺたに手を添えて至福の表情となるユズキを見て、中継を見た視聴者はどこのアイドルがグルメレポートをしているんだろうか? と思った事だろう。


「凄いよ君、可愛いね! 僕の好みのタイプだよ! ねぇ、僕のアイドルグループに入っちゃう? 今度プロデューサーに紹介するよ? はい、誰もが幸せになるパンケーキ。夢の都ではここでしか食べられないよ! さぁ、中継見ているみんなも是非食べてみてね!」


 こうして花妖精が生中継を締めくくり、無事に放送が終了する。ユズキとレミリアは、どうやらこの朝からニューオープンのお店に並んでいたらしい。人間界と密接に絡んでいる夢の都は、他の国と違って人間界の最新文化を取り入れている事が多いのである。


「生で見る花のアイドル――アイドルグループ〝フラワリング〟のパンジーちゃん。さすがに可愛かったわねぇー。まぁ、ユズ君の可愛さには負けるけど」

「いやいや待って、プロのアイドルとどうして僕が可愛さ対決しないといけない訳」


 ユズキが苦笑いでレミリアに突っ込みを入れる。


「でもあれだけ美味しいんだから、マリンさん達も並べばよかったのにねぇー」

「まぁ、あの方々は〝お肉〟しか興味がないんじゃないかな?」


 この日、ユズキとレミリアはパンケーキのお店へ行くという目的があったため、マリン達を誘ったのだが、意外にも彼女達はついて来なかったのである。いや、普段からお肉の話しかしないので当然と言えば当然なのかもしれないが。


「まぁ、この後合流した時に報告しましょう」

「そだねー」



 マリン達とユズキ達はこの後、冒険者協会地下にある、ギルド訓練場で落ち合う事になっていた。


 ユズキとレミリアは持っている特殊技オリジナルスキル能力アビリティそのものは強いものの、冒険者としての経験はまだまだ浅い。今までにない危険な特別依頼エキストラクエストを受けるにあたって、歴戦のAランクパーティに訓練を積んでもらおうという訳だ。


「遅くなってすいません!」

「ごめんなさい……思ったより時間がかかりまして……」


「ちょっとぉー、楽しいデートだからと言っても遅いわよぉおー」

「このリア充爆発しろ、なのぉーー」

「……爆散」


 パンケーキの行列に思った以上の時間がかかり、合流が遅れてしまったようでユズキとレミリアが謝罪する。マリンは怒った口調の割に笑顔だった。ノゾミとツカサが若干危険な発言をしている気がする。


「申し訳ないです。早速訓練、よろしくお願いします!」

「よろしくお願いします!」

 

「ええ、いいわよ。この訓練場なら施設も揃っているし、結界も張ってあるから激しい戦闘も問題なし。隣に治療室もあるからある程度の怪我をしても安心よ」


 そこは、天井の高い、全面白い壁に覆われた殺風景な部屋であったが、床と壁は全面結界で覆われており、派手な戦闘にも対処出来るようになっているのである。マリン達は、此処でよく戦闘訓練をしているそうだ。


「さて、部屋も広い事だし、二手に分かれましょうか。私はここで戦況を見ておくわ。まず、ユズキ君はツカサと模擬戦闘を行ってちょうだい!」

「え? マリンさんじゃなくて、ツカサ先輩とですか?」


 接近戦での戦いをメインとしているユズキは、てっきりマリンが相手をしてくれると思っていた。


「ふふふ、そっか。ユズキ君はまだ、〝水戟のツカサ〟としての彼女の戦闘をあまり見ていないものね」


「そう言えばツカサ先輩、そんな通り名でしたね」

「……興味ない」


 そっけない返事をするツカサ。


「同じ水属性の攻撃が使える者同士、いい経験になると思うわよ? まぁ、やってみたらわかるわ」


「マリンさん、分かりました! ツカサ先輩、よろしくお願いします!」

「……別にいい。全力でかかってくるといい」


 ユズキとツカサが移動を開始する。


「さ、レミリアさん。同じ〝メロン〟の果実を持つ者同士、やりあい・・・・ましょうか?」

「あの……ノゾミさん、表現が卑猥なんですけど……」


 銀髪エルフの発言に、思わず苦笑いしてしまうレミリア。


「この場合のやるは、そっちの意味じゃないですよ?」

「それは分かってるので大丈夫です」


「うーん……普通にやっても盛り上がらないから……あ、そうだ!」


 ノゾミが何かを思いついたらしく、レミリアへそっとと耳打ちする。


「なん……だとっ!? それは……わかりました、その条件、受けましょう!」


 ノゾミとレミリアが妄想の中で笑みを浮かべ、両者真剣な表情で訓練を開始するのであった。

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