第9愛 夢みる力と恩恵の秘密
「へぇー、じゃあユズキさんは〝寵愛〟スキルという
「ええ……普段発動すると厄介なんですが、戦闘中ピンチの時は重宝するスキルでして……」
魔物を撃破しユズキと合流したマリン達は、レミリアの瞳がハートマークになっている事に気づき、ユズキが寵愛スキルや
「なるほど、そもそも人間は、妖精やエルフと違って
ノゾミがユズキへ質問する。
「ええ。人間の
「聞いたことがある。かつて魔王と共に世界を改変しようとした魔人を止めた英雄……ユウヤとか言う名前だったハズ」
ユズキの説明にツカサが反応を示す。
「僕の場合、〝寵愛〟という特殊技がありますから、愛の力を一旦レミリアが受け取り、
「うーん、なんだかよく分からないけど、めちゃめちゃ強化出来るという事はわかったの」
肉をゲットしてほっこりしていたエルフは半分話を聞いていないようだった。
「ふふふ……ユズ君の特殊技は凄いのよぉー。だって生まれながらにして
「恩恵ですって!? 女神様からじゃないとすれば……ユズキさんの親って……」
「実は僕……幼い頃両親と一緒に過ごした記憶しかなくて……冒険者になったのも、もっと強くなったら、冒険者だったという親にいつか会えるんじゃないかという想いがあっての事だったんです」
ユズキが神妙な面持ちで語った。
「私がユズ君に提案したの。親が冒険者だったのなら、冒険によって各地を回る事で、手掛かりもあるんじゃないかってね」
いつの間にかハートマークだったレミリアの瞳が元に戻っている。
「そう、ユズキさん達も訳ありという事なんですね」
「影がある男には魅力が宿る」
「あら、ツカサはそういうのが趣味なのね」
「駄エロフ、からかうな」
ノゾミとツカサのやり取りに思わず笑みが零れる
「さぁ、プレミア平原が見えて来たわよ。
妖気力をいっぱいに浴びた自然の妖草を食べ、引き締まった筋繊維を全身に備えた妖獣――皇帝牛馬。一度ステーキとして焼いたならば、溢れる肉汁と口の中で蕩ける肉と脂身の三重奏が全身へと駆け巡る事であろう。
魔物ランクはないが、お肉ランクは特Aクラス。国によっては宮廷料理や上級貴族の間で嗜まれる代物だ。
「ヒャッハーー! お肉ぅーーいっただきーー!」
自身が狙われていると知った皇帝牛馬が、自慢の角を突き出し攻撃を仕掛けるが、歴戦の戦士へ通用する筈もなく、光を帯びた爪によりお肉が見事に捌かれていく。
「サーロイーーン、リブロース、ヒレーー、ラーーンプ!」
この後、縦横無尽に草原を駆ける
「マリンさん……肉を前にすると性格が変わるんですね」
「ああなると、マリンは誰にも止められないの」
ユズキの呟きにノゾミが応える。肉の塊となった皇帝牛馬を山にして、マリンが戻って来る。
「これ……金貨何枚分の収穫かしらん? 報酬に少しお肉貰えるって書いてあったし、
「のほぉおおーー肉なのぉーーヤバイのぉーー」
「ノゾミ……まだ我慢」
目をギラギラ輝かせる猫妖精と、涎を垂らす銀髪エルフ。エルフを制止する水妖精までもが眼前の高級肉に興奮を隠しきれないで居た。
「あとはレミリアの
「私に任せて下さい」
「そっかぁ! レミリアたん夢妖精だものね。その能力、素敵ね!」
大量の肉を担いで持って帰ろうと目論んでいたマリンは、その手があったかという表情となっていた。
「そうと決まれば今日は
「ノゾミ……もう少しの辛抱」
この時、飯テロパーティは、高級肉に気を取られ、近寄っていた殺気に気づくのが遅れた。たまたま周囲を見回していたユズキの視界が、草原の向こう、一瞬光る何かを捉えたのだった。
「レミリア!」
「……っ!? 夢に還れ! ――
眼前に迫る攻撃は全員を呑み込まんとする巨大な漆黒の球だった。ユズキの機転によりレミリアが動き、夢属性魔法により夢見の回廊という不思議な亜空間へと繋がるゲートを創り出す! 漆黒の球はゲートに吸い込まれ、そのまま消失した!
「……ほほぅ、夢魔導士がおったか。面白い連中じゃの」
漆黒の球が放たれた先、草原の向こうから目深に漆黒のフードを被った男がこちらを見据え、佇んでいる。
「あんた……何者だ!」
ユズキが男に向かって叫ぶ!
「まぁ、いずれ分かる事よ。さらばじゃ!」
「ちょっと、待ちなさい!」
ノゾミが素早く矢を放つも、フードの男はその場の空間より消失し、草原に吹きつける風の音のみが周囲へ鳴り響いていた。
「なんだったんだ……あいつは……」
誰も居なくなった場所を見つめるユズキ。彼等は、不穏な空気のまま特別依頼を終えるのであった――――
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