第8愛 寵愛スキル、強制発動!

「本来牛獣人ミノタウロスって獣人族として生活してる者も居るよね?」

「あれは残念ながら魔獣と化したミノタウロスよ。負の妖気力フェアリーエナジーで溢れているわ」


 そもそも人間以外の妖精界の生物は、妖精に限らず妖気力フェアリーエナジーというエネルギーを蓄えているのだ。基本は正の妖気力なのであるが、魔に侵された者はとなる。一旦そうなると、倒すか、魂を浄化してあげなければならない。


 丘の上にて鉄球を振り回す筋肉隆々の魔獣を見据え、岩場に隠れる一同。闇を吸い込んだかのような漆黒の肉体。頭には鋭い角が生えている。


「そもそも獣人族は正の妖気力で構成されているハズ……あれは魔に侵食されているわね」  


 鼻をくんくんとさせながらマリンが呟く。嗅覚で、妖気力を感知しているのだろうか?


「うちはノゾミとあのキマイラを仕留める。マリン、牛獣人ミノタウロスを……」

「いえ、ツカサ先輩、僕にやらせて下さい!」

「え? ユズキ……君?」


 ユズキがツカサへ目配せをする。


「待って! 君達、相手はCランクよ? どうやって?」

「大丈夫です、僕とレミリアさんの力であの程度の敵ならなんとかなります!」

「マリンさん、大丈夫ですよ、ユズ君と私には奥の手・・・がありますから!」


 ユズキとレミリアの様子を見て、何かあるのだろうと確信し、マリンはミノタウロスを二名ふたりへ任せる事にする。


「わかったわ。じゃあ私達でキマイラを仕留めるわ」

「ユズキさん、可愛い顔してなかなかやりますね」

「キマイラ一体くらい……瞬殺」


 互いに頷き合ったパーティは、それぞれ散開し、眼前の敵と対峙する!





 獅子の頭と胴体、大鷲の翼と爪、毒を持った蛇の尻尾を携えたCランク魔物モンスターキマイラ。並の冒険者なら鍛え抜かれた体躯に攻撃すら通らない。眼前に突如現れた黄色い髪を靡かせる猫妖精と、格闘家風の女妖精に、激しく咆哮し、鋭い爪を立てて襲いかかるキマイラ。


「ヒャッハー! なかなかいい動きをするわね!」


 振り下ろされた腕をマリンが飛び上がり回避すると、鋭く強力な爪撃により地面が抉れる。飛び上がった身体を回転させ、マリンは自身の爪をキマイラの胴体へと突き立てる!


「ヒャッハー! 行っくよぉおーー、光印爪ライトクロー!」


 キマイラの胴体を引き裂いたかに見えた初撃だったのだが……。


「ちぃっ……浅いか!」

「ぎゃしゃああああああ!」


 自身に攻撃を加えた標的ターゲットへ素早く向き直り、咆哮と共に巨大な火球を放つキマイラ。

 中級攻撃魔法――豪炎球フレイムボールだった。マリンの視界が巨大な炎球により遮られる。


「あ……やばっ」

「……水劉拳すいりゅうけん――水陣壁すいじんへき!」


 火球とマリンの間にツカサが立ち、翳した両の手より素早く水の壁を出し、火球による攻撃から身を守る。火球がぶつかった瞬間激しい爆発が生じ、マリンとツカサが吹き飛ばされる。キマイラは翼を広げ、そのまま上空へと舞い上がる。


「くっ……助かったわツカサ」

「マリン……まだ。次が来る」


 上空から地面へ向け豪炎球を連続で放つキマイラ。ツカサとマリンが素早い動きで回避する。周囲より炎が舞い上がり、爆ぜ、爆散する!


「そろそろかしら……ね」

「これでもう終わり」


 キマイラは上空にさえ浮かべば、自身へ攻撃は届かないと判断したのであろう。逃げ惑う猫妖精と女妖精へ向け豪炎球を放ち、優位に立っているように見えた。しかしこの時キマイラは、岩場の向こう、刹那遠くから自身に向けられた殺気に気づく!


ご主人様マスター、力をお借りします――闇よ貫け! ――闇魔射撃ネーラ・シュート!」


 殺気に気づいてからではもう遅い。豪炎球の射程よりも遥か遠くより放たれた巨大な漆黒の矢が、キマイラの鍛え抜かれた体躯を一撃で貫いた!


 力を失ったキマイラは緑色の液体を噴出しつつ地面へと墜ちていく。地面とぶつかった衝撃で激しく土煙があがった。


「ヒャッハーー! さっすがぁーノゾミーーやるぅーー!」

「うちとマリンは惹きつけ役。仕留めるのはノゾミ・・・


 やがて、闇属性を纏った弓矢による強力な一撃を放ったエルフ――ノゾミは、倒したキマイラの下へ駆け寄り、弓矢を仕舞い、ナイフでキマイラの皮を剥いでいく。


「のほぉおーーキマイラの肉ーーゲットなのぉーー!」 

「……また始まった」

「目の前に肉ある限り……私達は持ち帰る運命なのよ……」


 肉が大好物なエルフが、キマイラの皮と肉を剥ぎ取る作業をしている中、ユズキとレミリアによる牛獣人ミノタウロスとの戦いも終焉を迎えようとしていた。





 鉄球を振り下ろした牛獣人の攻撃を素早い動きで交わし、戦舞――流水翔りゅうすいしょうによる水撃を放つも、ミノタウロスの鍛え抜かれた肉体へ傷ひとつつける事は出来ない。当然、甘味妖霧スウィートミストによる眠り攻撃も効かなかった。


「戦舞――間欠泉かんけつせん!」


 ミノタウロスの地面から水流が巻き起こり、巨体を上空へ舞い上がらせ、地面へ叩きつける!


「よし、やった!」

「ユズ君、危ない!」

 

 倒れた筈のミノタウロスは上半身だけを起こし、鉄球をユズキへ向かって放っていた。扇で受け止めるが、内臓に重く殴られたような衝撃を受ける。


「くっ、仕方ないか……レミリア……あれを・・・やるよ!」

「嗚呼……やっとその気になったのね、ユズ君!」


 ユズキが一瞬、目を閉じカッと見開く! 次の瞬間……。


「嗚呼あああ……ユズ君の力がぁーー私の中に入って来てーーはぁ凄いーー!」


 レミリアの身体がビクンビクンと痙攣する。恍惚な表情で瞳にハートマークを宿した夢妖精が、虚ろな表情でユズキへ近づき、彼の顔を自身の双丘へと埋めていく……。契約者パートナーの甘美な香りと淫靡な妖気オーラに思わずユズキ自身も虚ろな表情となってしまう。そう、この時ユズキは、〝寵愛〟スキルを強制発動・・・・したのだ。


「はぁ……ユズ君……ユズ君の愛を感じるのぉーー」

「……レミリア……早く……僕も朦朧としちゃう……」


 突然目の前で抱擁・・を始める人間と妖精に、おかしくなったのかと首を傾げる牛獣人。身体を起こし、鉄球を振り回し、二名ふたりを仕留めようと近づくが……。


「ユズ君行くよっ! 支援透過サポートトレース接続リンク!――我があるじへ愛の力を! 寵愛の恩寵ラブグレイス!」


 桃色の光が二名ふたりを包み、鉄球を放たんと迫る牛獣人の肉体を弾き飛ばしてしまう! 蒼い髪を靡かせ、桃色の妖気を身に纏った青年は、笑みを浮かべつつゆっくりとミノタウロスへ近づいていく。


「グ、グモォオオオオオオオ!」


 岩をも砕く鉄球はユズキを覆う妖気オーラに弾かれる。


「それで終わりかい?」

「グモォオオオオオオ」


 鋭い角を突き出し、突進する牛獣人。が、猛烈な勢いで突撃する巨体をユズキは扇で受け止めてしまう。


「戦舞――水扇撃翔すいおうげきしょう!」


 先ほどまでの水撃を何倍も凝縮したかのような鋭く重い一撃! 扇から水飛沫があがり、返す度に牛獣人の分厚い肉体がいとも簡単に斬り刻まれていく。最後の一撃を放った瞬間、魔獣と化した巨体は宙を舞い、地面へと叩きつけられた!


「よし、決まった! エクセレント!」

「ユズくぅーーん、さすがねぇーー素敵よぉーー」


 敵を仕留めた瞬間ユズキへ向かってダイブするレミリア。むりゅんと弾力のある果実がご主人マスターの顔を受け止める。しばらくこのハートマーク状態は続きそうだ。特殊技オリジナルスキル〝寵愛〟を強制発動・・・・すると後が大変らしい。


「待ってーー埋もれるーー息が出来ないからぁ……」


 こうしてCランク魔獣を見事撃破したユズキは、再び豊かなメロンへと埋もれていくのであった――――

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