第4愛 そんな特別依頼で大丈夫か?

 此処、妖精界フェアリーアースの中でも広大な土地を持つ夢の国ドリームプレミア。そんな夢の国の首都、夢の都ドリームタウンは不思議な街だ。今日もメイン通りには、屋台からの美味しそうな香りが立ち込め、賑わいをみせている。


『はーい、僕だよ! このとろっふわっなプリン……ほらね、んーー! 口の中で蕩けちゃうんだぁー。妖精界一の美味しさ! 夢見るプリン――好評発売中!』


 不思議さを象徴するかのように、夢の都上空を泳ぐようにして浮遊・・する巨大モニタには、映像が流れていた。それはまるで、人間の世界――人間界のTVCMを彷彿とさせるものだった。


「レミリア、あのプリン美味しそうだよー! 今度買いに行こう!」

「待って……ユズ君……ごめん、今それどころじゃないからぁ……」


 浮遊する巨大モニタを見上げつつ、夢の都メイン通りを歩くご主人様マスター契約者パートナー。普段と様子が違う点……それはたわわに実ったメロンをぽよんぽよんと揺らし歩く夢妖精ドリームフェアリーが、頭を抱えているという事だ。


 (はい、ただの二日酔いですね、わかります)


 ユズキに凭れかかった状態のレミリア。やがて、メイン通りからサウス通りへと移り、石畳の道を下っていくと、レンガ調の特徴ある大きな建物が見えて来る。夢都ドリームタウン冒険者協会だ。


「ありがとうユズキ、少し落ち着いた」


 ユズキが持参していた水をレミリアへ渡し、少し落ち着く夢妖精。二名は建物の中へと入っていく。冒険者として生計を立てるには、こうして依頼クエストを受け、報酬を貰う事が日課となるのである。





 冒険者協会へ入ると、何やら騒がしい様子だった。ランク毎の依頼が張り出されている掲示板の前に人だかりが出来ていたのだ。と言っても妖精人ピクサノイドや獣人族、エルフやドワーフと言った様々な種族の者が集まっているのだが……。


「なんだか騒がしいね……」

「何かあったのかしら……?」


 掲示板に集まる人だかりを横目で見つつ、受付へと視線を移すと、受付嬢のショコラがユズキとレミリアに気づいて手招きをする。


「ユズキさん! レミリアお姉さん! ちょうどいいところへ来ました! 今朝、ランクフリーの特別依頼エキストラクエストが張り出されたんですよ」

「特別依頼だって!?」

「あ、ユズ君は冒険者歴まだ半年・・だから初めてだっけ?」


 ユズキの疑問符に気づいてレミリアが反応する。


「えへん、じゃあ冒険者歴が浅いユズキさんに私からご説明しますね! ユズキさんは現在冒険者ランクDランク、レミリアさんがCランク、で、間違いなかったですよね?」

「うん、そうだね。僕は先月EランクからDランクへ昇格したばっかりだよ」

「私ももっと強くなりたいんだけどねぇ……」


 まだまだ冒険者として二名ふたりは駆け出しらしい。ショコラが解説を続ける。


「冒険者ランクはご存じの通り、強さによって以下の通りになります。


 ★Sランク 災厄級の魔王やドラゴンを倒せる強さ。英雄、勇者など、歴史に名を刻むレベル。

 ★Aランク 一流の特殊技オリジナルスキルや高位魔法を駆使出来る冒険者。上位職ハイクラスジョブにつく者も多い。

 ★Bランク 小隊の隊長クラス。戦闘訓練を積んだ一流の者なら昇格可能。中位魔法や特殊技を身につけている者が多い。

 ★Cランク 集団で倒せる敵を一名で倒せるレベルの能力アビリティ、魔法が扱える冒険者。

 ★Dランク 戦闘に慣れた冒険者。一般的な能力、魔法を駆使して魔物の集団を倒せるレベル。

 ★Eランク 見習い冒険者。


尚、

能力アビリティの強さは個々の妖気力フェアリーエナジー、魔法の強さは魔力まりょく量に比例する。

こんな感じですね」



「で、ランクによって受けられる依頼に制限がある事までは知っているよ?」


 ショコラの説明に大してユズキが知っている事を告げる。


「ですです。何せEランク冒険者が、Aランクモンスターのドラゴンなんかに挑んでも全滅しますからね。冒険者が無茶をしないよう、冒険者協会で依頼をランク毎に振り分けている……という訳です!」


 冒険者ランクと一緒で、魔物モンスターや妖魔にも強さによってランクが存在する。依頼を振り分ける事で、無駄死にする者が減るように、ギルドも管理体制を強化しているのだろう。


「さて、本題の特別依頼ですが、どのランクの者が受けてもよい特別な依頼……という事になります」


 (ん? なんかそのままのような気がするんだけど……?)


「ユズ君、これはね、チャンスなの。特別依頼は、緊急を要している依頼が多くて、豪華な報酬が貰えたり、場合によっては通常よりも早くランク昇格試験を受ける事が出来るのよ?」


 ランク昇格試験という言葉にピクリとユズキが反応した。


 (ランクがあがるなら……それは僕の目的・・を達成する近道になるかもしれない)


「ショコラさん、その特別依頼……どんな依頼なんですか?」


 ユズキの言葉に、ショコラが満面の笑みを浮かべた。


「ユズキさんなら、そう言うと思ってました!」






「『プレミア平原産の皇帝牛馬ジェネラルミノホースの肉五頭分を持ち帰る事』だって!?」


 一見、簡単そうな依頼に拍子抜けするユズキ。そう言いつつ気づく。掲示板の前で佇む冒険者達の中に、依頼を受けようと手をあげている者が一名ひとりも居ないのだ。


「ユズ君はプレミア平原へ向かうという事がどれだけ危険か知らないのね?」

「どういう事?」


 駆け出し冒険者のユズキにとって、まだまだこの妖精界フェアリーアースは広く、知らない事ばかりだった。


「プレミア平原へ向かうには、まず夢の都を出て馬車で一日かけ、西へ向かいます。ネム宿場町から北へ向かい、触れると猛毒に冒されるネイト湿地を抜けなければなりません。さらにはCランクレベルの魔獣や魔物が闊歩しているイカロスの丘を抜けた先、妖獣が住む場所に平原は存在するのです」


 ショコラが丁寧に解説してくれたが、ややこしそうだったので途中からユズキは聞いていなかった。


「まぁ、僕の特殊技オリジナルスキルとレミリアの能力アビリティがあれば、なんとかなるでしょう」

「ええ、いざという時は、私がユズ君を守ってあ・げ・る」


 レミリアがユズキに身体を寄せてアピールをしている。


「一体、その自信はどこから来るんですか……あ、単にユズキさんは楽観的なだけですかね? いいですよ、このまま希望者が居なければ登録しますので、この用紙に必要事項を……」





「ヒャッハーー! 来た来た来たーー! この依頼、私達のためにあるようなものねーー!」

「のほーー、皇帝牛馬ジェネラルミノホースのお肉ぅううう! 堪らないのーー!」

「別に……うちはどちらでもいい」


 掲示板前に集まっていた冒険者の中から、手をあげている者がおり、思わずユズキとレミリアがその子達へ目を向ける。ショコラが冒険者名簿を手に取り、手をあげた冒険者パーティーをチェックし始める。


「えっと……確かあの方達は……光属性の猫妖精――進撃のマリン、闇属性のエルフ――メロンのノゾミ、水属性の格闘妖精――水戟のツカサ……パーティ名――にくテロパーティ? ……え!?」


 情報を読んでいたショコラの動きが止まる。


「ん? ショコラさん?」

「どうしたの? ショコラ?」


「あの方達……冒険者ランク、Aランク・・・・です!」


「Aランクだって!?」


 謎の〝にくテロパーティ〟はユズキとレミリアの様子を見つめ、ニヤリと笑みを浮かべるのであった―――― 

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