第2愛 寵愛スキルは突然に

「はい、確かに! じゃあこれ依頼料の金貨1枚、銀貨5枚です。お受け取りください!」


 夢の都ドリームタウンで悪さをしていた賊を引き渡し、無事に受付の狐耳をした妖狐ようこの娘より依頼クエストの達成報酬を受け取るユズキとレミリア。狐耳の受付嬢がそのお金を仕舞う様子をじーーっと見つめている。


「あの……ショコラさん?」

「いやぁーいつ見てもユズキさんは可愛いなぁーって」


 うっとりした表情でショコラと呼ばれた受付嬢がユズキを見つめるため、レミリアがさっと間に入る。


「ショコラちゃんだめよ、ユズ君は私のご主人様マスターなんだからっ!」

「レミリアお姉さん分かってますよぉー。だからこうして視姦かんさつしてるんじゃないですかぁー」


 何か違う文字に変換されているような気がしたが、ユズキは気にしない振りをする。


「はぁ……今は寵愛・・スキル発動してないハズなんだけど……」

「そんな特殊技オリジナルスキルがなくったって……私はユズ君の虜よ」


 そのままそっと双丘が彼の顔を包み込む。むにゅんとした柔らかな感触に思わず全身の力が抜けるユズキ。たまたま冒険者協会を訪れていた周囲の冒険者達から『おぉー』と歓声があがる。


「おぉー、ヤベーなあの姉ちゃん」

「埋もれてる子も可愛いよなぁ」

「女の子同士……眼福であります」

「ヒャッハー、美しいのぅー」

「のほーー、メロン最高」

「別に……うちは興味ないわよ」


 (うーん、取り巻きが完全に僕の事を女の子と勘違いしている気がするんだけど……)


「レミリア……人前だから……ね?」

「もう、ご主人様マスターは恥ずかしがり屋なんだから」


 そっと果実から解放されるユズキ。羞恥により赤くなり下を向いてしまう。瞳をキラキラさせたまま、二名ふたりの様子を視姦かんさつしていた受付嬢のショコラが、次の話題を振る。


「あ、そういえば、私の服どうでした? ユズキさんお似合いだったでしょう?」

「ショコラちゃん、あれナイスチョイスよ! あの赤いワンピースを来たユズちゃん・・・に、大男もイチコロだったわよ?」


 どうやらユズキが公園で身に着けていたあの衣装はショコラの服だったらしい。道具袋から可愛らしい服を取り出すユズキ。


「僕は着たくなかったのに二名ふたりが薦めるから……。これ、依頼クエストのためだったから仕方なく着たんだよ? あ、服は洗って返すね!」

「洗わなくていいです!」


 カウンターから身を乗り出して迫るショコラ。


「え? でも汚れてるし……」

「洗わなくていいですから!」


 そう言うと半ば強引にユズキの手からフリルの入った赤いワンピースを取り上げる受付嬢ショコラ


「まぁ、ユズキ、彼女がそう言ってるんだからいいでしょ?」

「……うーん……わかった……そこまで言うなら……」


 (レミリアお姉さん、ナイスアシストです!)

 (〝ゆずの香り〟を嗜みたい気持ち、私もわかるから大丈夫よ!)


 なぜかレミリアとショコラがアイコンタクトを取っていたのだが、ユズキは気づいていないのであった。






 その夜、無事に依頼料が手に入ったユズキとレミリアは、夢の都でも人気の宿屋――〝ゴルの宿屋〟で打ち上げをしていた。メイド服を着た猫耳のお姉さんと、耳の長いエルフのお姉さんが気忙きぜわしくホールを駆け回っている。


「ふわぁー、やっぱりここの牛馬ミノホースのステーキは美味しいね」

「肉を頬張るユズ君の顔も美味しいね」


 牛馬ミノホースという、牛と馬をひとつにしたような妖獣・・の、引き締まった肉のステーキをひと口大に切って食べるユズキ。肉汁が口の中で溢れ、肉の旨味が広がる。若干一名味わっているものが違う気がするが、そこは気にしないでおこう。


 人気の宿屋だけあって、食堂は妖精人や冒険者達で賑わっていた。尚、一般客用の部屋で、一泊二食付で銀貨5枚、特別客用の部屋で金貨1枚=銀貨10枚。冒険者Bランク以上の者のみが宿泊出来るVIP部屋なるものも存在するらしい。


「ご主人も女将さんも優しいし、料理長はまぁアレ・・だけど料理の腕は間違いないし、最高だね」

「ユズ君というメインディッシュを味わうには最高の場所よね」


 見た目は子供だが、ユズキは大人。この世界でお酒を飲んでいい年齢を超えている彼である。ほろ酔い気分で甘い香りがする蒸留酒ブランデーと果実酒を嗜む主人マスター契約者パートナー


「仕事の後のお酒は最高だよね」

「はぁ、私……気持ちよくなって来たわぁー」


 お酒も入ってか気持ち良さそうに食事を愉しむ二名ふたり。そこへやって来る巨漢の豚頭。オークだ。相当酔っているらしい。銀の容器に並々と注いだ麦酒を飲み、臭い息を撒き散らしている。


「お? お嬢ちゃん、未成年がお酒飲んじゃあいけないなぁ?」


 どうやらユズキを女子おなごと勘違いしているらしい。勘違いされる事は日常茶飯事・・・・・なため、ユズキは動じない。


「……残念、僕は未成年じゃないよ?」

「ご主人様へそんな汚い息を吐きかけないでもらえるかしら?」


 下衆を見るような目つきで睨みつけるレミリア。


「おいおい、こっちのお嬢ちゃんは威勢がいいねぇー。お、それによく見ると、そこの可愛い嬢ちゃんと違って、いい果実を持ってるじゃねーか? どれ、おいらが味見を……」


 レミリアの果実へ伸びたオークの手が横から止められる。ユズキがオークの腕を押さえつけたのだ。空色の瞳が冷たくオークを捉え、突然起きた寒気にオークが身震いする。


「おい、それ以上はやめろ!」


 騒ぎに気づいた周囲の女性陣がなぜか黄色い声をあげている。


「お嬢ちゃん、そんな華奢な腕でおいらをどうするつもり……」

「――水爆柱アクアポール!」


 詠唱破棄・・・・で発動される水属性魔法・・。刹那、地面より水柱が出現し、天井まで舞い上がるオーク。天井に頭をぶつけたオークは脳天から星を回転させつつそのまま地面へと叩きつけられた。


「きゃーー、可愛いのにかっこいいーー」

「素敵ーー」

「私を抱いてーー」


 一撃で下衆を成敗する瞬間を目の当たりにして黄色い声が歓声となる。 


「ご主人様……私のために……嗚呼……私……濡れて来ちゃ……」

「レミリアさん……毎回発情しないでもらえ……しまっ」

 

 そう言ってユズキは気づいてしまう。周囲に居た妖精達の瞳がハートマークになっている事に……。


 (やばい……怒りに任せたあの瞬間か……)


 そう彼は持っているのだ。本人が予期せずして発動してしまう、〝寵愛〟という特殊技オリジナルスキルを――――

 

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