第15話 決意
確かに……
この二人は知ってる。
「久しぶり」
「おう。五日も寝てたが本当に大丈夫なのか?」
「お久しぶりです、北中先輩。滝本先生もご心配をおかけしました」
二人は俺の近くまで来て、そう声をかけてきた。
この二人を知らない訳がない。
何せ一緒に森を探索した仲だ。
「一応知ってると思うけど紹介しておくと、こちらは回復職の北中 霞先輩。そしてこちらは前衛職の滝本 寿一先生。そしてこちらがうちのリーダー、朝倉 悠椰」
うん?
俺の聞き間違いか?
今コイツ俺の事をリーダーとして紹介しなかったか?
俺はそんなのになった覚えはない!!
「ちょっと……」
「では本題の俺達のこれからについて話しをしましょう」
好川は俺の言葉を遮るようにそう言ってきた。
今のは絶対にわざとだ。
クソ……
好川にも何か考えがあっての事だろうが、それでも事前に一言欲しかった。
その真意に関しては後で問いただしてやる。
「その前にいいか?」
「どうぞ滝本先生」
「朝倉に力があるのはわかっている。だがアイツ等二人の戦いを間近で見て尚且つ朝倉の戦いも見たことがある俺からすると、どうしても見劣りしてしまっている。つまりはお前が話した案の根底が、俺の中で揺らいでいる」
好川が話した案……
今の話から推察するに、俺にしてきた提案と同じものだろう。
ただ、いつその話をどこまでしたのかはわからない。
俺には大光寺と龍美の職業に関して話してくれたが、果たしてそこまで話しているかどうか……
ここは変に口を出して好川に迷惑をかけない方が良いだろう。
それに滝本先生の言っている事もわからなくはない。
二人がどれ程の活躍をしたかはわからないが、恐らく今の俺よりは強いのは確かだろう。
仮にステータスが低下していなくても太刀打ち出来ないだろう。
何故なら手数に差があり過ぎるからだ。
大光寺のスキルに関してはわからないが、龍美は精神攻撃スキルに[身体強化]とは違う何らかの強化系スキル、更には気配感知系のスキルまで持っている。
それに比べて俺は戦いに使えそうなものが[身体強化]と[魔力操作]しかない。
仮にこのまま戦う事になったとすれば、手数で押されて何もできずに負けてしまうだろう。
だから二人の方が強いのだ。
今は……
「……一週間。一週間で悠椰はあの二人に並ぶ強さを手に入れます。そうすれば滝本先生も納得してくれるでしょ?」
「確かにその短期間であそこまでの強さに至れるなら賭けてやってもいい。だが無理だった場合、俺は他の先生方と同じように大光寺につくぞ? それでもいいか?」
「構いません」
好川は覚悟を決めたかのような表情でそう宣言した。
って聞き流しそうになったが、今俺が一週間であの二人の強さに並べるみたいなこと言ってなかったか?
しかもそこまで強くなれなかったら滝本先生は大光寺につくって事でまとまったような気がするんだが……俺の意見は?
強くなるのは俺なのに、俺の意見は聞かずに進めるってどういうことだよ?
まずもって可能かどうかの意見を聞いてから進めるような話だろう?
けど聞かれたとしても大光寺や龍美の正確な強さがわからないから、一週間で並べるかどうかは断言できない。
それなのに何も聞かずに断言して……好川には何か勝算があるのか?
「北中先輩は大丈夫ですか?」
「私は先に君に声をかけられたから君達につく、ただそれだけ」
好川の言葉に、北中先輩はそう返す。
先輩は律儀に声をかけられた順番でつく方を決めたと……
なんと言うか先輩らしいと言えば先輩らしい。
「それじゃ全員の意見がまとまった所で、俺達チーム朝倉の今後についての話を進めます」
好川はわざとらしく俺の方をチラッと見て、そう言ってきた。
コイツわざとだ。
絶対にわざとやってやがる。
「俺達チーム朝倉の最終目標は、この学園内での一番の発言力を得る事。その為の一歩として、まずは個々の強化を図る。最終目標以前に他のグループに淘汰もしくは飲み込まれては話にならないので、そうならないように強くなる必要があると思うのですが……どうですか、悠椰?」
ここで俺に振るのかよ!!
後で覚えとけよ!
無限にじゃんけんに付き合わせてやる。
「自分もそれが良いと思います。仮に誰かと戦う事になったとしても、相手より数段強ければ相手に深手を負わす事無く対処できるでしょうから」
「との事なので、俺達は強さを求めます。言葉だけで全てが解決するほどこの世界は甘くないので」
「力で従わせるとかでないのなら、俺はそれで構わない」
「私は何でも構わない」
「では当分はその方向で行きますが、日が落ちたらここに集まってください。そしてここで組手のようなものをして全員の強さを確認しながら、同時にレベルアップを図ります」
組手という事はここで戦うという事か?
それは俺としても非常にありがたい。
何せ対人戦の経験を積める上に、[アイテムドロップ]のポイントも貯める事が出来るんだ。
一石二鳥としか言いようがない。
「では今回の話し合いについてはここまでにしましょう。一応言っておきますが、今回話した内容等は他言無用でお願いします」
「……これだけでいいのか?」
「はい。正直今回は話し合いと言うより、顔合わせと言う側面の方が強かったですから」
「わかった。それじゃ俺は行くぞ。一応朝倉の様子を見てくると言って先生方の集まりを抜けてきたからな。戻れるなら早く戻った方が疑われずに済む。それと朝倉、好川に乗せられてあまり無茶はするな」
「ご心配下さりありがとうございます」
「滝本先生、一応釘を刺すようですがもし大光寺側につくとしてもこの事は……」
「わかってる。誰にも言やぁしない」
滝本先生は好川の言葉にそう答えながら、柔道場を出て行った。
にしてもこの程度で話が終わるとは……何と言うか好川らしくない気がする。
態々面子を集めたんだ。
好川ならもう少し先の事まで話を進めるような気がしていた。
だが結果として話されたのは今どう動くかだけだ。
しかも話した内容は当たり障りないようなもの……
何かあるんじゃないかと勘ぐってしまう。
「それじゃ私も行く」
「北中先輩もご心配をおかけしました」
「特に心配はしてなかった。君が目を覚ますのはわかっていたから。それじゃぁ」
北中先輩はそう言って柔道場を後にした。
北中先輩って感じの返答だったな。
さて。
これでこの場には俺達二人だけになった訳だ……
俺はそう思いながら好川に視線をやる。
「言いたいことは色々あるだろうが、まずは勝手に決めてすまなかった」
好川は俺の視線に気づいた直後、そう言って俺に向かって頭を下げてきた。
「本当に自分がたった一週間で二人に追いつけると考えてますか?」
「それに関しては正直五分だと考えている。一応代替案は考えてはあるが、正直そちらが使われる事がない事を祈るよ」
半分はいけると思ってくれているって事か。
一応代替案を用意している辺り用意周到だな。
でもそれを聞いても教えてくれなさそうだ。
その時がきたらとかなんとか言ってはぐらかされるのが目に見えている。
なら別の事を聞く方が有意義だろう。
「仲間に引き入れたのがあの二人だった理由は何ですか?」
「それは至って単純。北中先輩は貴重な回復能力を有している。それだけで仲間に引き入れるのには十分な理由だ。滝本先生の職業は、魔法剣士。魔法を使いながら前線で戦う強力な前衛職だ。他に取られる前に唾をつけておくのは当然だろう? まぁ滝本先生は先の戦いを見て、かなり大光寺寄りになったみたいだけど」
「それが話を途中で止めた理由ですか?」
「そう。気持ちが揺らぎ始めてるなら今後の情報を開示するのはリスクしかないからな。こちらにつくという覚悟を決めてくれたその時に、色々話すつもりでは居る。だから結局は、悠椰次第って事になるかな」
やはり元々はもう少し先の話をするつもりでは居たって事か。
それがいざ呼んでみたら滝本先生の気持ちが大光寺寄りになっているのを見て、即座に話を怪しまれないようにきったと。
とは言え好川が事前にそれを把握していなかったとは考えずらい。
となると滝本先生が話していた、教職員達の集まりで揺らぐような話し合いがされた可能性が高いんじゃないか?
それなら好川も把握していないのに説明がつく。
これは多少好川を過大評価しているかもしれないが、十分それらしい発言をこれまでにしてたからな。
「その為に悠椰がこの一週間自由に行動できるように話はつけておく。だから出来るだけ頑張ってくれ」
「わかりました」
「後、仲間内にだけ悠椰の[アイテムドロップ]について話しをするかもしれない。勿論詳細はぼかすが、俺達には元の世界の物を手に入れる手段が存在する事を示唆しておいた方が、今後変に勘ぐられなくて済むだろうからな」
「言いふらさないのであれば構いません」
好川が言いたいのは、俺が交換したアイテムを仲間に配るのに必要だという事だろう。
先に俺達には詳細は話せないが、苦労すれば元の世界の物を手に入れる事が出来るとでも言っておけば、怪しまれる心配もないだろう。
勿論その方法について探られる心配はあるが、探られたところで答えにたどりつくのはほぼ不可能だろう。
何せ戦いに勝利する事によってポイントが得られ、尚且つそのポイントで交換している何て思いもしないだろうからな。
しかしここから一週間は相当忙しくなりそうだ。
俺が自由に動けるように好川が調整してくれるという事は、強くなる環境は整えるから後は俺次第だと言われているようなものだ。
そんな好川の期待を裏切る訳にはいかない。
本気で頑張り、たった一週間で勇者と英雄に追いつくんだ!!
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