第14話 五日間の顛末
好川は俺の渡した先読みの劣化スキルスクロールを見ながら、難しい顔を浮かべる。
結局俺はポイントではなくスクロールの方を報酬として選んだ。
そして突如として俺の手元に現れたスクロールについて説明しない訳にもいかず、[アイテムドロップ]についてかいつまんで好川に説明した。
今後の事を考えればここで好川に説明したのは正解だと思っている。
何せ貯めたポイントで交換したアイテムを隠さず、好川にも与える事が出来るからだ。
それに好川に話したことでポイントを貯めるのを手伝ってくれるなら、より効率よく貯める事が出来るだろうからな。
「これは悠椰が使うべきだ」
好川はそう言いながら、スクロールを俺に向かって軽く投げてきた。
俺はそれをすかさずキャッチする。
「悠椰が話してくれた以上俺も少し話すが、俺の眼はアイテムに関しても多少目利きが出来る。それで見た結果わかった事だが、それは非常に低確率ではあるがスキル[先読み]を手に入れる事が出来るらしい。使い方は中身を見るだけでいいみたいだ。そして成否にかかわらず、一度中身を見ればそのスクロールは消失するらしい」
おい……
今さらっと凄い事言わなかったか?
ステータスだけじゃなく、アイテムに関しても見る事が出来る?
つまりそれは一つの能力でそこまでの事が出来るという事だろう?
それがスキルなのか、はたまた職業によるところなのかはわからないが、それでも優秀なのは間違いない。
それに俺の[アイテムドロップ]との相性も凄まじく良い。
何せ俺はアイテムを報酬として獲得する事は出来るが、そのアイテムに関して詳細を知る術を持っていないのだ。
だからどれだけ良いアイテムを獲得できても宝の持ち腐れになるところだった。
その問題を好川は解決してくれる。
だが欲を言えばその眼とやらを俺が手に入れるのが一番いいのだが、恐らくそれは当分無理だ。
前に好川がステータスに関して話してくれた時の事から考えると、恐らく好川の職業は勇者や英雄と同等か、それに準ずるレベルの物だろう。
なら最低でも上位、もしかしたら特殊職業の可能性だってある。
そのレベルの職業に変更するには、どう頑張ってもポイントが足りないからな。
いずれは手に入れたいが、今は無理なのだ。
なので今は目の前のこのスキルスクロールを試す事にしよう。
使い方はわからなかったが、今好川が教えてくれたからな。
にしても一度しか使えず、成否にかかわらず消失するって……どこのスパイ映画だよ。
俺はそう思いながらスキルスクロールを広げる。
すると中には何も書かれておらず、真っ白の白紙だった。
これは、失敗か?
「うぉ!」
俺がそう思った直後手に持っていたスキルスクロールが一瞬で燃え、灰となって消えた。
俺はあまりに唐突な出来事にそんな驚きの声を上げてしまう。
驚きはしたが、別に熱くは無かったな……
それに火傷もしていない……
一体どうなってるんだ?
「どうやら失敗だったみたいだな」
「何故わかるんですか?」
「スキルスクロールってのは燃えれば失敗で、光の粒子となって消えれば成功らしい。流石に原理まではわからないから聞かないでくれ」
つまり燃えたという事は失敗と……
うん?
ちょっと待て。
燃える可能性があるのをわかっていながら俺にやらせたという事か?
おい! 火傷してたらどうしたんだ!!
俺は内心でそう叫びながら好川の事を見つめる。
「うん? あぁ! 勿論火傷しないのは知ってて悠椰が使うべきだと言ったんだ。手に入れたのは悠椰だったわけだから、使う権利は悠椰にあるべきだろう?」
「確かにそうですが、事前に一言あってもよかったのでは?」
「……すまん。別の事を考えていて忘れてた」
忘れてたって……
今まであれだけ色々気がついていたのに、急にどうしたんだ?
いや、もしかしたら[アイテムドロップ]のせいなのか?
このスキルのあまりの有用性に扱いに困っている。
そう言う事なのか?
俺自身がそうだから、もしそうならあまりとやかくは言えないな。
それにスキルスクロールが燃えて失敗したからといって、あまり深くは気にしていない。
確かに[先読み]と言うスキルはかなり使えそうで欲しくはあったが、所詮はじゃんけんで手に入れたものだ。
もとより手に入るとは考えていなかった。
手に入ればラッキー程度の考えで実行したからな。
「なぁ、悠椰。確かそのスキルのポイントを貯める事で、元の世界の物と交換できるかもしれないと言ってたよな?」
「? はい」
「……それは、日用品や衣服や下着等の生活必需品も交換可能なのか?」
「それはわからないんです。ポイントが貯まらないと、何が交換できるか確認できないようになっているので」
「そうか……」
好川はそう言うと、また何やら難しい顔で何かを考え始めた。
とは言え、そうか。
俺達は普通に学校に登校して、そのままこの場所に召喚? されたことになるんだ。
日用品や、ましてや替えの服や下着なんて持ってきているはずがない。
それにあれだけ便利だった世界に慣れた人間が、この不便な状況で不満が無いはずがないのだ。
それは逆に安全になればなるほど浮き彫りになってくる訳で……
これは思った以上にこのスキルは重宝されるかもしれない。
「とりあえず悠椰には急いでそのポイントを貯めてもらって、どういった物が交換できるのか確認して欲しい。勿論俺に協力できる事は協力するつもりだ。それと、この事は俺達二人だけの秘密にしておくべきだ。絶対に誰にも話さない方が良い。理由は言わなくてもわかるだろう?」
俺は好川の言葉に頷き、理解した意思を伝える。
先程考えた通り、このスキルは今の状況に置いて優秀過ぎるのだ。
この事が知られればどんな人間が寄ってくるかわからない。
それにこれはポイントを貯めないと交換する事が出来ないという性質上、全ての人間の要求に答えるのは不可能なのだ。
そうなれば不公平だと騒がれるのは目に見えている。
仮に知られるとしても、ある程度どうするかのルールを決めておかないと取り返しのつかない事になりかねないのだ。
「さて、そうと決まれば……と言いたいところだが、実はそうもいかない。悠椰。残念なお知らせと最悪なお知らせがあるんだが、どちらから聞きたい?」
好川はわざとらしくテンションを上げながらそう言ってきた。
なんだよその無意味な二択。
結局は良い知らせは存在せず、悪い事だけは起こってるって言ってるようなもんだろ?
「……それでは、残念なお知らせからお願いします」
「悠椰は面倒な事は後に片づけるタイプか。わからなくもない。だが面倒な事は先に片づけた方がいい。後回しにすればそれだけ面倒な気持ちを長引かせることになるからな。それに先に楽な方を片付けてしまうと、折角終わらせたのに面倒なのが残っていると嫌な気持ちになるだろ? だが逆だった場合……」
「そう言うのは良いので、早く要点を話してください?」
「……すまん」
俺の言葉に、好川はそう言っていつもの雰囲気に戻った。
なんと言うか、先程まではわざとテンションを上げて空元気と言う感じだった。
この五日間に、余程の事があったのだろう。
これは聞くこっちもある程度の覚悟が必要かもしれない。
「要望通り残念な知らせだが……結論から言えば、ゾンビと幽霊が出た」
「……はい?」
「言葉の通り死体がひとりでに動き襲ってくるゾンビと、壁をすり抜けたりする半透明の幽霊。そいつらが出た」
「……冗談ではなく、ですか?」
「あぁ、これが冗談だったらどれだけ良かった事か」
好川はため息まじりに心底うんざりした雰囲気でそう言った。
事実……なのだろうな。
こんな状況に陥って尚いえる事ではないが、到底信じられない。
「とは言え、原因はわかっている。俺達全員が倒していたゴブリンだ。因みに俺達が倒してたあの生き物な。一応ゴブリンと呼称する事になったって事もついでに言っておく」
「……あの生き物をゴブリンと呼称するのはわかりましたが、それでもそのゴブリンとゾンビや幽霊がどう関係するんですか?」
「実はあのゴブリンの死体、五日間放置するとゾンビとして動き出し再び襲ってくるんだ」
「はい!?」
「しかも奴等ゾンビになると強さが以前の倍以上になる上に痛みを感じず、腕が斬り落とされようが足が落とされようが、お構いなしで襲ってきやがる。奴等は頭、より正確には頭の中にある赤黒い石を砕かない限り倒す事が出来ない」
なんだよそれ!!
よくそんなの初見で対処できたな!
俺だったらどれだけ攻撃しても尚突っ込んでくる奴なんて相手にしてたら、パニックに陥っていたことだろう。
「そして倒したとしてもそいつ等は肉体を捨て、霊体となって再び蘇りやがる。霊体となったゴブリンに一般的な攻撃手段は無いが、代わりに俺達人間に取り付き肉体を奪おうとしてくる。これにはステータスの精神がある程度高ければ対抗し、逆に霊体のゴブリンを倒す事も可能だ。だが低い人間は肉体を奪われ、自身の肉体を制御できなくなる。こうなれば霊に関する職業の人間か、あるいは聖属性や光属性といった闇に対抗する力を持つ人間の助けが無ければ元には戻らない。だが負傷者は出たものの、死傷者が一人も出なかったのは幸いだと言えるだろう」
なんだよそれ……
俺が倒れている間にそんな事が起こっていたって事かよ……
にしても俺、意識を失っていたはずなのによく無事でいられたな。
しかもこれで残念な話……
最悪な話とは一体どんな内容なんだ。
「事の深刻さはわかってくれたみたいだな。それじゃぁ続けて最悪な知らせについて話をするが、これは正直残念な知らせの延長線上の話なんだ」
「延長線上……つまり先程の話の影響での出来事という事ですか?」
「理解が早くて非常に助かる。さっきも言ったけどそれ程の事が起こったにも関わらず、幸いにも、負傷者は出たが死傷者は誰一人としてでなかった。それは勇者と英雄……つまりは大光寺と龍美の力が大きい。二人はその職業に相応しい力を遺憾なく発揮し、皆の命を守り抜いた」
二人が活躍したって、二人はもうそんなに強くなっているのか。
俺が寝ている間にどれ程……
けれどこれが最悪な知らせ?
……そうか!
「そこまで活躍したという事は既に派閥が出来始めている、という事ですか?」
「残念ながらその通りだ。今回の事で、全員の中で死に対するイメージが具体的なモノになってしまった。それは生き残るために強者につくという生存本能をより強めてしまう結果となり、二人は凄まじい勢いで台頭してきた。そして今回の事で教師の指示に従う人間がかなり減ってしまったのもそれを更に加速させている。何せ教師監視のもとゴブリンを倒し、結果としてこの事態を招いてしまったのだ。勿論誰かに責任がある訳ではないが、皆誰かのせいにしたいんだ。自分は悪くないと逃げようとした結果、全ての責任を教師達に擦り付ける形に落ち着いてしまった」
なんとも悲しいものだ。
あれだけ俺達生徒の為に頑張ってくれていた教職員に全ての責任を擦り付け、自分達は悪くないで終わるとは……
「教師達も反論して生徒が責められる可能性を考慮し、この結果を甘んじて受け入れている節がある。早々に大光寺のサポートとして動き出しているのがいい例だろう。大光寺なら教師達の意見を聞き行動するだろうからな。支持が薄れているのを見て意見に反発されないよう、影から生徒を守るという形にシフトしたのだろう」
それでも俺達生徒を守ろうとしてくれるのはありがたいが、果たしてそれは教職員達の総意なのだろうか?
仮に総意だとするならば何の心配もないのだが……
違った場合、それは後々に大きなひずみとして襲ってきそうでかなり不安だ。
「で、ここからは俺達の行動についてだ。俺が最初に話した通り、このままいけば争いが起こり弱者が巻き込まれる。そうならないように俺達も急ぎ行動しなければならなくなった。そしてその為に必要な、仲間を集めなければならない」
「仲間、ですか? 因みに言っておきますと、自分には心当たりは一人も居ませんからね?」
「それはわかってた。だからこっちで二人に声はかけてある。悠椰が目を覚ましたら今後の事について話そう、と。だからこの後その二人と話してもらうが、構わないか?」
「それは構いませんが、二人って一体誰ですか?」
「悠椰も知ってる人だよ」
好川は笑いながらそう言うと、二人を呼んでくると言って柔道場を出て行った。
俺のよく知る二人?
一体誰だ?
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