第16話 最強への歩み

「ハァ……ハァ……」


 日が沈み始めた森の中を、俺は呼吸を整えながら校舎に向かって歩を進める。

 強くなるために行動しだしてから今日で五日目。

 既に五日前とは比べものにならない程成長してしまった。

 そんな俺のステータスはこんな感じだ。



名前 朝倉 悠椰

性別 男


職業 火魔法使い Lv 38/50

生命力 947/947

魔力  1062/1062

力   944

守   982

抗魔  1061

敏捷  941

器用  1025

精神  1060


▼スキル

 [火魔法][身体強化][魔力感知][魔力操作][アイテムドロップ]

 [職業変更クラスチェンジャー][早成][言語翻訳][戦士の心得][盗賊の心得]



 御覧の通り、[職業変更クラスチェンジャー]は想像以上にヤバい代物だった。

 いや、より正確には[職業変更クラスチェンジャー]と[早成]の相性が壊れているのだ。


 本来であればレベルを最大まで上げ職業を変更したとしても、引き継げるのはスキルのみでありステータスは初期値に戻されてしまう。

 そのはずだった。


 だが[早成]と言う、スキルによってステータスが上昇しそのステータスをスキル内に内包するスキルのせいで、レベルを上げ職業を変更する事で無限にステータスを上昇させてしまう仕組みが出来上がってしまったのだ。


 そしてその仕組みに気づいた俺は爆速でレベル上げを行っており、四日で二つの職業を最大まで上げる事に成功している。

 その職業とはステータスにある通り、戦士と盗賊である。


 この二つを先に選んだ理由は簡単だ。

 より実践的なスキルを獲得する為。

 それに尽きる。


 そしてその目的は十分に果たされている。

 [戦士の心得]と[盗賊の心得]。

 これはその二つの職業のレベルを最大まで上げた時に得られた報酬のようなものだ。


 初期職業であるチュートリアルと同じようにレベル制限があったことから、下位職業でも[アイテムドロップ]と同じようなスキルが貰えるのではないかと考え最大までレベルを上げたのだ。


 その結果得られたのがこの二つだった。

 因みにスキル説明はこんな感じだ。


[戦士の心得]

 戦士としての心得を授かる。

 スキル[剣術][槍術][盾術][体術]を使用可能。


[盗賊の心得]

 盗賊としての心得を授かる。

 スキル[短剣術][夜目][遠視][隠密][気配感知]を使用可能。


 正直心得を授かるというのはよくわかっておらず、[アイテムドロップ]程の有用性は感じていない。

 そしてその[アイテムドロップ]だが、例のゴブリンを倒す事によって100ポイントも獲得する事が出来るのだ。


 因みに獲得できるアイテムに関してはそれ程有用なものは無かった。

 しいて上げるなら武器ぐらいだろう。

 ただそれもゴブリンを倒せば手に入るので、今のところほぼポイントに変換している。


 そのお蔭もあり、現在[アイテムドロップ]のポイントは38,641ポイント貯まっている。

 勿論これはゴブリンだけを倒して貯めたポイントではない。


 組手と言う名の模擬戦やじゃんけん等、この五日間色々な手段を使って集めたポイントだ。

 だがこのスキル、実はかなり使い勝手が悪い事がわかってしまった。


 と言うのも、ポイントが無かったときは交換できるアイテムがありませんと出ていたのが、ポイントが貯まったら交換するアイテムを連想してくださいとなったのだ。

 つまりは自身の知っているものでなければ交換できないという事。


 ただそれに関して好川に相談したところある裏技のような事を教えてもらい、多少無駄にポイントは使うがある程度なんでも交換できるようにはなっている。

 まぁそんなこんなで俺は順調に強くなっている。


「…………たなんかね! ………………くせに!! 生意気なのよ!」


 校舎に向かって歩いている俺の耳に、そんな途切れ途切れの声が聞こえてきた。

 俺は聞こえた声音に嫌な予感を感じ、即座に[隠密]を発動して声の聞こえてきた方向へと向かった。


 声の発生源と思われる場所につくとそこには三人の女子生徒と、木に縛られている一人の女子生徒が居た。


「私は、そんなつもり……」

「うっさいわね!」


 三人の女子生徒の一人がそう言いながら、木に縛られている女子生徒を思い切りビンタした。


「アンタの意見何て誰も求めてないのよ!」

「口も塞いどく? うるさい上に、叫ばれて助けを呼ばれても面倒だし」

「そうね」


 リーダー格らしき女性がそう答えると、先程ビンタした女子生徒が予め用意していたかのようにガムテープをポケットから取り出した。

 えらく用意周到だな……


 俺はそう思いながら、目の前で起こっている出来事に鋭い視線を向ける。


「やめて! やめ……」

「うっさい! アンタ死にたいの?」


 木に縛られている女子生徒の言葉に、ガムテープを持っていない方の手のひらに火の玉を出現させ、そう脅す。

 木に縛られている女子生徒はそれを見て目に涙を浮かべながら左右に首を振り、嫌だという意思を示した。


「なら大人しく従いなさいよ」


 ガムテープを持っている女子生徒はそう言うと手のひらに出していた火の玉を消し、木に縛られている女子生徒の口をガムテープで塞いだ。


「さて、この後はどうする? 怜奈れな

「そうね。このまま私達が手を下してもいいのだけど……それじゃぁつまらないでしょう?」


 怜奈と呼ばれたリーダー格の女子生徒は、木に縛られている女子生徒の反応を楽しんでいるかのように笑みを浮かべながらそう言った。

 その行為があまりに我慢ならず、俺はわざと物音を鳴らす。


「誰!!」


 ガムテープを持っている女子生徒が物音に対して即座にそう反応するが、俺はその声を無視する。


「……まさか、ゴブリン!」

「フッ、良いこと思いついたわ。このまま置いて行って、ゴブリンに襲わせましょ」

「怜奈! それ名案!!」

「怜奈ちゃんがそれで良いなら私はそれで良いよ」

「そう言う事だから、じゃぁね。彩芳あやかの金魚のフンさん」

「んぅ!! んぅぅぅ!!!!」


 木に縛られている女子生徒はガムテープ越しに必死に叫ぶが、それをまるで嘲笑うかのように三人の女子生徒は早足で校舎へと向かって行った。

 俺は三人の女子生徒のが離れたのを確認してから、木に縛られている女子生徒に向かって近づく。


 まさかここまでする人間が居るとはな……

 ある程度安全が確保され始め、心にゆとりが出始めた事で不満のはけ口にされてしまったのだろう。

 勿論だからと言ってこんな事を許容できる心を持ち合わせてはいないがな。


「んんぅ……んんぅ……」

「大丈夫です、自分はゴブリンじゃありません」


 力強く目を瞑り、涙を流している女子生徒に向かって俺は出来るだけ優しくそう言った。

 その言葉でゆっくりと瞑っていた目を開けてくれた。


 だが彼女の表情は、どこか怯えているように見える。

 まぁ無理もないか……


「今からこの縄の拘束を解きます。良いですか?」


 俺の言葉に彼女は軽く頷く。

 俺はそれを確認してから縛られている縄を力尽くで引きちぎる。

 一瞬[火魔法]で燃やして切ろうかとも考えたが、縄自体が燃えれば彼女が火傷する危険性を考え、力任せに引きちぎってしまった。


 その光景を間近で見た彼女は更に怯えているような気がするが……気のせいだと信じたい。


「大丈夫ですか? 立てますか?」


 俺の言葉に、彼女は軽く頷いてからゆっくりとその場で立ち上がった。


「あ、あり……ありがとう、ございます」


 そして自身の口に貼られていたガムテープをはがし、俯きながら怯えるように小さな声でそう言った。

 流石にこのまま一人で校舎に帰すわけには行かない。


 それに帰してまた同じ事……いや、これよりも酷い事をされる可能性だってある。

 そんな可能性があるとわかっているのに無視する事は出来ない。


「構いませんよ。当たり前の事をしただけですから。それよりもこのまま帰るのは危険だと思うので仲間の居る場所に向かおうと思うのですが、構いませんか?」

「あ、えっ……はい」


 俺の言葉に彼女はオロオロしながら、更に深く俯きながらそう答える。


「後今貴方がされていた事を仲間達に説明しようと思うのですが……」

「それは!! やめて、くださると……」


 俺の言葉を遮るように彼女は大きな声を出したものの、徐々に弱弱しく小さいものへと変わっていった。

 あまりこの事は知られたくないと……


 恐らくだが話が広まった時の報復を恐れているんだ。

 となるとこれは昨日今日からの事ではなく、もっと以前から……

 いや、今は彼女の意見を優先しよう。


 俺が何か口を出してこじれれば、困るのは俺ではなく彼女だ。

 いらぬお節介程相手にとって困る事は無いからな。


「わかりました。ここであった事は誰にも話しません」

「す、すみません……」

「大丈夫ですよ。それより夜の森は危険ですから、行きましょうか?」

「あ、は、はい」


 俺はそう言いながら、仲間がいる柔道場に向かって歩を進める。

 多少強引ではあったが、このまま帰すよりはましだろう。

 それに夜の森が危険なのも事実。


 夜になれば昼間は居ない生き物が現れるのだ。

 しかもそいつらは昼間の生き物とは比べものにならない程強い。

 今の俺だけなら十分に対処は出来るが、彼女を守りながらとなると少し難しいかもしれない。


 それ程の相手が現れるのだ。

 とは言え今はそれよりも、好川達にどう説明するかを考えなければ。

 事実を話せないとなると、言い訳が必要だからな。

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