第6話 救世のA先生と現在地
「説明する前に一つ約束しろよ? 今から聞く事は決して他の奴に口外するな。わかったか」
「勿論です」
好川は滝本先生の言葉にそう答えながら頷く。
直後滝本先生が俺の方に視線を向けてきたので俺も好川と同じく軽く頷き、同意の意思を示す。
どうやら滝本先生は俺の存在を忘れてなかったみたいだな。
まぁ立ち位置的に嫌でも俺の事が視界に入るだろうからそのためだろうが。
「確かこいつ等がどうしてここに現れるとわかっていたかだったな?」
「はい」
「わかっていたというか、正確にはここに生徒の命を危険にさらす生き物が現れると言われたからだ」
「言われた? 誰にですか?」
「勿論誰かまでは言えない。相手の事を考えればな。だがそれだとお前達も怪しむだろうから、教員の誰かだという事は断言しておいてやる」
相手の事を考えて……
確かにその誰かがわかれば俺達はその人を怪しむだろうし、そう言った目で見るだろう。
それにもしかしたらそれが何らかのスキルの可能性だってある。
自分とは関係のないところで勝手に自分の能力を言い広められるのはいい気はしないだろうからな。
「誰か教えてもらいたいところではありますが、わかりました。いいですよ。先生の考えも理解できますから。ですがそうですね、その誰か……仮にA先生と呼称するとして、そのA先生が言ったからそれを鵜呑みにして態々行動したんですか?」
「正直俺や他の先生方は半信半疑だった。だがそのA先生があまりにもリアルで、状況を鮮明に語るものだから、先生方の間で念のため信じてみようという事になったんだ。仮に違った場合は違ったで済むが、そうだった場合取り返しのつかない事になるという事でな」
「なるほど」
そのA先生とは一体何者でどんな話をしたんだ?
ゴブリンが襲ってくるなんて荒唐無稽な話を信じさせる程の話の内容……
かなり気になる。
「ではそのA先生が語られた取り返しのつかない状況とは、どんなものだったんですか?」
「簡潔に言えば、このまま何もしなければ生徒の半数以上が命を落とすって感じだった」
「生徒の半数以上…………パニック……巻き込まれ……この生き物……不慣れ……」
滝本先生の言葉を聞いた好川は、何かを真剣に考えるように口元に手を当てながらそうつぶやく。
半数以上の生徒が命を落とす!?
それは流石に無視できる発言じゃない。
だが可能性としてあり得るのか?
いくら状況がわからないと言っても、生徒の中には即座にステータスを発見している奴だって居た。
現に俺の後ろの席だった奴がそうだ。
それなのに半数以上……
多少話が盛られている可能性を感じずにはいられない。
「……凄いですね、そのA先生。本当にそれを言ったのだとすれば、ですが」
「それは俺が保証してやる。だが絶対に他の先生に確認をとろうとするなよ? これは俺が嘘をついているからとかではなく、これ以上この事に関して話が広がらないようにする為の対策だ。俺が生徒に話したのならと、他の先生方が話してしまう可能性も否定できんからな」
滝本先生ってしっかり考えてる先生なんだな。
見た目が熱血系だからどうしても脳筋タイプに見えてしまう。
にしても好川の奴は先程の話に納得がいったみたいだな。
頭の中でどういう計算をしたら半数以上の生徒が命を落とす計算になるのか、是非とも教えて欲しいところだ。
「それについては大丈夫です。正直今の話が無ければ確認をとっていたかもしれませんが、事の重大さは多少理解できましたから」
「本当に頼むぞ」
「大丈夫ですって。因みになんですが、生徒達を体育館に集めると最初に言ったのもそのA先生ですか?」
「いや、それは教頭の案だ。A先生はまぁ何と言うか、意見を出せる状態じゃなかったからな」
何か含みのある言い方だな。
だが今までの会話から濁した内容はそれなりの理由があり、言及したところで教えてはくれないという事がわかっている。
それは好川もわかっているだろうから、あえて言及する事もないだろう。
それなのに俺がここで言及したところで話の腰を折るだけだ。
二人が互いに情報を出してくれている間、俺は聞き専に徹するべきだろう。
「非常に合理的なモノだったので気になったんですが、そうですか。教頭先生ですか」
「わかってるとは思うが、これも勿論口外するなよ」
「そんなに心配しなくても大丈夫ですって。あ、そう言えば俺達より先に丈裕君……龍美君って言った方がわかりますかね? が来たと思うんですが、どうしたんですか? 来た時には既に姿が見えませんでしたが」
「あぁ、あの問題児な」
好川の言葉に滝本先生はあからさまに疲労感を露にしながら、困り果てた表情を浮かべる。
「アイツならここに来てそのまま森の中に突っ走ってたぞ。勿論それを俺達教師が放置出来るわけもないから、数人の先生が後を追って行った」
「彼らしいと言えば彼らしいですね」
「こんな時ぐらい真面目におとなしくしてて欲しかったがな。…………これ以上の話はまた後でみたいだ」
和やかに会話をしていた滝本先生が、突如真剣な表情で森を見つめながら、俺達を制止するかのように右手を横に広げながらそう言った。
直後、森の中に浮遊する光る物体が6個現れる。
「お前達、今更だが戦闘に役立ちそうなスキルは持ってるか?」
「俺は[身体強化]がありますよ。悠椰はどう?」
「自分も同じく[身体強化]があります」
「お前等揃いも揃って運のいい奴等だな。[身体強化]なら俺も持ってるし使ってたから教えられる。だがその前に……数を減らさんとな」
滝本先生はそう言うと目を瞑りながら左手を前に出す。
そして少しの沈黙の後左手に力を入れ力むと、森の方からうめき声のような声が聞こえ、浮遊する光る物体が2つ消えていた。
スキルの魔法を使ったのか?
それにしてもこの距離で正確に攻撃を当てれるとは……
予想以上に滝本先生は強いのかもしれない。
「よし。これで一体ずつだな。とは言え最初からお前達に戦ってもらうという訳じゃない。最初はとりあえず俺が弱らせた奴にとどめを刺してもらう。そしてその後の状態を見て、お前達に戦ってもらうかどうかを決める。お前達には自衛できるだけの力をつけて欲しいが、無理はさせたくないからな」
滝本先生は優しく微笑みながらそう言ってきた。
とりあえずは戦闘経験ではなく、レベルを上げ肉体強化と……
それに俺達があのゴブリンを殺して大丈夫なのか?
それも確認する為だろうな。
無理なら戦わせれば戦わせるほど人として壊れていくからな。
そう言った事も考えてくれているのだろう。
と、俺がそんな事を考えていると森の中からゆっくりとゴブリンが2体出てくる。
仲間がやられたのに逃げずにこっちに来るんだな。
少し考えれば力の差は歴然だと思うはずだが、あるいは何か奥の手があるのか?
兎に角油断は禁物だろう。
奴等の一挙手一投足に細心の注意を払うべきだ。
俺はそう思い真剣にゴブリン2体を凝視する。
だがそんな考えは一瞬で吹き飛んだ。
何故なら森から出たと同時にゴブリン2体が氷のオブジェと化したからだ。
「よし。動いて反撃される心配もないし、これで安全に倒せるだろう」
滝本先生はそう言いながら、氷漬けになったゴブリンに向かって近づいていく。
嘘だろ……
ここまで違うのか……
先生の攻撃が俺にはわからなかった。
つまり今の俺が先生と戦えばあのゴブリン達と同じく、気がついたら氷漬けにされてしまう。
差がありすぎる……
このままではやがて俺は強者に淘汰されてしまう。
それだけは絶対に回避しなければならない。
そしてその為には一刻も早くレベルを上げ、[
それが今俺がしなければならない事なのだと、あのゴブリン達を見て認識させられた。
「おい、なにしてる? 早くお前達もこっちにこい。今は周囲にこいつ等2体しか居ないんだ、手早く済ませるぞ」
そうだ。
今は何よりも行動しなければならない。
立ち止まり無駄に時間を浪費する余裕は、今の俺には無い。
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