第3話 無能な優等生と優秀な不良
「せめて説明してください!!」
「どけ優等生、邪魔だ」
入り口の扉を叩きながら叫んでいる
「龍美君! 悪いけど今は君の悪ふざけに付き合ってる訳にはいかないんだ!」
「うっせぇ、いいからそこで黙ってろ!」
邪魔をされたことに対して抗議の声を上げた大光寺に対して、龍美は鋭い眼光で力強くそう言った。
直後、先程までの様子が嘘のように大光寺がその場で腰を抜かしたかのように倒れ込む。
「中々使えるじゃねぇか」
龍美はそう言いながら軽く笑みを浮かべていた。
アイツ……今何らかのスキルを使ったな。
普段の大光寺なら例えあんな態度をとられようと、決して引き下がらない。
そんな奴が言葉だけで立っていられなくなる理由なんて他に考えられないからな。
言葉だけで相手を立てなくする何か?
安直に考えれば威圧や殺気と言ったものが浮かぶが、果たして合ってるかどうか……
ただ言えるのは、先に見る事が出来て良かったという事だろう。
これで初見殺しされるようなことはある程度防げそうだ。
「おい! 先公! そこに居るなら出来るだけ扉から離れろよ! 怪我しても知らねぇからな!!」
龍美は扉の前で大声でそう言った。
その声は体育館の中で響き渡り、先程まで騒がしかったのが嘘のように一瞬で静かになる。
何をするのか知らないが態々先に怪我しないように忠告するとは、案外優しい奴なのか?
言葉遣いは悪いが。
俺はそう思いながらふと隣に居るチャラい男子生徒に目を向ければ、真剣な表情で耳に手を当てていた。
何してるんだ?
確かに龍美の大声のおかげで体育館内は静かになったが……何か聞こえるのか?
俺はそう思い、チャラい男子生徒を真似るように耳に手を当て、音を聞き取るのに集中する。
……何か甲高い音、何かが弾ける様な破裂音、それにこれは足音? それもかなりの数の。
これはもしかすると考えていた可能性が的中したかもしれないな。
正直外れてほしかったんだけどな。
「忠告はしたからな!!」
龍美はそう叫ぶと左足を入り口の扉に向かって一歩前に出した。
そして直後体を捻り、入り口の扉に向かって後ろ蹴りを放った。
その蹴りは綺麗に扉に命中し、命中した扉を吹き飛ばしてしまう。
「嘘だろ……」
「扉を壊したぞ……」
「あそこまで出来るのか……」
周囲からは小声でそんな声が聞こえてくる。
確かに体育館の扉は教室や他の所に比べてより頑丈に作られている気がするから、驚くのもわからなくはない。
吹き飛んだ扉は蹴られたところがわかる程凹んでいるしな。
だが俺は見逃さなかったぞ。
龍美が扉を蹴る瞬間、蹴りを入れていた右足が僅かにだが光っていたのを……
正確には光っていたというより、光の粒子のようなものが見えたと言った方が正しいだろうがな。
つまりはあの威力を出すために、また何らかのスキルを使用したのだろう。
精神攻撃スキルと思わしきものに、バフスキル……
今後どうなるかはわからないが、龍美とはあまり険悪な関係になるのは避けるべきだろうな。
龍美が持つスキルの詳細がわからない事で対策が立てずらい。
それに今見た2つのスキル以外にも恐らくスキルは所持しているだろう。
今の状態では100%勝ち目どころか、抵抗すら出来ないだろうからな。
「ッチ、やっぱり誰も居ねぇじゃねぇか。クソが」
「……エッ!」
龍美のその言葉に、今までうなだれて居た大光寺が反応する。
どうやら龍美が先に使ったスキルは、ある程度自身で対抗できるみたいだな。
あるいは時間経過による解放と言う可能性も十分にあるが、それにしてはタイミングがいいしな。
後龍美の奴、まるで人が居ないのがわかってたかのような言い方……
もしかするとわかっていたのか?
スキル……気配を探るようなものだろうか?
おいおいふざけるなよ!
アイツどれだけ優秀なスキルを持っていやがるんだ!
「優等生なら優等生らしくちったあ先公どもを見習って早くこの状況に適応しやがれ。無駄に時間を浪費してこっちにまで迷惑かけてくんな」
龍美は大光寺に向かってそう吐き捨てるようにそう言うと、体育館の外へと出て行った。
仮にあいつが気配を探れるスキルを持っていたとすれば、多少なりとも外の状況がわかっているはず。
そして今の発言。
これはほぼ確定だろう。
ならばここは早めに俺も外に出るべきだろうな。
ここに居てもパニックに巻き込まれて身動きできなくなるのは目に見えている。
なら少しでも選択肢が多く、状況を理解できる方に行くべきだ。
俺はそう思い、龍美が蹴破った扉の方に向かって走り出す。
「良かった」
「……何でついてくるんですか?」
俺は真後ろから聞こえた声に対して、猫を被りながらそう投げかける。
後ろをチラッと見れば、そこにはチャラい男子生徒が俺と一定の距離を保ちながらついて来ている。
「そりゃぁあそこにあのまま居たら危険やからに決まってるくない? 朝倉 悠椰君?」
「……自分あなたに自己紹介しましたっけ?」
「いや、してないで。でも君って君が思ってるよりこの学園じゃ有名やったで?」
有名だった?
何でだ?
俺はあまり人と深い関りを持たずに学園生活を送っていた。
有名になるような事はした覚えがないんだが……
「まぁ今はそれはどうでもいいやん。それより今はこの状況をどうするかって事じゃない?」
その言葉で視線を正面に戻せば体育館を出たグラウンドの先、丁度学校の敷地と周囲の森との境界辺りで教職員達が何かと戦っているのが目視出来た。
「あれは……」
「ファンタジーな物語とかで良く出てくるゴブリンに俺は見えるけどな?」
遠目だからハッキリとはわからないが、俺にもそう見える。
緑色で教職員達の腰ほどの高さの生き物。
その生き物達が何か武器を持ちながら教職員達を襲っている。
そんな風にここからは見える。
「それで?
「……」
「あれ? 悠椰君て呼ばれるの嫌やった? なら朝倉君の方が良い?」
「いぇ、どちらでも構いませんよ」
初対面の人間に対して馴れ馴れしいとは思うが、正直それはどうでもいい。
呼称に関しても呼びたいように呼べばいいと思っているからな。
問題はそこじゃない。
俺にどうするか意見を聞いてきた事だ。
まるでそれについて行くみたいな聞き方……
猫を被るのも疲れるから早く一人になりたいところだが、この状況では当分無理だろうな。
「なら悠椰君って呼ばせてもらうで。それで結局どうするん?」
「……自分は先生方の方に向かいます」
「やっぱり? そうやんな。だってこの状況やったらまずどうなってるか話聞く方が良いもんな。それに勝手に動いて後でなんか言われんのも嫌やし」
コイツついてくる気満々だな。
だがコイツの言っている事は俺の考えている事と一致する。
一緒に行動する事で手の内を探られてるような気がしてあまり気は進まないが、ここで拒めば何かあるのかと勘繰られて更に色々行動しそうだからな。
ここは面倒ではあるがついてくるのを黙認するしかないだろうな。
時がくれば自然と離れてくれるだろうし。
「じゃぁ急ごうや。あんまり時間かけてると後ろが凄い事になるやろうし」
チャラい男子生徒は俺の背中を軽くたたき、右手の親指で後ろを指しながらそう言ってきた。
ホント、一人だったら盛大にため息ついてるところだぞ。
何せこんなに色々言ってきて絡んでくるくせに、俺はコイツの名前すら知らないんだからな。
とは言えコイツの言ってる事は先程から同意できるものばかりではある。
この場で無駄に時間を浪費すれば後ろ……体育館内から出てきた生徒によってこの場所は大混乱だ。
そしてその混乱はゴブリンらしき生き物と戦っている教職員達にとって致命的。
恐らく俺達生徒を守る為に戦っているのに、その生徒が勝手に動きだしたら対処せざるを得なくなる。
戦う事に集中していた教職員達にとってそれは迷いと疑問を生み、動揺が広がる。
そして戦場全体に動揺が広がり、遂には収集が付かなくなる。
それが考えられる最悪の状況。
そうなる前にこの状況を必死で戦っている教職員達に伝え、対処しなければならない。
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