第2話 面倒な同級生

 俺は今、体育館内の端で一人佇んでいる。

 あれから少しして担任が教室まで来て、俺を含むクラスメイト達を体育館まで先導して連れてくると、「体育館の中から決して出ないで待機して居るように」と言われた。


 恐らく俺達生徒を体育館に集め、その間に周辺を調べ状況把握するつもりだろう。

 それに勝手に動く生徒が居るかもしれない以上、別々の場所に居させるより一カ所にまとめ監視した方が圧倒的少人数で対応できるだろうからな。


 まぁそうやって全校生徒を体育館に集めたせいで、こんなにも騒がしくなってる訳ではあるんだけど……

 今現在体育館内は集められた生徒達が各々好き勝手喋っているので、正直言ってかなりうるさい。


 だがそれを客観的に見て反面教師かのように冷静に思考出来るようになっているのもまた事実ではある。

 しかしその結果、この状況が危険である可能性が頭に浮かんでしまった。


 けれど浮かんだだけだ。

 そうなるかどうかは本当にわからない。

 その可能性がどの程度のものか計算する為の情報が一切ないのだからな。


 あるかもしれないし、無いかもしれない。

 今はそれが精一杯だ。

 にしてもこいつら……


 まだ、この状況に適応できず混乱して騒いでる奴やそれをなだめようとしている奴らはわかる。

 だがこの状況に適応し、嬉々として自分の能力について話している奴らは何なんだ?


 現状に適応しただけで状況を理解した訳じゃないのに自分の手の内をペラペラと……あれか? ただのバカなのか? コイツ等は?

 まぁ俺としては聞き耳を立てて情報収集できるから助かるけど。


「……職業は騎士……」

「俺は……」

「……力は18で守は……」

「……スキルは[剣術」と……」


 ……

 …………

 ………………


 ……なるほど。

 少し話に耳を傾けるだけで、かなり情報を集められた。

 勿論嘘をついている可能性だってあるにはあるが、それを言い出せば話が進まない。


 今は聞きとれた話を真実だと考えながらも、偽装の可能性がある事を常に頭の片隅に置きながら行動するしかないだろう。

 でそれを念頭におきながら聞こえた話をまとめると、まず能力値についてはどうやら全員最低値が10で最高値が20のようだ。


 そして能力値の平均値は17~18と言ったところだろう。

 俺の能力値の平均は約16……

 悲観するほど低いという訳ではないが、決して誇れる数値という訳でもないという事がわかった。


 次にスキルについてだ。

 スキルについては基本[早成]と[言語翻訳]は全員共通で保持しているらしい。

 で、問題は[職業変更クラスチェンジャー]だ。


 コイツの話題は一切聞こえなかった。

 結果、俺はこのスキルを誰も持っていないのだと結論付けた。

 職業の話をしている時も、変えればいいという話題すら出なかったからな。


 だが重要なのはここからだ。

 他の人間は俺と違い、最低でも二桁近いスキルを保持している可能性がある。

 しかも聞いている感じ、そのスキルは明らかにステータスの職業と親密な関係がある気がする。


 例えば職業が騎士だと言っていた生徒のスキルは、[剣術][槍術][盾術][格闘術][馬術][身体強化][早成][言語翻訳]と、聞きとれただけでも8つはある。

 そのうえまだあるような言い方だった。


 しかしながらこの職業騎士の生徒のスキルは、どれも騎士が持っていそうなスキルなのだ。

 勿論共通で保持してる[早成]と[言語翻訳]は例外だ。


 なので俺はある一つの仮説を立てた。

 スキルとは、職業に付随して獲得出来るものではないのか、と。

 無論これは俺の仮説でしかない。


 だが職業とスキルの関係性……

 俺が職業を選択した直後に[身体強化]と[魔力操作]を獲得した事実……

 この二つの状況証拠から見るに、この仮説は可能性としてはかなり高いと考えている。


 つまり、[職業変更クラスチェンジャー]はかなり有用なスキルかもしれないという話だ。

 そしてそんな特殊なスキルを他人に知られれば、非常に面倒な事になるのは目に見えている。


 なので[職業変更クラスチェンジャー]については何としても秘匿すべきだろう。


 にしても遅いな。

 かなり時間も経ったし、そろそろ教職員の誰かが話をしてもいいころだ。

 それにこんなに騒いでいるのに注意にすら来ない。

 ……何かあったか?


 俺はそう思い体育館の入り口に向かって歩を進める。


「……したんですか!? 一体外で何があったんですか!」


 入り口付近に近づくと、不意にそんな声が耳に入ってきた。

 声のする方に視線をやれば、数人の人だかりが出来ている。

 と言うか目的の入り口の前だ。


「面倒くさそうだが行かないと情報で後れを取る事になりそうだしな」


 俺はため息まじりにそうつぶやくと、人だかりの最後尾まで行き声の主を確認する。


「……大光寺だいこうじ


 ある意味予想通りの人間だったな。

 大光寺だいこうじ 勇人はやと……正義感と責任感が人一倍強く、面倒な事であろうと率先して行い生徒教員共に信頼が厚い、我が校の生徒会長。

 

 そんな人間がここに集められた生徒の為にも状況を把握しようと行動するのは必然だと言える。

 とは言え正直俺は彼が苦手だ。


 何せ彼とは考え方が合わないからな。

 表面上の付き合いは出来るだろうが、それ以上の関係になるのは難しいだろう。


「なんか先生がここから出ないように扉を力尽くで閉めてるらしいぜ」


 俺がそんな事を考えていると、不意に後ろからそんな声をかけられた。

 振り返るとそこにはいかにもチャラそうな男子生徒が立っていた。


「……」

「それで生徒会長様が理由を聞くために交渉中らしい、アレでも」


 入り口の扉を叩きながら何故? どうして? と疑問をぶつけているだけの事を交渉とは言わないと皮肉ってるんだろうな。

 にしてもコイツ誰だ?


 説明してくれたのはありがたいが、初対面だし俺に言ってる訳じゃないだろう。

 あまり関わるのも面倒だし無視でいいか。

 俺はそう思い、視線を生徒会長の居る閉められた入口へと戻す。


「おいおいおい! せっかく説明してやったのに無視するなって!」


 チャラそうな男子生徒はそう言いながら俺の右肩に手を置いてきた。

 コイツ俺に喋りかけてたのかよ。

 本当に初対面で関りは無かったと思うんだがな……

 俺はそう思いながら笑顔と言う仮面を被り、対人用の猫を被る。


「すみません。初対面だったので自分に話しかけてるとは思いませんでした」


 声音を少し上げ、申し訳なさそうに振り返ってそう答える。


「確かに。それはそうだ。言われてみればこっちが悪い、悪かった」

「いえいぇ、謝って欲しかった訳じゃないので気にしないでください」


 俺は軽く頭を下げて謝ってきた生徒に向かってそう答える。

 本当に面倒くさい。

 人間関係を円滑に進める為には、相手の気持ちを考え行動しなければならない。

 これは誰が言った言葉だったか?


 今相手は何を思い、何を感じ、何に対して申し訳ないと思っているのか?

 それらを瞬時に考え、言葉を思考し、思考した言葉を間違わないように発言しなければならない。


 今回彼が申し訳ないと思っているのは、自身も非がるにもかかわらず無視されたことに関して感情を抑えられなかったことについてだ。

 しかしながら俺はそれに関して特に何とも思っていない。


 だがここで気にしてないからと適当にあしらえば、彼は不快に感じ、最悪俺にいらぬちょっかいを出してくるかもしれない。

 そっちの方がより面倒だ。


 要は他者と関わるという事は、一々相手に気を遣わなければならないという事だ。

 勿論俺が色々と考え過ぎてしまう人間であるせいもあるだろう。

 だが無神経な人間よりは幾分ましだと自負している。


 なので俺は他者と関わるのが面倒なのだ。

 何せ他者と関われば否が応でも精神が物凄い勢いで疲労するのだから。


「そう言ってもらえると助かる」

「それで? 何か自分に話があるのでは?」

「別にこれと言った話があった訳では無いねんけどな」

「そうですか」

「……噂通り壁のある人間、か」

「何か仰いました?」

「いや?」


 確かに小声で何か言ったような気がしたが、気のせいか?

 まぁいい。

 俺に用が無かったのならこれ以上話す必要もないだろうしな。


「どけ」


 俺はそんな声と共に左から力を加えられ、体を強引に右側に移動させられた。

 また面倒そうな奴が来たな。

 確かアイツは……


龍美たつみ 丈裕たけひろ、生徒会長様とは別の意味でこれまた有名人が来た」


 チャラい男子生徒はどこか嬉しそうにそう言いながら、押された俺を気遣ってくれる。

 生徒会長である大光寺が尊敬と憧れの存在ならば、龍美は恐怖と軽蔑の存在。


 まさに対極の存在であり、正反対の理由で有名だ。

 簡単に説明するならば学園一の不良、それが最も的確な表現だろう。


「あんなに強引に進まなくても道を譲ってやるのにな?」

「そうですね」

「けどこれはチャンスだ! アイツが強引に作った道を進んでもう少し前まで行こうぜ! あの二人が顔を合わせたら絶対に何かあるだろうから」

「いや自分は……」


 遠慮しますと言い切る前に、俺はチャラい男子生徒に背中を押され無理矢理前へ前へと進められた。


 クソ!

 やめろ!!

 と言うか話を聞け!!


 コイツが言うようにあの二人が顔を合わせたら絶対に何かはあるが、それは決していい事じゃない。

 場合によっては周囲を巻き込む事だってある。


 そんなはた迷惑な事が起こるとわかっている場所になんか行きたいわけないじゃないか!!

 クッソ……


 ていうかコイツ滅茶苦茶力が強くないか?

 俺も押されるのに抵抗する為に力を入れているが、そんな事は関係ないとばかりに涼しい顔で俺の体を前へと押している。


 これは何らかのを使っていると考える方が自然なほどだ。

 コイツ見かけによらずパワータイプか?


「かなり前まで来れたな」

「そうですね」


 俺は猫を被りながら笑顔でそう答える。

 何がかなり前まで来れただ!

 ここはほぼ最前列じゃないか!

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