終わりのパレード

 学園都市祭を締めくくるパレードは秋の終わりと冬の始まりを告げる風物詩らしく学園都市のメインストリートには身分問わず多くの人がパレードを見ようと並んでいた。

 荒地の皆と共に俺たちはレディアが用意してくれたという場所に向かうと最前列の一番見やすそうな場所が確保されていた。

 荒地の皆はパレードなんて見たことないらしいので凄くワクワクしているがよくわかる。

 ちなみに俺も久しぶりのパレードなのでテンションが上がってきている。


 ワクワクしながら待っていると一番門に近い所から歓声が上がったのが聞こえたのでパレードが始まったのだろう。

 しばらくするとパレードの先頭が見えてきた。

 騎士学校の生徒が周りに手を振りながら歩いてやって来る。

 面白いのは彼らの装備だ。

 武器も防具も木で作られている。

 木をくり抜いた兜や鎧を身に着け、腰に木剣を指しているとファンタジー感が強いな。

 でも、なんで木製なんだろうな…


「このパレードは去り行く秋と迫る冬を表しているんだ。だから最初は枯れ木を模した木製の武具を身に着けた子たちが来るんだよ。あと、木製なのは身分問わず用意できるって言うのも理由の一つだと言われてるね。騎士学校に在学中は元の身分を可能な限り廃する様に言われてるらしいからね。」


 ヴィオラが荒れ地の面々に解説しているのを聞いてなるほどなぁ、と納得する。

 次にやって来たのは騎兵達だった。

 彼らも木製の武具を身に纏っていて馬は茶色の馬用のコートを着せられていた。

 そんな騎兵達の後ろを野菜を満載にした多くの荷車が進んでいく。


「あれは学園都市の周辺で取れた品たちだね。あんな風に今年の収穫物を見せても今年も豊作だったから安心して冬が越せると町の皆に知らせる意味があるらしいよ。基本は建前なんだろうけど今年は本当に大豊作だったらしくいつもより荷車が多いらしいよ。」


 なるほどなぁ~

 この国の冬がどれだけ厳しいかわからないけど食べ物が沢山あると分かれば安心感は違うよな。

 荷車の列が途切れて少し間をおいて白いローブを身に着けた魔法学院の生徒達がやって来た。

 彼らは周りに手を振りながら歩いていくのは騎士学校の子たちと同じだが中には色鮮やかな光の魔法で観客たちを楽しませている。


「彼らは見てわかるように魔法学院の生徒達だよ。白い服装なのは冬を表しているからだね。」


 そして最後尾には四頭曳きの屋根のない馬車が並んでいた。

 そこに乗っていたのは杖を持った白いドレスを着た少女だった。

 彼女も持つ杖は先ほどから白い何かが勢い良く天に向かって放たれており、それが観客の元に落ちてくる時は最初の勢いをなくしフワフワと降りてくる。

 俺の方にも落ちてきたので掴んでみたが掴んだ感覚は無く、掴んだはずのそれは水になっていた。


「彼女はこのパレードを締めくくる冬の主の役だね。魔法で作った雪を降らせるの仕事だよ。年によっては複数人ですることが多いんだけど一人でしてるってことは優秀なんだね。」


 雪まで降らせるとはホントに魔法って何でもありだな…

 ちなみに初めて雪を見た荒地の皆は大興奮していた。


 こうして雪を降らしていった冬の主が乗っている馬車が過ぎ去っていくとパレードの観客は少しずつ解散していった。

 祭りの終わりって言うのは世界が変わっても物悲しいものだな…


「主様、撤収の準備が出来ました。」


「分かった。じゃ、帰ろうか。」


 帰っていく人の流れを眺めていたらメイちゃんが呼びに来てくれたので皆の所に向かう。


「雪って物を見たせいかなんか寒くなったわい。」


「マキアスでホットワインを出してもらえばいいよ。君たちドワーフには弱い酒だろうが体はあったまるよ。」


「温まると言えばお風呂ですよお風呂。我々ラミア族が全力で体を伸ばせるあの大浴場は素晴らしいです。」


「ウム、リザード族にも大浴場は大人気ダゾ。」


 寒いせいか一塊になった皆を見て考えていたことがふと口から洩れる。


「…不思議な光景だな。」


「何が不思議なのですか?」


「人の街にドワーフやリザードやラミアがいる事がさ。なんだか急に不思議思えた。」


「不思議ではありますが主様が頑張って結果ですよ。これからはこれが不思議な光景じゃなくて当たり前の光景になっていくのです!」


 そう言ってフンス、と気合を入れてメイちゃんが胸を張る。


「そうだな。この中に鬼とエルフが混じっても普通の光景になるように頑張っていこうか。」


 メイちゃんの頭を撫でてから皆の所に向かった。

 俺のできる事なんて小さい事だけど少なくともメイちゃんとヴィオラが偽装を解けるぐらいの事はしたいものだ。


 ※…………………………………………※※※…………………………………………※


 パレードも終わり学園都市祭の余韻が残る中、いち早く国難を解決するために公国の首脳陣が宰相の屋敷に集まっていた。


「やはり北部の騒動を止めない限り神武皇国しんぶおうこくとの大規模な貿易の復活は難しいかと…」


「イサナのおかげで異種族への交流に乗り気だった者が増えたが国内問題で我々が足を引っ張ることになるとは…」


「商業ギルドの離反者たちが海賊と手を組んでいるのは明白であろう。手は出せんのか?」


「残念ながらこれといった証拠が出てきておりません。現地の領主も冒険者ギルドと手を組んでおりますが街の治安維持に手いっぱいでして海に出られるとどうしようもないのが現状だそうです。」


「海か…海は厄介だな…軍を出そうにも船の調達からとなりますと奴らに逃げられてしまうでしょう。」


 現在、首脳陣が頭を悩ましているのが公国の北西部の海賊問題である。

 公国の数少ない海の玄関口と言えるその土地は、昔から隣国の王国とその先にある聖国、そして遠洋の先にある神武皇国しんぶおうこくとの唯一のつながりであった。

 その土地で海賊問題が起こり始めたのはイサナがこの世界に来る少し前の事。

 北西部の中堅の商人たちが揃って商業ギルドから脱退。

 その後に脱退したメンバーで『商人会』なる組織を結成、それと同じく北西部に海賊が出没するようになったのである。

 もちろん首脳陣もこの商人会が海賊を手引きしていると睨んではいるがこれといった証拠も無く対処的に海賊を狩る事しか出来ていない。


「とりあえず現状維持でしかないが北部の貴族たちの陳情は優先事項として扱うように。風向きが変われば一気に落とす段取りだけはしておけ。」


 女王の言葉に他の首脳陣が一斉に頷く。

 今年も厳しい冬になりそうだと皆が思うのであった。


           ~ 第4章 白熱!学園都市祭 END ~

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