学園都市祭・最終日

昨日の一件で正直疲れ切ってはいるが学園都市祭は5日目である今日がフィナーレだ。

本日は本来露店禁止でパレードが行われるのだが俺たちはギルドと騎士学校、魔法学院のトップ3名にお願いされて騎士学校のグラウンドで特別に露店を開くことになった。

今日の客は貴族だけだが昨日の噂がすでに広まっていらしく北部の商品を並べた露店にはオークション開催前の時以上に人が集まっていて俺の持ってる露店用テントだと人が入りきらないのでテントを取っ払って青空市状態になっている。

販売物は元々露店で売っていた半人前の職人が作った物からオークション会場で物販していた一人前の職人の売れ残りをメインにしているが実は神界工房の品も人目が付かないところに用意していてオークション会場に参加していた人でまだ購買力がありそうな人に俺から声をかけてひっそりと案内している。

案内された人の反応は上々。

中には泣きながら青ざめた顔で買いますって言った人もいたがあれはうれし涙だという事にしておこう。


物販も大人気だがアンコの露店も凄い事になっている。

貴族だけなのに今日も行列になっていてそれも折り返すというつづら折り状態になっている。

下ゆでだけは別の場所でしてるがそれ以外は露店の近くでしている。

そうしないと提供が間に合わないほど大人気だからだ。

ちなみに1日目は普通の焚火の上に鍋を置いていたのだがそれでは火加減が難しいのと間に合わないという事で2日目から神界工房にいる自称発明家のパパスが作ってくれた魔道コンロを使っている。

これはマキアスのレストランでも使っていて火が出ないコンロで元の世界のIHヒーターに近い。

火の魔石をいれると熱だけを伝えてくれるので熱の強弱の管理が出来るし火事の心配も無い上に手入れも簡単なので非常に便利で快適だ。

…値段が高いという欠点を除けば。

2日目は魔道コンロ1つに鍋1つしか置けないので複数個の魔道コンロを用意していたがそれだと魔石の力を効率的に使えないらしいので3日目から3つ口コンロに進化していた。

ちなみにこの3つ口魔道コンロはこの学園都市祭が終わり次第全て宰相家が購入することになっている。

というのも3日目の露店の時に宰相家の料理人が全員宰相夫人のカタリーナ様に直談判しておりその圧に折れたカタリーナ様が購入したいと言ってきたからだ。

俺としては断る理由も無いしちゃんと金を払ってくれるなら問題無いので特に悩まず売ると言った瞬間の屈強な料理人たちが大歓声を上げて喜んでおりカタリーナ様と一緒に驚いた。

後々聞いた話だが宰相家にも魔道コンロはちゃんとあるらしいのだが伝熱部分が非常に大きく1個のコンロに鍋が3つ乗るぐらいのサイズで使い辛いらしい。

これは何も宰相家だけの話しではなく魔道コンロは大体そんなものだったらしい。

パパス曰く効率化の問題との事で2日目の魔道コンロは急ごしらえだったので魔石の効率よりもコンロの製造の速さを優先したらしく小型ではあるが魔石の使用効率的には無駄が非常に多かったらしい。

宰相家の料理人たちは2日目から実は欲しかったが魔石を湯水のように使うタイプだったのでカタリーナ様に相談できなかったらしい。

だが、3日目に魔石の使用効率がいい3口コンロが登場したので何が何でも欲しいとなったらしい。

今のコンロが大きな円状とはいえ大量に料理するときはどうしてもギュウギュウになってしまい、熱の強弱を管理する機能があっても作っているのがすべて同じ料理とは限らないので弱くしたい時はわざわざ円から離したりしないといけなかったらしい。

それがうちのだと横一列で狭くないしコンロの口がそれぞれ別なので各々で熱の強弱ができるし今回みたいに持ち運べる。

これは確保しておくしかないと料理人一同で直談判を行う経緯になったそうだ。

カタリーナ様も忙しい家を支える見事な女主人で使用人の采配などは行ってはいるが使用人の労働環境までは目が行ってなかったようで今回は考えさせられる一件になったと話していた。

これで勉強することになったしもしも将来にカタリーナ様がお店を始めたら敏腕経営者になるかも…

まぁ、忙しい身だから早々にそんなことは起きないか。


………

……


「おお、イサナ。ここにいたか。」


お昼過ぎにレディアが俺の近くにやって来た。

声は元気だが不満がありますって顔で。


「ところでイサナよ。こちらの話をする前に聞きたいのだがレーラ様にはあの後合ったか?」


「いや、あってないが。何かあったのか?」


「あったといえばあったのであろうが何があったのかはよくわからん。少なくとも大神官の心をへし折るようなことはしたようだが。」


「大神官って言えば昨日襲撃して来た奴の上司だよな。そいつの心がへし折れてるってどういう事だよ?」


「とりあえず順を追って話すとだな。我々は兵士たちを引き連れて朝一で大神官の泊まっている宿に奴を捕まえるために行ったのだ。荒事になるつもりだったのだがつくや否や大神官がなんでもするから本国聖国に帰してくれて懇願してきたのだ。だから襲撃に関する事を話すことと今回の諸々の抗議の使者の同行を許すなら帰してやると言ったらあっさりその条件を飲んでな。朝から大慌てでその対応をしていたのだ。」


「それじゃ結局その大神官は捕まらずなのか。」


「実際に捕えてたとしても早急に解放せねば戦争の口実にされかねんしな。そういう意味では国益としては上々だ。感情はまた別だがな。」


「政治のお話が混じって来ると難しいな。」


「イサナには申し訳ないが今回はこれで許してくれ。」


「まぁ仕方ないから別にいいよ。それにそれだけ簡単に進むってことはきっとレーラさんがえげつない事をしたんだろうしな。」


「そういってもらえるならありがたいな。お詫びとは言ってはあれだがパレードが見やすい位置を確保させている。荒地の皆共々見に来るといい。では、余はパレードの準備があるのでまた後で会おう。」


レディアも本当に忙しいのだろう。

いつもならなんだかんだと言いながら露店を見て回ったりするものだが今日はすぐに帰っていった。

そのレディアと入れ替わるようにやって来たのが宰相夫人のカタリーナ様だった。


「イサナさん今回は非常に世話になりました。とても楽しい学園都市祭でしたわ。」


「いえいえそんな、カタリーナ様。人の手配や店の管理などむしろお世話になったのはこちらの方です。カタリーナ様がいなければ今日まで回りませんでした。」


「お役に立てていたのならば幸いですわ。それでイサナさんにご相談なのですが、私はもうアンコの魅力から抜け出せそうになくてできればアンコを使ったお店を経営したいのですがその許可をいただけますでしょうか。」


「??? 宰相家は既にレシピを買ってますしわざわざこちらが許可を出さなくてもいいのでは。」


レシピは販売してるからそれを買った後は自由だと思うんだがなんで俺の許可がいるんだ?


「イサナさんがお気付きかどうか分かりませんが小豆も砂糖も輸入物で本来は高価です。今回はロッソ商会がさばきたい黒砂糖と売れ残っていた小豆という事でしたので安く仕入れる事が出来ましたがこの2つも人気が出れば値段が上がります。つまり今回の様に貴族以外もなんとか買える値段で提供するのは非常に難しくなります。ですので次第にアンコは貴族向けの商品に代わっていくでしょう。なのでイサナさんがこのアンコをホテル・マキアスで販売すれば貴族たちはこぞってやってきますよ。私としてもイサナさんと争う気はありませんのでイサナさんがホテル・マキアスで専門的に販売するというのであれば手を退こうと思います。」


「ああ、そういう事ですか。レストランのメニューには入れるかもしれませんが独占的に販売するつもりは無いですよ。ホテル・マキアスはあくまでは他種族の宿泊がメインですから今のうちはひっそりと経営する予定なので。それにアンコがあれだけだと思っているうちは負けませんからね。」


今の所俺がレシピ販売しているアンコは粒あんだけだ。

最初は漉し餡も登録しようと思ったのだが今回は量を作るのが目的だったから別にいいかと思い直したので登録してないんだよね。

カタリーナ様がアンコ店をするならレシピ登録しておくかな。


「な、なんと!?まだアンコには秘められし魅力があるのですね!あの程度で知った気になっていた自分が恥ずかしいですわ。」


そう言って恥ずかしそうに顔を隠すカタリーナ様。

とかを知ったらどんな反応するんだろう。

いっそのこと神界工房にがあるか今度聞いてみるか。


「今度小豆の仕入れに使った商人を紹介しますね。それに今回の露店の動きを見ててカタリーナ様の経営能力は高いと感じましたのでどのようなお店をするか楽しみですよ。」


「フフ、今公国で一番注目されている商人であるイサナさんにそう言われると安心しますわ。お店が出来上がったら是非ともいらしてね。」


この後もカタリーナ様と雑談をしていると気づけばまもなくパレードが始まる時間になったので俺はヴィオラやメイちゃん、そして北部の皆と一緒に向かったのだった。

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