招かれざる客
オークションが終わって会場には一見穏やかな空気が流れてる。
身に着ける事が出来る物を買った貴族は早速身に着けて見やすいように体を動かしている。
ドラゴンドレスを買ったお嬢さんは試着用の物を身にまとい同年代の女の子たちに囲まれている。
買った物は今調整中なので後日届くので今は少しサイズが合ってないのを着ているが予想外に待望の的の様だ。
ただ、慣れないドレスの為かカーテシーにすごく苦戦している。
…なるほどそういう問題があるのかメモしとこ。
しかし、この社交っていう貴族の戦場の空気は賊達に襲われるのとは違った緊張感があるな。
俺の脇をレディアとロダンさんががっちり固めてくれてるから変な事を言われることは無いけど隙を見せたら何を言われるか分からない恐怖感がある。
はやく帰りたいなぁ…
俺がグロッキーになりかけてた時、会場の入り口が騒がしくなっているのに気付いた。
何か問題があったのかと思ったのもつかの間。
どっかで見た男が
会場の門番が男に食って掛かろうとしているのを部下が防いでいるのを見ると無理やり入って来たみたいだ。
「キサマ!何のつもりだ!いくら聖国の大神官補とはいえこれは見過ごせんぞ!」
「これは、これはセレンディア女王陛下ご機嫌麗しゅうございます。こちらの要望はその子供の引き渡しでございます。我らノエライト教にあだなす背信者を見過ごすわけには参りませんので。」
「話にならんな。衛兵!こいつらを全員ひっ捕らえろ!」
「所詮は劣悪種と手を組んだ愚か者の末裔か。全員切り捨ててしまえ!」
レディアが捕えるように命令を出すと大神官補は周りの部下にこちらを殺すように指示を出す。
大神官補の部下は迷うことなく武器を取るとそのままこっちに切りかかって来た。
レディアが攻撃を防いでヴィオラが俺を後ろに引っ張ってくれたおかげで助かったが今のは完全に殺す気で切りかかって来ていた。
こいつら正気か!?
王族の前で刃傷沙汰とか戦争になっても反論できないぞ!
「衛兵!こやつらを捕える必要はない!討ち取れ!!」
レディアも捕縛から討伐の命令に変更すると何処からか取り出した神剣で敵兵を真っ二つにした。
真っ二つにされた敵兵だが恐ろしい事にそのまま這うように俺の方に向かってきた。
あまりの光景に俺がビビっているとガンテツが自前の斧で敵兵の頭を兜もろとも叩き割ってくれた。
「大丈夫か!義兄弟!」
「ガンテツ!ありがとう!俺もうダメかと思った。」
「まさか真っ二つになっても動くとはとんだバケモノじゃな。」
ヨッ、と場違いな掛け声と共に斧を敵兵から抜き取るとパラパラと何かのかけらが落ちるだけで血が滴り落ちることはなかった。
不思議に思ってヴィオラとガンテツに砕けた兜を取ってもらうとそこに人の顔は無く何か人型のパーツだけがあった。
【聖国の精鋭ゴーレム】
・ゴーレム技術が進んでいる聖国でもひと際細かい動きが出来るゴーレム
・材料は人の骨と下級のゴーストを封印した魔石を核にし膨大な魔力の込められた粘土でそれらの周りを覆っている
・特殊な
・体のどこかに術式が刻まれておりそれに傷をつけることが出来れば動かなくなる
「レディア!こいつらゴーレムだ!体のどこかに術式があってそれに傷をつけたら動かなくなるぞ!」
「なるほど。よし、まずはこやつらの動きを止めろ。良く動くとはいえ所詮はゴーレム応用力は無い。一体辺りに複数で当たって意識が向いてない方から攻撃を加えろ!」
勝手に発動した【目利き】で手に入れた内容をレディアに伝えるとそれを基にレディアが指示を出す。
レディアの読み通りゴーレムは正面の敵を攻撃しようとするがそれ以外には無頓着な為、衛兵たちは3人一組で一人が防ぎその二人が横や後ろから攻撃して次々と無力化されていく。
気付けば荒野の連中も戦いの渦中にいてその戦闘力は圧倒的だった。
ドワーフやリザード達はその圧倒的なパワーで鎧もろとも相手の四肢を粉砕し、ラミアたちはその蛇の体でゴーレムを締め上げて少しずつ巻潰していた。
その戦いぶりに感化されたのか貴族たち男女関係なく武器を持ってる者は接近戦で、武器が無い者は魔法でとゴーレムを次々と倒していく。
なお、俺や使用人のような戦う力を持たない者は邪魔にならないように一塊になっていて使用人は自分の主人が活躍すると歓声を上げていた。
奇襲ではあったがこちらが圧倒的に優位なはずなのに大神官補の男はまだ余裕があるようだった。
「やはり貴様らは蛮族よ。暴れるしか出来ない愚か物だ。戦いとはこうするのだ!」
男が何か唱えると男回りの床に魔法陣が現れそこから先ほどのゴーレムが這い出てこようとしていた。
だが途中でその魔法陣が消えうせ、ゴーレムも出てきたパーツだけを残す形となった。
そんな事になった理由は一つ。
ガンテツの投げた斧が見事に男の胸に突き刺さったからだ。
「やったか!?」
大神官補が倒れた拍子につい言っちゃったよね。
「どうやら本当のバケモノはあっちじゃったか。」
大神官補の男は自分の胸に突き刺さっている斧を抜き取るとそのままヨロヨロと立ち上がった。
「やはりドワーフは劣悪種だな。祝福を受けたこの身は不死身!こんな下賤な斧では死なんわ!」
男の胸から白い煙が立ち込めていてそれが収まると傷があるはずの場所は何もなかったようになっていた。
「イサナよ。奴もゴーレムか何かか?」
レディアの質問に俺は首をブンブンと振って否定する。
俺の【目利き】は物品に対しては発動するが人や対しては発動しない。
あの男に【目利き】が発動しないという事は少なくとも物品ではないのだろう。
「ならもう一度斬ってみましょう。」
周りが得体のしれない相手に固まってる間。
剣士が飛び出て大神官補を袈裟斬りにした。
「クソが。痛いじゃないか!」
誰が見ても致命傷だったが大神官補の男は痛いと喚きながら隠し持っていた短剣で剣士を刺そうとするも剣士は短剣を持っていた腕ごと斬り飛ばすと俺たちのもとに戻って来た。
「学院長。魔法をぶつけてみてくれ。」
レディアの指示で魔法学院の学院長が大神官補がより大きな火の塊をぶつけるが火が消えると大神官補はシューシューと白い煙を立てながら再生していった。
「まさか本当に打つ手無しでは無いだろうな…」
誰かの独り言だけど多分皆が思っていることだ。
大神官補の男自体はゴーレムとは比較にならないぐらい弱い。
だが不死身となるとどう対処するか非常に悩むところではある。
万策尽きたかと思った時、どこからか白い霧が会場に入って来て埋め尽くしてしまった。
「ハッハッハ、お坊ちゃんもお嬢さんもレーラさんにお任せだよ。」
明らかに場違いな明るい声に周りに困惑と警戒が走る。
白い濃霧で先もよく見えない中、青白い閃光が一閃、会場全てを切り裂いた。
「ギャァァァァ!!痛い、痛い、痛い、熱い、熱いからだが燃える!あああぁぁぁ!神よ、神よ!痛い、痛い、痛い!あついあついあつい!」
断末魔を上げたのはただ一人神官補の男だけだった。
その言葉も先ほどまでとは打って変わって狂ったように喚き続けておりもう何を言ってるのかもわからない。
何がどうなっているのか理解できないまま霧が一つの場所に集まっていき、それが形をとるとそこには柄が自らの身長と同じぐらい大きな大鎌に座ってプカプカ浮いているヴァンパイアのレーラさんが大神官補の男の生首をわしづかみにしていた。
「やぁやぁ、君たち災難だったね。愚か者達の見栄に突き合わされて「アアァぁ!!イダイイダイイダイ!!」あぁ、もう煩いな!!」
あまりにも煩い男の生首を蹴り飛ばすと男は何も言わなくなった。
恐らく気絶したのだろう。
「皆の衆武器を収めろ。知らぬ者のために伝えるがこの方は余の知り合いでヴァンパイアのレーラ様だ。あの童話の森の奇人その人だ。敵対する相手ではないので落ち着いて構わん。」
周りはレディアの言葉を信じられないといった状態だが女王が武器を収めろと言ったので従うといった感じだ。
俺も事前に合ってなかったら多分信じられないし仕方無い事だろう。
「やぁやぁ、ご紹介の合った通りヴァンパイアのレーラさんだよ。さてと改めて皆に状況を教えてあげるとね。レーラさんは真祖様の指示で聖国が厄介なある物を海外に持って行ったから探すように言われてたんだよね。それは
相変わらず情報がマシンガンの様に飛んでくる…
とりあえず大事なのは聖国から持ち出された物をこいつが使って偽物の不死になってたってわけか。
「…とりあえず聖国がやらかしたという事は理解しました。」
「そういう事だね。ちなみに今から分御珠を壊しにこいつの上司の所に行くけど一緒に行く?あ、それともこの生首欲しいかな?いるなら珠を奪ってくるだけにするけど。」
「共に行きたいのはやまやまですがこの国の女王として正規のやり方にて聖国を問い詰めます。ただ、かなう事ならばあの大神官には情け容赦ない制裁をお願いしたいです。」
「了解、了解。任せてよ。前回と今回とレーラさんの担当してるエリアで厄介ごとを起こしたし神から選ばれた正当な女王陛下のお許しを得たんだからそれはもうこの世の地獄を見せてくるよ。じゃ、まったねぇ~」
レーラさんはそれをそういうとまた霧になって消えていった。
しかし、ホントに嵐みたいな人だな。
ほとんどの人が呑み込めないまま現れて去っていったわ。
「さて、イサナよ。そのどうする?」
「どうするも何ももう一度パーティーのやり直しと参りましょう。戦いに勝ったのですからその祝いでございます。」
「しかし、この惨状ではな…」
会場の半分ぐらいだがひどい事になってしまっている。
ただ、ここで退くわけにはいかない。
このオークションに連なる流れを全てキッチリ終えないと公国と荒れ地の結びつきが弱くなってしまう。
だから俺は腰につけてる打ち出の小槌を手に取って言った。
「我々オオイリ商店は不可能を逆転させてきたのですよこの程度の惨状など問題にもなりませんが正直疲れております。ですので皆様のお力をお借りしたいです。目を閉じて北部と公国が上手く繋がれるように祈ってください。皆様の願いの力があればこの会場も元通りとなるでしょう。ささ、目を閉じてください。」
恐らくはここの人たちは子供の戯言だと思うだろう。
目を閉じてる間に目隠しの布でも被せるのだろうと。
目を閉じて祈る振りをする程度なら大人としてしてあげようと。
別の世界から来た俺は魔法の限界を知らないがこの世界に生まれて魔法と向き合って来た人達は魔法の限界をよく知っている。
だからここで俺は奇跡を起こす。
魔法の限界を知るものからすればそれは魔法では無いと、大いなる意志が関わっていると勘違いしてくれる。
それがきっと公国と荒れ地を結び付けてくれるから。
そう信じて俺は打ち出の小槌を振った。
「流石は公国の未来を考える皆さま方がくれた力です。どうぞ目を開けてみてください。何もかも元通り。公国と荒れ地は素晴らしき友になれますね。」
「イサナ…お前は、一体…何をしたんだ……」
「それはオオイリ商店の切り札ですので秘密でございます。ただ、言えるのは奇跡というのは必要な所に起きる物だという事ですよ。」
「なるほど…皆の衆!思う事もあるだろうが今のは戦勝のパーティーを楽しむのだ!これは余の命令である。さぁ、好きなだけ飲んで食うのだ!」
聞きたいこと確かめたいことが沢山あるだろうがレディアはそれをぐっと飲みこんで周りに声をかけてくれた。
その言葉を受け皆が動き出す。
さぁ、最後の一盛り上げと行こう!!
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