学園都市祭開催・4日目(後)オークション開催

「お集りの皆さま。大変長らくお待たせいたしました。これよりオークションを開催いたします。主催のオオイリ商店店長イサナでございます。お見知りおきをお願い致します。」


とうとうオークションが開催される時間となったので俺はステージに立っていた。

と言ってもまずは全体の挨拶というわけでサイクロプス達の石像とか大型の品によっては建物の外で行われる予定だ。

先ほどまで会場の至る所で煌びやかに輝いていた魔道具のシャンデリアは今は輝きを潜めてステージ上の照明の魔道具は煌々と光っている。

こういった部分部分で見ると魔道具の技術ってのは俺の元居た世界でも十分通じるなと思う。


「オークションを開催するにあたりまして特別ゲストの登場です。」


俺の前振りが終わるとドラゴンドレスを身にまとったレディア、いやセレンディア女王がステージ上に現れる。

本当はもっとちゃんとした登場を宰相と考えてはいたんだけどこのわがまま、もとい寛容な女王陛下がこれが良いって言ったんだよね。

貴族の方々から反感を買わないか本気で不安ではある。

しかし、貴族の人たちって凄いね一瞬ざわついたがすぐに落ち着いて頭を下げている。


そうした俺の気持ちを露とも思わないレディアは俺からマイクを受け取ると堂々とステージの中央に立った。


「皆の衆、面を上げて楽にせよ。本日は楽しい祭り故に堅苦しくする必要はない。さて、今日並ぶのは北部にある荒地の多種族が作り上げた数々の品だ。会場の入り口に出品予定を並べておいたので見た者もいるとは思うが彼らのそのままの品もあれば今、余が身に着けているように公国向けに作り上げた品もある。その件だがイサナ、全部話してよいのだな?…うむ。当事者の一人であるイサナの許可が出たからこの場で話そうと思う。まず、皆の衆も今日この場にこれほどリザードやラミア、ドワーフ達がいることに驚いていると思う。そして過去のオークションに参加したことある者なら彼らの品が出ると聞いてはいても1品や2品程度で全て彼らの品というのは考えていなかったと思う。その背景として公国と北部の連合の間に通商条約を結ぼうという話が浮上した。それを持って来たのがここにいるイサナだ。また、この話が噓偽り無いというを示すために北部の連合から人を出してくれており今回のオークションの運びとなった。故に今日出品される品はいずれは買えるかもしれぬ。だが、最終的に結ぶかどうかは今この街から伸びている新街道が完成する時に決定するので今すぐに買えるようになるわけでは無い。それまでの期間で我々公国と北部の連合が互いを知る必要があるのだ。その先駆けがこれからの品である。是非とも皆には手に取ってもらい是非北部の技術を知って欲しい。余からは以上だ。」


レディアの話が終わると会場から一斉に拍手があがる。

ここから見る限り喜んでいる人8割戸惑っている人2割といった感じか。

ただ腹芸の特異な貴族もいるだろうしそれ通りとは言えないとは思う。

とりあえずこの件は置いといてまずはオークションスタート!


・・・

・・


「次はこちら、ラミアが作った魔導具の杖です。火と風と地の属性に相性が良く威力の増加や消費魔力の軽減があります。こちらは銀10からスタートです。」


「銀15!」

「銀20!」

「銀23!」


オークションは順調に進んでいる。

オークションの司会進行役であるオークショニア競売人にはロダンさんがついてくれたので俺は今舞台袖に戻っている。

やはりこの国の最大の商会を作り上げたロダンさんが出ると買う側も安心できるしオークションにも箔が付く。

各種族が作った宝飾品は飛ぶように売れ、リザード族が作っている陶器など売れるか怪しかった物も全部売れている。

詳しくは知らなかったが陶器マニアがいるらしくその界隈では垂涎の品を作る職人の品だったらしく落札した人はガッツポーズを決めていた。


「銀100!!」


「…ほかにいらっしゃらないのであれば終了いたしますがよろしいですか?…いらっしゃらないようですので落札です。どうぞこちらに。」


「さっきからあの人リザード族とかラミア族の魔導具系全部買ってないか?」

「買ってるね。でもあの人なら周りも納得しちゃうからね。」

「ヴィオラの知ってる人なのか?」

「一方的にだけどね。彼女は魔法学院の学院長だよ。その彼女が買い占めてるって事は優秀なんだろうね。」


見立て通り見た目よりも能力で選ぶといった人からは評価が高いのか。

リザードとラミア達が昔に魔法が使える貴族たちに売り込みに行って失敗したらしいとは聞いてたがしっかり売れて良かった。

正直見た目に関しては俺も擁護できないしな、動物の骨とか牙とか使ってるから魔導具よりも呪具って言われそうだし。


「ドラゴンドレスも落札されたようだよ。」

「といっても札を上げたのがすぐ上げたお嬢ちゃん一人だけか。やはりデザインを攻めすぎたんじゃないか?」

「それもあるけど来てるのがレディアってのが分が悪いよ。あんな衝撃的な体と比較されるかもしれないとなるとボクだって躊躇するよ。」

「という事は俺は逆にあのお嬢ちゃんの勇気を称えるべきか。」

「そうだと思うよ。というよりも主の方が若いんだからお嬢ちゃんって違和感が凄いよ。」

「あぁ、まぁ、それに関しては置いといてくれ。」


「次の商品はこちらのベストです。最上位タイプになりますのでカービング飾り彫りにて前面と背面にご希望の模様を入れることが出来ます。こちらのサンプルでは背面にドラゴンを描いておりますがご希望であれば家紋なども対応できます。それでは銀10からスタートです。」


「金1!」

「金3!」

「金5!」


「まてまてまて、なんであんなにヒートアップしてるんだ!?」

「やはり余の読み通りであったな。実は前々から話しは広がっていたのだ。イサナやロッソ男爵の着ているベストはどこで手に入るのかとな。」

「そうなのか?俺にそんな話は全く来てなかったぞ。」

「それはそうだとも。このオークションで出ると余が話しを広めさせたからな。2人とも無地ではあるが艶やかな光沢を持つそのベストはこの街の男性貴族の待望の的になっていたのだぞ。それの最上位タイプで家紋も彫り込めるとなると己の家の力を示すにはうってつけだ。目の色を変えて求めるだろうな。」


ヒエェ…

俺はちょっと貴族について甘く見ていたのかもしれない。

このベストは金25で落札され、この後出てきた靴は金23で落札された。


この後は少し休憩をはさんでメインとなるドワーフ製の武具となる。

命の危機がそこかしこになる世界なだけに武具への関心は元の世界の比じゃない。

それに元々公国などに流れるドワーフ製はの武具はドワーフ向けに造っていたのを使いやすいようにニンゲンが手を入れた物だ。

だが今回は元々ニンゲン向けに造られているので使いやすさなどは段違いだろう。

ただ、飛び交う金額が一気に変わるんだろうなぁ…

胃薬とかどっかにないかな。


「それではオークションを再開します。」


ロダンさんの言葉で会場がピリつきだした気がする。

参加希望自体はそれほど多くなくステージの前で間隔をあけて座っておりその後ろにはギャラリーが並んでいる。

気配なんて全く分からない俺でも肌で感じるほどなのだからこの人たちの本気が良く分かる。

分かるのだが、この空気だけで俺は倒れそうだ…


「まずは説明からはじめさして頂きます。現在ステージ上にある武具たちが本日出品する分全てになります。こちらに置かれております武具は全てドワーフの親方クラスの職人たちが仕上げた最高級品でございます。今後の為にも説明させていただきますと露店で販売しておりましたのが半人前以下の品、オークション前にデモンストレーションにてお見せしましたのが一人前以上の品になります。それを踏まえてなお全て金1から開始いたします。それではまずはこちらの片手斧からスタートです。」


「金50!」

「金70!」

「金100!」


この後はもう凄かった…

金と金で殴り合う戦いと言えばいいのか…

飛び交う金額、轟く大声、勝利の雄たけび、敗者の絶叫…

これがお貴族様のオークションなの?

そう思っても仕方ない光景だった。

最終的に出品数では一番数が少ないこの後半が前半とほぼ同等の稼ぎだったのだから恐ろしい。

とりあえずここの武具を手にした人はその力を正しいほうに使って欲しい。

そうして何とか無事にオークションは終わりを告げた。


ただ、招かれざる客というのはいるもので。

奴がやって来たのはオークションが終わってひと段落した時の事だった。

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