学園都市祭開催・4日目(中)オークション開催
日も暮れて貴族が続々と集まって来る。
先ずは料理で御もてなしという事で整えられたテーブルの上には沢山の荒地の御馳走が用意されており下位の貴族が懇意している爵位の高い貴族たちに料理の説明や感想を述べている。
また、特別に用意したバーカウンターではドワーフが料理に合うカクテルを作ってくれていてドワーフ達が酒好きというのは知っていてもここまで酒に精通しているとは思ってもいなかったらしく多くの貴族が驚いている。
驚きと言えばこの会場でもライブクッキングをしておりリザードやラミア達が豪快に肉を焼いてみる人を楽しませている。
おお!今、炎が肉を包み込んだけどラミアの魔法かな。
「ああ、店長殿。先日はご迷惑をおかけしました。ご招待を頂いたので参上しましたが場違いではないでしょうか…」
俺に声をかけてきてくれたのは露店で剣を買おうとしていた剣士の男性だった。
一張羅で精いっぱいのおしゃれをしてきたのだろうが流石に周りが貴族ばかりだとなると不安でいっぱいの様だ。
「これはこれはよくお越しくださいました。どうぞこちらに。露店では置けない上質な物ばかりご用意しておりますよ。」
剣士を連れて販売ブースに向かうとそちらを見ている貴族たちはいるがまだ近寄ってはいなかったのでドワーフの3人衆が暇そうにしていた。
「件のお客さんを連れ来たからちょっと見繕ってくれないかな。」
「おお、酋長が言ってた剣士か。」
「良いガタイじゃな。」
「何出してもいいんじゃったか?」
「うん。良いよ。何なら一式でお願い。」
俺の言葉にギョッとする剣士だったがドワーフ3人衆に持ち運ばれるかの如く連れていかれた。
ドワーフ達はそのまま遠慮なく全身を触ったり叩いたり握手をしたりして俺にはよくわからない調べ方を一通りすると剣士を着替えコーナーに運び込みそこに見繕った武具を持って行った。
しばらくして着替えコーナーから剣士が出てくると金属の薄板をつなぎ合わせて作るラメラーアーマーに柄は長いが刃渡りは1mぐらいの片手にしては長いし両手にしては短い両刃剣を持って来たがあれはどんな分類なんだろう。
「あの剣はバスタードソードっちゅう種類の剣でな片手剣と両手剣の合いの子みたいな剣じゃよ。片手剣にしては長いし両手剣にしては短いから中途半端とか言うヤツもおるが腕の良い剣士が持つと切り替えが出来て戦闘の幅が広がる玄人向けの剣じゃよ。」
「鎧を板金のプレートアーマーにせずにラメラーアーマーにしたのは機動力を殺さんためじゃぞ。あの男ガタイが良いのに技巧派の剣士の様じゃからな足を使えんとせっかくの技が使えんじゃろう。」
「力押しの剣士じゃったらプレートアーマーにクレイモアとか持たせたんじゃがあの剣士でそれをするとあまり大成せんじゃろうからな。なかなか面白い客じゃったわい。」
ドワーフ3人衆が戻って来て俺に選んだ理由や感想を言う。
握手したり全身触ったり叩いたりするだけでそれだけわかるってドワーフって凄いな。
俺だったらそんなこと絶対わからんぞ…
「店長殿。見繕っていただいたのに流石にこれだけの品を買うお金は持ち合わせていないのですが…」
「そうでしょうね。でしたら少し協力をしてただけませんか?そしたら割引致しますので。」
「それはありがたいですがいったい何をすればよいでしょうか?」
「やってもらうのは露店でしていただいたのと同じ試し切りですよ。ギャラリーが前回とは少し変わりますが剣士さんの腕なら問題でしょうから。」
「試し切り程度なら構いませんよ。こちらも選んでいただいた剣を試してみたいですし。」
剣士からOKが出たので早速試し切りの準備をすることにした。
持って来てくれたのは巻き藁と革鎧。
に、ドワーフ3人衆が用意させたこの学園都市の警備兵で使われている鉄鎧。
流石に鉄鎧を斬れるとは思わないし貫かせるのかな…
とりあえず準備できたので俺は声を大きくする魔道具を使ってドワーフの武器を使った試し切りのお知らせする。
さっきまで見るだけだった貴族を筆頭にゾロゾロと集まって来て気づけばかなりの人数がいた。
流石にこれだけの貴族が見ていると緊張するのか剣士も少しぎこちない様子だったがドワーフ3人衆が何か声をかけているのが見えた、アドバイスか何かかな。
剣士が出てくるとパチパチと少しの拍手が起きたがすぐに止んだ。
そして、巻き藁の前に立つと踏み込みもせず片手で持った剣で袈裟斬りからの逆袈裟斬りで瞬時に2度斬ったことでギャラリーから歓声があがった。
次に用意された革鎧が男の前に置かれると流石に踏み込んだが同じように片手持ちで見事に斬って見せた。
これには歓声どころか拍手までついて見事に盛り上がった。
最後に鉄鎧が前に置かれるとギャラリーも少しざわつく。
所々から「さすがにこれは…」「斬るんじゃなくて突くのでは…」などが聞こえた。
俺もこの意見には賛同する。
両刃剣は突きも出来るのが売りだしね。
だけど剣士はバスタードソードを両手を持つと裂帛の気合と共に踏み込み斬りこんだ。
キィンと金属と金属が擦れる音がしたと思うとそのまま鉄鎧は真っ二つになりガシャンと音を立てて落ちた。
これには先ほどとは比べ物にならないぐらいの大歓声と拍手が巻き起こり剣士を称える声も聞こえる。
俺もこの結果には驚くしかない。
反りのついた刀なら兎も角、いや刀でも鉄鎧を斬るのは無理でしょ。
それを直剣のバスタードソードで斬るとかドワーフの技術がヤバいのか剣士の腕前がヤバいのか全く分からん。
やっぱりファンタジー世界ってヤバいわ…
その後は剣士の活躍のおかげで販売ブースも貴族でごった返す事になった。
ドワーフは勿論だけど剣士にもいろんな人が声をかけていてすごい事になっている。
そして、高額なドワーフの武具も飛ぶように売れていくので改めて貴族の財力の恐ろしさを感じる。
とりあえず落ち着いたら剣士に武具はプレゼントするって伝えてあげよう。
ここまで売れたら値段以上に働いてくれたしね。
◆◆◆
【バスタードソード】
戯曲・バスタードソードで一躍有名になった剣。
もともと固有の剣の名前ではなく片手剣と両手剣の中間に位置する剣の事であった。
扱いが難しくあまり人気のあるタイプではなかったが腕の良い者が持つと戦い方の幅が増える玄人向けの剣であった。
この戯曲はオオイリイサナが学園都市で開かれているオークションに初めて主催で参加した時にドワーフ製のバスタードソードを用いて鉄の鎧を斬って見せた剣士を見ていた戯曲家が自らの家に仕官を誘いその後の活躍を間近で見た事を書いた作品であるためか非常にリアリティあふれる演技描写が原本に書かれているのが特徴。
剣の腕はいいがうだつの上がらない青年が名も無き名剣に出会いオークション会場での試し切り、仕官して直ぐのオークション会場からの帰り際の大立ち回りから貴族の娘への結婚と己の腕で立身出世していく物語として当時の市民から非常に人気を博していた。
後にこれを見たオオイリイサナが彼がいたからドワーフの技術は本物だと証明できたと語っている。
『世界戯曲大全』より抜粋
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